category: 日記
DATE : 2008/04/23 (Wed)
DATE : 2008/04/23 (Wed)
前回にSS更新したのっていつだっけ? 4/11かしら? ずいぶんと間が空いてしまいました。
仕事の忙しさもあったわけでして、それは今も継続中なのですが、今回の話は最後にたたみ掛ける系統の話でもあるので、ラストは最後まで書き上がってからがいいかなーと考えていたわけです。
で、実際に仕事の合間に進めてみてみれば、まぁそうでもナイナァ、と。いえ、まだ最後まで書き上がってるわけではないのですが。というか、タイトルをもう少しちゃんと考えればよかったと今になって思っていたり……
なので、ちょこっと続きをUPしておきます。今回上げたところよりも書き進んでいるわけですが、あまりに長くなりすぎてもアレなので。
おそらく、この展開はある程度の人は読めていたかもしれません。が、この辺りのことは話全体の中ではあまり重要ではなかったりします。
ではまた。
仕事の忙しさもあったわけでして、それは今も継続中なのですが、今回の話は最後にたたみ掛ける系統の話でもあるので、ラストは最後まで書き上がってからがいいかなーと考えていたわけです。
で、実際に仕事の合間に進めてみてみれば、まぁそうでもナイナァ、と。いえ、まだ最後まで書き上がってるわけではないのですが。というか、タイトルをもう少しちゃんと考えればよかったと今になって思っていたり……
なので、ちょこっと続きをUPしておきます。今回上げたところよりも書き進んでいるわけですが、あまりに長くなりすぎてもアレなので。
おそらく、この展開はある程度の人は読めていたかもしれません。が、この辺りのことは話全体の中ではあまり重要ではなかったりします。
ではまた。
前回はこちら
森園生の変心:17
何の予定も入っていない土日の行動として、昼頃までベッドの中でぐだぐだと惰眠を貪ることは言うまでもないことだ。もし休日に市内不思議探索が予定されていれば、学校に行く時間に起きることを強要される。けれど今日は、それよりも若干早い時間に目を覚まさなければならなかった。
今日は、鶴屋さんの結納が執り行われる日だ。そこに、俺も同伴することになっている。どうにも成り行きでそういうことになってしまった気もするが、もしかすると誰かの意図があってこういうことになったのかもしれない。
そりゃあだってそうだろう。俺が鶴屋さんの専属執事などというバイトをすることになったのは、今週初めに決まったことだ。けれど鶴屋さんの結納ってのは、それよりももっと前から決まっていたことに違いない。
そんな時期に人手が欲しいって理由はわからなくもないが、俺よりももっと動ける人間はいるだろう。森さんが直々に関わっているのだから、もう一人が新川さんでもよかったわけだしな。
なのに俺がいる。なんで俺なんだ? 誰でもよかったところに、たまたま俺が関わってきただけなのか? つまり偶然?
それはないだろう。100%ない、とは言い切れないが、考えが及ばないことすべてを偶然の一言で片付けちゃいけないってことを、俺は高校生になってから今に至る学園生活で学習したね。
偶然を必然に変えるようなヤツは涼宮ハルヒ一人で事足りている。佐々木もそれに類するらしいが、幸いにして今のところはあいつにそれらしい前兆はない。見たくもないので、このまま小康状態のままで終わって欲しい。
……話がズレたが、ともかく俺が鶴屋さんの結納に関わることになったのは偶然ではなく、そこに誰かしらの意図が介在しているんじゃないか? と思うわけだ。
それは誰だ?
最有力候補は鶴屋さん自身か。俺の雇い主であり、事の当事者でもある。口ではなんだかんだ言ってもやはり不安に思うところがあり、そこで俺に白羽の矢を立てたってことかもしれない。
が……そう結論づけるのは早計だろう。
そもそも鶴屋さんはハルヒが巻き起こしている楽しそうなこと(とは本人談だが)を見ているのが楽しいと言っている。一歩引いた立ち位置が気に入っており、そこに自分から踏み込もうとは思わない……らしい。
逆を言えば、俺たちを自分のエリアに引き込もうとも思っていないはずだ。この人はそういう人である。
だから、自分の身に起きたことにハルヒやSOS団の連中、俺を巻き込むとは思えない。
では、他に誰の意図が働いて俺はこんなところにいるんだ? やはり、これはすべて偶然の成り行きで起きていることなんだろうか?
