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DATE : 2008/03/10 (Mon)
犬居さんのところで開催されていた絵チャの終盤ごろにちょこっとだけお邪魔させていただきました。5:30ごろに入ったんだっけかな? 4:30ごろ? よく覚えてないですが、そのくらいの時間に。

開始直後や0時くらいのピーク時間には人が多くて大変だろうなぁとの目論み通りだったみたいで、絵の描けない自分は人が引く明け方狙いで行った方がいいだろ、と考えて正解だったみたいです。寝起きでスッキリした頭で入った自分は、ほぼ徹夜状態でほどよい感じに脳内麻薬が出まくってる周囲の流れを(゚Д゚)とした面持ちで眺めておりましたけれども。

なんであれ、おかげさまでこうして日記のネタができ……てないか。終盤なので、あまり多くを語らない方がテキを作らずに済みそうです。

それではまた明日……あ、今日はSSあります。今日更新しとかないと、次はいつになるかわからないもので。
今回の話は、つまりこういう直球な話なんです。

ではまた。

前回はこちら
森園生の変心:二章-b

「そういやキョンくんさっ」
 会話が途切れ、それはもしかして俺のせいかと不安になり始めた頃、ふと思い出したように鶴屋さんが呼びかけてきた。
「この後、どーするのさっ」
「この後?」
 というのは、つまり鶴屋さんを自宅まで送り届けた後の話だろうか。
 俺の仕事は鶴屋さんの学校でのお世話ということになっており、このまま自宅まで送り届ければ業務終了だ。その後にどうすると聞かれれば、帰りますと答えるのが妥当なところだろう……が、もしまだ何かやることがあるのなら、それを断るつもりはない。
「何かあるんですか?」
「んにゃ~っ、これってのはないけどさっ。来てくれるっつーんなら、やることはあると思うよっ。あれだよほらっ、残業ってやつっさ! ちゃんと残業代は出すしっ!」
 残業か。言葉が持つイメージとしては、できることなら遠慮したいと思うことかもしれない。が、そこを抜きに考えれば、ちゃんと働いた分だけ賃金が貰えるようだし、悪い話でもない。
 そして何より、仕事を名目に鶴屋家の敷地内に足を踏み入れられた上に、自由に動けるってのは願ったりだ。
「じゃあ、お願いしますよ」
「おっ、やる気マンマンだねっ! んじゃーっ、このままウチまで猛ダッシュだ! がんばれ、キョンくんっ!」
 承諾すれば、鶴屋さんにせっつかれてもっとスピードを出す羽目になった。俺としても、そうと決まればのんびりしているつもりはない。
 鶴屋さんの家でも働けるのなら、そこにいる森さんと話をすることもできるだろう。いったい何を考えて鶴屋家のメイドなんてやってるのか。そもそも、昼間に古泉が言ってたことの真意はなんだったのか。
 森さんと話ができるのなら、すべてを語ってくれずとも多少なりとも探ることはできるそうだ。もしできなくても、それならそれでいい。
 ただ、話を聞けるなら聞いておきたい。聞けないなら、じゃあいいや。
 そのくらいの気にかけ方だったのさ。
 そのときまでは。


