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DATE : 2008/03/30 (Sun)
何か書くことあったような気がするんですが、いざ更新というときにはすっぽり忘れている始末。

ん~……なんだったかな。

まぁ、忘れるということはたいした話でもないということで、そんな感じで。

ではまた。

前回はこちら
森園生の変心:10

「それで放っておくのは、いささか問題があるかと思いますが……」
 その日は一日中機嫌が悪かったハルヒの不機嫌オーラに晒されて、針のむしろでストレッチをさせられているような気分を味わいながら団活が終了した後、俺は昨日と同じように鶴屋さんを自宅まで送り届け、これまた昨日と同じように残業らしからぬ鶴屋家での家事手伝いに従事することとなり、同僚……というよりは俺の教育係の先輩と言うべき森さんに学校で起きたことを追求されるがままに白状していた。
 何故にそんなことを報告しなければならなかったのかと言えば、それはやはりハルヒが原因に他ならない。
 あいつが不機嫌になるってことは、イコール閉鎖空間が発生するかもしれないということであり、そのとばっちりは古泉のみならず、森さんや『機関』関係者にまで及ぶ。
「でも、閉鎖空間は発生しなかったんでしょう?」
「…………」
 そんな軽口を叩けば、軽く睨まれた。
 いや、発生してないことは発生してないはずなんだ。そもそも今日の放課後、部室では古泉がのほほんとした態度でお茶をすすりながら俺とボードゲームでバトルを繰り広げていたわけだし、口やかましく何かを言って来たわけでもない。
 ハルヒもああ見えて自制心が強くなったのか、それともあいつが持っているという唐変木パワーも安定してきたのか、平和であったことは間違いない。
「確かに発生こそはしませんでしたが」
 ふぅっ、と呆れたような溜息一つ。
「あなたは、閉鎖空間を発生させないように、ということだけに注意して涼宮さんに接しているのですか? 腫れ物に触れるように」
「まさか」
 あの気が滅入るような灰色空間が発生して右往左往するのは『機関』の方であり、正直なところを言えば俺には関係がない。古泉の話では『機関』のエスパー軍団が《神人》に負ければ世界は作り替えられ、そうなると他人事ではなくなるのかもしれないが、そうなったとしても一般人代表たる俺には「世界がひっくり返った」と自覚できるかどうかも怪しい。
 ただ、古泉たちがハルヒのご機嫌取りに精を出しているようなので、俺もその邪魔をしないようにとしているだけだ。だからハルヒがケンカをふっかけてきて俺の逆鱗に触れるような真似をすればしっかり買うし、それによって特大級の閉鎖空間が発生しても知ったことか、という気分になるだろう。
 だいたい、腫れ物に触るようにハルヒに接しているのは古泉や森さん、それに『機関』の連中の方だと思うんですけどね。
「そうです。わたしたちが何より恐れているのは閉鎖空間の発生と《神人》です。故に、わたしたちが涼宮さんに接するときは、どうしても畏れ敬うような態度になってしまいます」
「相手はハルヒですよ?」
 あいつ相手に卑屈になることはないだろう……と、俺なんかは思ってしまうわけだが、森さんにとってはそうじゃないってことか?
「そうですね。確かに涼宮さんのことです、そういう態度をされるのは本意ではないでしょう」
「だったら、」
「けれど、わたしたちにはそうはできないモノがあります。『機関』という組織に身を置き、閉鎖空間という世界を一変させてしまう力を持つ存在だと涼宮さんのことを認識してしまっている以上は……そうですね、本能の部分に畏れ敬う気持ちを植え付けられているのかもしれません。涼宮さんから力が消えるまで、あなたのように接することはできないかと思われます。それはわたしや古泉などの『機関』関係者のみならず、朝比奈さんや長門さんにも当てはまるでしょう。ですから、あなただけは、涼宮さんを普通の女性として接してあげてください」
 などと言って、人の鼻先に白くて細長い指をビシッと突きつけられても、俺はただただ困惑するしかない。
 森さんがそんなことを言うまでもなく、俺はハルヒをそんな目で見ちゃいないし、絶対不可侵の現人神のように接した覚えもない。後先考えず脊髄反射で面倒を巻き起こす困ったヤツのせいで右往左往してたまるか、と常々思っているわけで、そんなふざけた真似をさせてたまるかという思いから、あいつがやろうとしている常識はずれなことをたしなめているに過ぎない。
 だから、ハルヒが言い出すことでも、世間一般の常識と照らし合わせて激しく逸脱してないことであれば、普通に乗ってやってるし、他の奴らと変わらない態度を取っている。
「でしたら、今日の対応はあまり感心できるものではない、と思いませんか?」
「えー……っと」