なんてことを、一庶民である俺にはどうにも落ち着かないような高級自動車の後部座席に鶴屋さんと並んで座りながら考えていた。
今日の鶴屋さんの出で立ちは、時代を感じさせないシックなドレス姿だ。見立ては、何故か俺がやらされた。俺のセンスは他人を着飾らせるときの指針になるほズバ抜けたものではないのだが、鶴屋さん自身が俺に選べと言ったのだから仕方がない。
制服姿以外では和装っぽいイメージがある鶴屋さんに何故にドレスを着せたのかと言えば、結局のところ、和服のチョイスができなかったからってのがある。
とは言え、さすがに着ている人がいいんだろう、もしかして俺ってセンスがあるんじゃないか? と勘違いしそうなほど、普段目にする鶴屋さんとはまた違った魅力がそこにある。
もっとも、その魅力も今は少し減少しているようだ。
やはり状況が状況だからなのか、天真爛漫を地で行く鶴屋さんの表情は、俺がこの人と出会ってからの表情を脳内で再生して照らし合わせて見ても、やはりどこか強張っている。
「少し緊張気味ですね」
「へっ? あっははは! そんなこと~……そう、見えちゃうっかな?」
いつもの調子を装い、笑ってごまかそうとしたみたいだが、さすがにそれは無理と鶴屋さん自身も思ったようだ。浮かべた笑顔を引っ込めて、そんなことを聞いてくる。
「大丈夫ですよ、そんな心配することなんてありませんて。先方には先に森さんも向かってますし、そんな時間の掛かる話でもないでしょう」
こういうとき、俺が一緒にいるから大丈夫ですよ、なんて台詞を一度でいいから口にしてみたいもんだが、俺がそんなことを言ってもギャグにしかならず、そもそも客観的に状況を見ても、俺が居たところで役に立たないのは事実だ。
頼りになる森さんはすでに会場入りしており、車内は微妙な空気に包まれていた。
今回の結納は、どうも料亭で行われるようだ。どうせだったら俺が先に会場入りして、森さんこそが鶴屋さんの側に居たほうがよかったんじゃないかと思うわけだが、会場には古泉を初めとする『機関』関係者もそれなりにいるらしいから仕方がない。
昨日の古泉の話を鵜呑みにすれば、今回の結納はそういうもんらしい。俺自身も少なからず感じていることだが、橘たち『機関』の敵対勢力とやらが鶴屋さんの結納に目を付けているっぽいから、その辺りの警備の打ち合わせも兼ねて、森さんは先に行ったんだと思われる。
実際はどうなんだろうね。朝比奈さんを未遂とは言え誘拐という強硬手段にも出たような連中だ、もし何かしらの介入を試みているのだとしたら、それはとても穏便な手段とは思えない。
そんなことになれば、俺は出来る事なんて何もない。何の変哲もない一般高校生が、作り話に出てくるような秘密結社を地で行くような連中と渡り合えるとは思わないでいただきたい。
……万が一のことを考えていたら、俺も不安になってきた……。
「なんだかキョンくんの方こそ緊張してんじゃないっ?」
もしものときの荒事を想像して胃が痛くなってきた俺の表情を見て、鶴屋さんはそう思ったらしい。それならそれで、余計なことを口走らずに済みそうだ。
「鶴屋さんの相手がどんなヤツなのか、少し考えてたんですよ」
「んん~っ? それでどーしてキョンくんが不安になってんのさっ」
「そりゃだって、鶴屋さんの主人になるヤツは、つまり鶴屋さんに仕えている俺のご主人にもなるってことでしょう?」
「うへっ、上手いこと言うねっ!」
別に上手いことを言ったつもりはないのだが、鶴屋さんにいつもの『らしさ』が戻ったようで何よりだ。
やはり鶴屋さんの魅力とは裏表のない屈託さだと思う。それを出さずに結婚相手といざご対面ではマイナス要素にしかならない。
正直に言えば今の段階でも諸手を挙げて鶴屋さんの結婚という話に賛成しているわけではないのだが、立場的には上手く行くようにしなけりゃならないわけだ。そういう意味では、俺は自分ができることを果たしたんじゃないかと思う。
満足していいのかわからんが、それに近い気持ちを味わっていると、元から静かな車は止まったことに気付かない滑らかなブレーキングで停車した。
「お待ちしておりました」
こんなことでもなけりゃ俺には一生縁がなさそうな料亭の前で、出迎えてくれたのは森さん……だけではなかった。
「あっれ? ええっと、確か古泉くんが前に……」
鶴屋さんもSOS団冬合宿で一度会っている。咄嗟に名前は出てこなかったようだが、顔は覚えていたらしい。