「おかえりなさいませ、お嬢様」
 きっかり四十五度のお辞儀をしながら、慇懃な挨拶で森さんが出迎えてくれる。連絡した覚えはまるでないのだが、こっちが戻ってくるタイミングがわかっていたかのように門前で待機していた。
「たっだいま! 森さんっ、キョンくんがうちでもちょろんっと働いてくれるっつーからさっ、作業用の服とか、やることとか、いろいろ教えてあげちゃってよっ!」
「あら、そうなのですか」
 鶴屋さんにそう言われ、荷物を受け取る森さんは、やや大袈裟とも取れる驚きを表しながら俺を見る。そこまで仕事熱心な俺に驚いたのか、それとも俺がそういう行動に出ることは予測済みだったのか、さて、いったいどっちだろうな。
「では、彼をしばらく預からせていただきます」
 思惑通り……と言えば何か策を弄した結果が狙い通りになった、というニュアンスに聞こえるかもしれんが、ただ自分の立場と場の状況から推測すれば導き出されるであろう展開通りになったのだから、それはやはり思惑通りなんだろう。新米家事手伝い人の俺の教育係は、森さんで決定らしい。
「それとお嬢様、土曜日の件につきまして、旦那様がお呼びになられております」
「うぇっ、そうなの?」
 土曜日? そういえば、その話を鶴屋さんから聞きそびれたままにしている。
 土曜日と言えば、まだ先のことで未定だが、ハルヒの気分次第で市内不思議探索が行われる日だ。他の日よりも、催される確率はでかい。
 もし土曜日に何かあるのだとすれば、鶴屋さん専属の執事という立場になっちまってる今の俺も、是非、聞いておきたいところだ。いざ当日や前日に『来てくれ』と言われても、市内不思議探索とかぶってしまっては身動き取れないしな。
 ただ、そのことは鶴屋さんもわかっているはずだ。なのに今の今まで何も話してくれないってことは、俺がいなくても平気な話なのかもしれん。
 ただ……。
「んじゃ森さんっ、キョンくんのことは任せたよっ! キョンくんっ、あと頑張ってねっ!」
 かしましくそう告げて、鶴屋さんは足早に屋敷内へ入っていってしまった。
 その様子だけを見ればいつも通りなんだが、森さんから言伝を受け取ったときの様子はちょっと違う。鶴屋さんにしては珍しく、辟易しているようだ。そこはかとなく醸し出す雰囲気が、面倒で厄介な出来事と思いつつも避けて通れないという、まるでハルヒ絡みの厄介事に直面した自分の姿と重なって見える。
「では、こちらへ」
 そんな様子に気を取られていれば、森さんに誘われて鶴屋家の屋敷内にある従業員用の更衣室っぽいところへ通された。よもや一般家庭にこんな部屋があるのかと驚きを禁じ得ないわけだが、そもそも家事手伝い人を雇うという時点で一般家庭と掛け離れており、どこぞの事務所の更衣室みたいな部屋は必要に迫られて作られた部屋なんだろう。
「仕事を始められて初日が過ぎましたけれど、如何でしたか?」
 俺の作業服をロッカーの中から選びながら問いかけてくる森さんの言葉に、俺はひょいと肩をすくめて答える。
「鶴屋さんの送り迎えが加わっただけで、いつもと変わらない感じですよ」
「それは結構なことです」
「俺にとっても願ったり叶ったりですが、逆に仕事がこんなのでいいのかって思いますよ」
「それでよろしいのではないでしょうか。毎日続くと思われていた日常が限りあるものだとわかった今、お嬢様にとっても貴重な時間であると思われます」
 日常が……限りある? それは……ええっと、どういうことだ? 物凄く違和感のある言い方じゃないか。
「そういえば、今度の土曜日は如何なさるのですか? やはりあなたも屋敷へいらっしゃるのかしら?」
「ちょっと待ってください」
 また土曜日か。土曜日に何があるんだ? 俺はまったく何も聞いてないぞ。
「あら、そうなのですか?」
 そう答えれば、森さんは驚きと困惑が入り交じったような表情を浮かべて見せた。俺が土曜日の用件とやらを聞いてると思っていたのか、そうでなかったことに戸惑いを感じているらしい。
「いったい何があるんです?」
「そうですね……お嬢様が何も語らなかったということは、あなたに知られたくないとお考えなのかもしれません。わたしの口から告げるのも如何なものかと思いますが……ただ、あなたも家事手伝いとして従事していらっしゃいますし、知らぬままとはいかないと思います」