 なんともなしに、今日の森さんはいつもの森さんと違うような気がする。別人がなりすましているって意味ではなく、いつもの一歩後ろに引いたような、メイド気質が身に染み付いているような態度ではなく……なんだろう、俺は長男だからわからんが、酸いも甘いも噛み分けた姉に、とつとつと諭されているような気分になってきた。
「何か、いつもと違いますね」
「今は状況が違いますもの。今のわたしは鶴屋家のメイド。あなたとは同僚ということになりますので」
 つまりTPOを使い分けてるってわけですかそうですか。
「でもあれですよ。俺はただ、ハルヒが挑戦的な言い方をしたから受けて立っただけで、そうしたらあいつが理不尽にキレただけじゃないですか」
「問題はそこではありません」
 違うのか? 俺はてっきりそこに問題があるからこそ、森さんはあれこれ苦言を呈しているのだとばかり思っていたんだが。
「涼宮さんが口に出す言葉と、心の奥底に本人さえ自覚してないであろう本心の部分は、違うものです。今は確かに恋愛事に興味がなく、あまつさえ結婚などというのは遙か先のことで、するつもりはないのかもしれません。だからと言って、それを真っ向から、しかもあなたが否定してしまうのは、失言かと思われます」
「なんで俺が否定しちゃダメなんですか」
「あなたでなくとも、男性が女性に対して『おまえは結婚できない』と申しますのは、感心できません」
 ……言われてみれば確かに……って、待て待て。確かに森さんが言うように、あのときの俺の発言は冷静に考えれば失言以外の何ものでもないが、俺だってハルヒに似たようなことを言われてるんだ。それはいいってことはないだろう。
「確かにおっしゃるとおりです。けれどわたしはその場におりませんでしたので、涼宮さんの発言が本心かどうかは存じません。方や、あなたの発言は照れ隠しというよりも本心で口にした言葉との印象を受けましたが」
 そりゃあ、俺がハルヒに対して照れを隠さなくちゃならん理由はないわけで……って、じゃあ何だ、森さんはハルヒの発言が俺に対して何かしらの照れがあったと、そう思ってるわけか?
「さて、どうでしょう」
 くすくすと笑みを転がす森さんは、どこかしら楽しんでいるようでもある。
「今さらではありますが、涼宮さんに悪態を吐かれたときにあなたが返す言葉は『いざとなったらおまえが俺と結婚してくれ』と言うのが、相応しいものだったかもしれませんね」
 ……勘弁してください。いやホントに。
「あら、そうですか? 他の皆様方はどう思われるか存じませんが、少なくともわたしは祝福いたしますよ。幸せな結婚には、祝福が必要ですもの」
 いや、森さんに祝福されても、だからって残りの人生、ハルヒのワガママに振り回され続けるのは勘弁したい。
 だいたい、何でこんな話になってんだ? 俺はただ単に、結婚を間近に控えた女性の心理を知りたかっただけなんだけどな。
「幸せな結婚には祝福が必要ですか」
「女性の場合は特にそうなのではないでしょうか。当人同士が幸せならそれでいい、という考え方もございましょうが、女性はメンタル部分に比重を置くものです。やはり、親族や友人にも祝福されたいものでしょう」
「鶴屋さんもそうなんですかね?」
「え? ああ……」
 やや無理やりに、俺が当初の目的としていた方向に話を正せば、森さんは虚を突かれたように言葉を濁して、らしくなく視線を流した。
「そうかもしれません。ですから、あなたも祝福してくだされば、お嬢様も喜ばれると思います」
「鶴屋さんが納得して自分で決めたのなら、もちろん祝福しますよ。否応もありませんしね」
「納得……そうですね、お嬢様が納得なさって決めたことであるのなら、それが一番いいことなのでしょう」
 はて? これは俺の目がどうかなったのか、それとも単なる勘繰りすぎなのか……祝福してあげてくれと言っている森さんの方こそ、何故か祝福してないように見える。
「何かあるんですか、鶴屋さんの結納には」
「と、申しますと?」
「いや、なんとなくそんな気がしたんですが……違います?」
「さて……おっしゃる意味がよくわかりません。ああ、食器洗いが済みましたら、今日はもう上がられて結構です。御苦労さまでした」
 さらりと俺の問いかけを一蹴して、森さんはゆるゆると調理場から出て行った。

つづく
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★無題
NAME: kito
森園生の変心を恋心と間違えてた自分は終身刑ですか?
2008/03/30(Sun)17:49:29 編集
確かにちょっと紛らわしい字面ですねw
ちなみに変心とは、考えや気持ちが変わることです。そのまんまですなぁ。
【2008/03/31 00:58】
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