「新川です。ご無沙汰しております」
森さんの隣に立つ新川さんは、鶴屋さんに恭しく頭を垂れて名乗った。この人が一緒にいるということは、もしかしてこの料亭にいる人間は、すべて『機関』の関係者かもしれない。橘一派が絡んでくることを前提に『機関』が動いているのなら、そういうことも充分にありえそうだ。
「そうそうっ、新川さん! んでも、何で新川さんがいんの?」
が、それはそういう理由を知っている俺だからこそ考えに至れる話であり、そういう裏事情を知らないであろう鶴屋さんは、ここで新川さんが登場することに疑問を抱いて当然だ。
ここで姿を見せるのはまずいんじゃないか? と、俺はそう思うのだが、新川さんの口から出てきた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。
「本日のわたくしめは、鶴屋さまと結納される方に従事しております故、この場に同伴させていただいております」
「えっ?」
驚いたのは鶴屋さんだけじゃない。俺も驚いた。ただ、その驚きは別物だろう。
鶴屋さんは単に「そういう偶然もあるんだね」程度の驚きだと思われるが、俺はそんな偶然なんてないことを知っている。そもそも新川さんは本業が執事なわけじゃない。『機関』の一員だ。
そんな人が従事している人物が鶴屋さんの結納相手? てことは、もしかしてその結納相手って言うのは、『機関』の一員なんじゃないのか?
「ここで鶴屋さまを立たせておいででは、主人に叱られてしまいます。まだ到着しておりませんが、先に別室の方で休まれてください。ご案内いたします」
「わたしがお出迎えいたしますので、お嬢様はどうぞお先に」
「そいじゃっ、キョンくんも出迎えてあげてよっ。気になるんしょっ?」
否応もない。鶴屋さんが何も言わなければここにいるつもりだ。さらに森さんまで残るというのであれば、ますます都合がいい。
鶴屋さんのことは新川さんに任せ、二人の姿が料亭の中に消えてすぐに、俺は森さんに声をかけた。
「鶴屋さんの結納相手は『機関』の関係者なんですか?」
「はい」
聞けば森さんは素直に肯定した。ごまかされるかとも思ったが、事ここに至れば、ごまかしても仕方がないと思ったのかもしれない。
だからといって、それで俺が納得して終わりにすると思わないでいただきたい。
「鶴屋さんの相手が『機関』の人間ってどういうことですか。まさか鶴屋さんの結納話は、すべて『機関』の筋書き通りってわけじゃないんでしょうね?」
「先方がお見えになられたようです」
矢継ぎ早な俺の質問には答えず、森さんが指さすその方向から一台の車が走り寄ってくるのが見える。
さすがに相手が見えてきたのに、森さんを問い詰め続けているわけにはいかない。相手が『機関』関係者だといっても、鶴屋さんの結婚相手であることに違いはない。出迎えの俺たちが喋っていては、鶴屋さんにいらぬ恥をかかせることにもなる。
仕方なく口を閉ざし、目の前に黒塗りリムジンが静かに停車して降りてきた相手を見て、俺は閉ざした口が勝手に開く思いを味わった。
「お出迎え、ご苦労様です」
俺の驚愕面を前にしてもなお、いつも見せている小憎たらしいほどの爽やかさで笑顔を浮かべ、古泉は呑気なことこの上ない台詞を口にしやがった。
つづく
森園生の変心:17
何の予定も入っていない土日の行動として、昼頃までベッドの中でぐだぐだと惰眠を貪ることは言うまでもないことだ。もし休日に市内不思議探索が予定されていれば、学校に行く時間に起きることを強要される。けれど今日は、それよりも若干早い時間に目を覚まさなければならなかった。
今日は、鶴屋さんの結納が執り行われる日だ。そこに、俺も同伴することになっている。どうにも成り行きでそういうことになってしまった気もするが、もしかすると誰かの意図があってこういうことになったのかもしれない。
そりゃあだってそうだろう。俺が鶴屋さんの専属執事などというバイトをすることになったのは、今週初めに決まったことだ。けれど鶴屋さんの結納ってのは、それよりももっと前から決まっていたことに違いない。
そんな時期に人手が欲しいって理由はわからなくもないが、俺よりももっと動ける人間はいるだろう。森さんが直々に関わっているのだから、もう一人が新川さんでもよかったわけだしな。
なのに俺がいる。なんで俺なんだ? 誰でもよかったところに、たまたま俺が関わってきただけなのか? つまり偶然?