 そんな前置きをして、森さんはさらりと、それでいてとんでもないことを口にした。
「今週の土曜日に、お嬢様のご結納が執り行われます」
「ゆい……はぃっ? 結納!?」
 待て。待ってくれ。なんだって? 結納だって!?
 結納ってのは、あれだ。ほら、あれだよあれ。ええっと、そう! 結婚の一歩手前のことじゃないか。いわゆる「結婚しますよ」ってことを個人の間だけではなく、両家そろってそれを認めるっていう儀式だ。だよな? 確かそうだったはずだ。違うかか?
 ともかく結納ってのは、結婚に直結する事柄であり、それが今週の土曜日に行われるだって? しかも鶴屋さんが!?
「あの、それって……鶴屋さん自身も把握してること……なんですよね?」
「お嬢様のご結納ですから、その通りでしょう。先ほど、旦那様がお嬢様をお呼びしたのも、その関係ではないかと……あら、主のことをあれこれ詮索するのは、いささかはしたないことですね。お忘れください」
「いや、そんなことより……本当のことですよね、それ?」
「はい。ですからわたしもこちらで臨時にメイドをしておりますので」
 鶴屋さんの結納があるから、森さんがメイドを? そうすることの繋がりもまた、よくわからん。
「そうですね……」
 森さんはしばし考えるように手を口元に当てて、俺をちらりと見る。
「古泉からどの程度、わたしたち『機関』のことを聞かされているのか把握しておりませんが、鶴屋家が『機関』の間接的なスポンサー筋のひとつということはご存じでしょうか」
 それは知っている。バレンタインのときに、鶴屋さんに朝比奈さんを預けたときにふらりと現れた古泉が、さらりと途方もない裏話を延々と垂れ流していたからな。
「その鶴屋家の次期当主たるお嬢様の結納です。『機関』として何もしないわけにもまいりません。かといって、鶴屋家と『機関』の関係性は秘匿されております。公にできないのであれば、冬の旅行で多少なりとも接点が生じたわたしが、無事に結納が済むまでお側で仕えましょう、と。そういうことになりまして」
 なるほど……それで森さんが鶴屋家でメイドなんぞをしている理由がよくわかった。そして何より、森さんが働いていることで鶴屋さんの結納話は嘘や冗談ではないと理解できた。
「その話……この屋敷外で知ってる人ってのは……?」
「さて、どうでしょう。お嬢様があなたにさえ話していないとなれば、朝比奈さんや涼宮さん、また親しいご友人にも話されてないのでしょうね。ただ、古泉は別でしょう。彼もまた、『機関』の一員ですので」
 ああ……そうか。この話は古泉だけは知っていたのか。だからあいつは、俺が実際に鶴屋さんのところで働くことになって、渋い顔を見せていたわけだ。
 もしかすると、この話は本当に身内だけの秘密なのかもしれん。そこに俺が加わり……もしかして古泉の野郎、俺が自分から鶴屋さん結納の話に関わろうとしているのを止めようとしていたんだろうか。
「この話はご内密に。あなたが結納の件を知っていることも、お嬢様に確認なさるようなことはしないように、お気をつけください」
 そりゃな、確かに事は重大で、鶴屋さん自身がハルヒや朝比奈さんにさえ話していないことなら、ほいほい口外するわけにもいかない。
「でも、鶴屋さん自身にも、ですか?」
「ご自身の立場をお忘れなきよう、お願いいたします。わたしたちは鶴屋家の家事手伝い。主の家庭の内情に深く干渉しないのがルールです」
 ああ……なるほど、確かにその通りだ。鶴屋さんから結納の話をされたら別だろうが、そうでないのなら黙して語らずが鉄則だろうさ。
「なら何で、森さんはその話を俺にしたんですか」
「それは、世間一般の企業でもごく普通にあるような、給湯室での四方山話と同じようなものです。同じ職場で働く者同士の情報交換みたいなもの……と、お考えください」
 やれやれ……情報交換するのなら、もっと心の中に止めておいても重荷にならないような、気軽な世間話にしてほしかったもんだ。

つづく
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