それはないだろう。100%ない、とは言い切れないが、考えが及ばないことすべてを偶然の一言で片付けちゃいけないってことを、俺は高校生になってから今に至る学園生活で学習したね。
偶然を必然に変えるようなヤツは涼宮ハルヒ一人で事足りている。佐々木もそれに類するらしいが、幸いにして今のところはあいつにそれらしい前兆はない。見たくもないので、このまま小康状態のままで終わって欲しい。
……話がズレたが、ともかく俺が鶴屋さんの結納に関わることになったのは偶然ではなく、そこに誰かしらの意図が介在しているんじゃないか? と思うわけだ。
それは誰だ?
最有力候補は鶴屋さん自身か。俺の雇い主であり、事の当事者でもある。口ではなんだかんだ言ってもやはり不安に思うところがあり、そこで俺に白羽の矢を立てたってことかもしれない。
が……そう結論づけるのは早計だろう。
そもそも鶴屋さんはハルヒが巻き起こしている楽しそうなこと(とは本人談だが)を見ているのが楽しいと言っている。一歩引いた立ち位置が気に入っており、そこに自分から踏み込もうとは思わない……らしい。
逆を言えば、俺たちを自分のエリアに引き込もうとも思っていないはずだ。この人はそういう人である。
だから、自分の身に起きたことにハルヒやSOS団の連中、俺を巻き込むとは思えない。
では、他に誰の意図が働いて俺はこんなところにいるんだ? やはり、これはすべて偶然の成り行きで起きていることなんだろうか?
なんてことを、一庶民である俺にはどうにも落ち着かないような高級自動車の後部座席に鶴屋さんと並んで座りながら考えていた。
今日の鶴屋さんの出で立ちは、時代を感じさせないシックなドレス姿だ。見立ては、何故か俺がやらされた。俺のセンスは他人を着飾らせるときの指針になるほズバ抜けたものではないのだが、鶴屋さん自身が俺に選べと言ったのだから仕方がない。
制服姿以外では和装っぽいイメージがある鶴屋さんに何故にドレスを着せたのかと言えば、結局のところ、和服のチョイスができなかったからってのがある。
とは言え、さすがに着ている人がいいんだろう、もしかして俺ってセンスがあるんじゃないか? と勘違いしそうなほど、普段目にする鶴屋さんとはまた違った魅力がそこにある。
もっとも、その魅力も今は少し減少しているようだ。
やはり状況が状況だからなのか、天真爛漫を地で行く鶴屋さんの表情は、俺がこの人と出会ってからの表情を脳内で再生して照らし合わせて見ても、やはりどこか強張っている。
「少し緊張気味ですね」
「へっ? あっははは! そんなこと~……そう、見えちゃうっかな?」
いつもの調子を装い、笑ってごまかそうとしたみたいだが、さすがにそれは無理と鶴屋さん自身も思ったようだ。浮かべた笑顔を引っ込めて、そんなことを聞いてくる。
「大丈夫ですよ、そんな心配することなんてありませんて。先方には先に森さんも向かってますし、そんな時間の掛かる話でもないでしょう」
こういうとき、俺が一緒にいるから大丈夫ですよ、なんて台詞を一度でいいから口にしてみたいもんだが、俺がそんなことを言ってもギャグにしかならず、そもそも客観的に状況を見ても、俺が居たところで役に立たないのは事実だ。
頼りになる森さんはすでに会場入りしており、車内は微妙な空気に包まれていた。
今回の結納は、どうも料亭で行われるようだ。どうせだったら俺が先に会場入りして、森さんこそが鶴屋さんの側に居たほうがよかったんじゃないかと思うわけだが、会場には古泉を初めとする『機関』関係者もそれなりにいるらしいから仕方がない。
昨日の古泉の話を鵜呑みにすれば、今回の結納はそういうもんらしい。俺自身も少なからず感じていることだが、橘たち『機関』の敵対勢力とやらが鶴屋さんの結納に目を付けているっぽいから、その辺りの警備の打ち合わせも兼ねて、森さんは先に行ったんだと思われる。
実際はどうなんだろうね。朝比奈さんを未遂とは言え誘拐という強硬手段にも出たような連中だ、もし何かしらの介入を試みているのだとしたら、それはとても穏便な手段とは思えない。
そんなことになれば、俺は出来る事なんて何もない。何の変哲もない一般高校生が、作り話に出てくるような秘密結社を地で行くような連中と渡り合えるとは思わないでいただきたい。
……万が一のことを考えていたら、俺も不安になってきた……。
「なんだかキョンくんの方こそ緊張してんじゃないっ?」
もしものときの荒事を想像して胃が痛くなってきた俺の表情を見て、鶴屋さんはそう思ったらしい。それならそれで、余計なことを口走らずに済みそうだ。
「鶴屋さんの相手がどんなヤツなのか、少し考えてたんですよ」
「んん~っ? それでどーしてキョンくんが不安になってんのさっ」
「そりゃだって、鶴屋さんの主人になるヤツは、つまり鶴屋さんに仕えている俺のご主人にもなるってことでしょう?」
「うへっ、上手いこと言うねっ!」
別に上手いことを言ったつもりはないのだが、鶴屋さんにいつもの『らしさ』が戻ったようで何よりだ。
やはり鶴屋さんの魅力とは裏表のない屈託さだと思う。それを出さずに結婚相手といざご対面ではマイナス要素にしかならない。
正直に言えば今の段階でも諸手を挙げて鶴屋さんの結婚という話に賛成しているわけではないのだが、立場的には上手く行くようにしなけりゃならないわけだ。そういう意味では、俺は自分ができることを果たしたんじゃないかと思う。
満足していいのかわからんが、それに近い気持ちを味わっていると、元から静かな車は止まったことに気付かない滑らかなブレーキングで停車した。
「お待ちしておりました」
こんなことでもなけりゃ俺には一生縁がなさそうな料亭の前で、出迎えてくれたのは森さん……だけではなかった。
「あっれ? ええっと、確か古泉くんが前に……」
鶴屋さんもSOS団冬合宿で一度会っている。咄嗟に名前は出てこなかったようだが、顔は覚えていたらしい。
「新川です。ご無沙汰しております」
森さんの隣に立つ新川さんは、鶴屋さんに恭しく頭を垂れて名乗った。この人が一緒にいるということは、もしかしてこの料亭にいる人間は、すべて『機関』の関係者かもしれない。橘一派が絡んでくることを前提に『機関』が動いているのなら、そういうことも充分にありえそうだ。
「そうそうっ、新川さん! んでも、何で新川さんがいんの?」
が、それはそういう理由を知っている俺だからこそ考えに至れる話であり、そういう裏事情を知らないであろう鶴屋さんは、ここで新川さんが登場することに疑問を抱いて当然だ。
ここで姿を見せるのはまずいんじゃないか? と、俺はそう思うのだが、新川さんの口から出てきた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。
「本日のわたくしめは、鶴屋さまと結納される方に従事しております故、この場に同伴させていただいております」
「えっ?」
驚いたのは鶴屋さんだけじゃない。俺も驚いた。ただ、その驚きは別物だろう。
鶴屋さんは単に「そういう偶然もあるんだね」程度の驚きだと思われるが、俺はそんな偶然なんてないことを知っている。そもそも新川さんは本業が執事なわけじゃない。『機関』の一員だ。
そんな人が従事している人物が鶴屋さんの結納相手? てことは、もしかしてその結納相手って言うのは、『機関』の一員なんじゃないのか?
「ここで鶴屋さまを立たせておいででは、主人に叱られてしまいます。まだ到着しておりませんが、先に別室の方で休まれてください。ご案内いたします」
「わたしがお出迎えいたしますので、お嬢様はどうぞお先に」
「そいじゃっ、キョンくんも出迎えてあげてよっ。気になるんしょっ?」
否応もない。鶴屋さんが何も言わなければここにいるつもりだ。さらに森さんまで残るというのであれば、ますます都合がいい。
鶴屋さんのことは新川さんに任せ、二人の姿が料亭の中に消えてすぐに、俺は森さんに声をかけた。
「鶴屋さんの結納相手は『機関』の関係者なんですか?」
「はい」
聞けば森さんは素直に肯定した。ごまかされるかとも思ったが、事ここに至れば、ごまかしても仕方がないと思ったのかもしれない。
だからといって、それで俺が納得して終わりにすると思わないでいただきたい。
「鶴屋さんの相手が『機関』の人間ってどういうことですか。まさか鶴屋さんの結納話は、すべて『機関』の筋書き通りってわけじゃないんでしょうね?」
「先方がお見えになられたようです」
矢継ぎ早な俺の質問には答えず、森さんが指さすその方向から一台の車が走り寄ってくるのが見える。
さすがに相手が見えてきたのに、森さんを問い詰め続けているわけにはいかない。相手が『機関』関係者だといっても、鶴屋さんの結婚相手であることに違いはない。出迎えの俺たちが喋っていては、鶴屋さんにいらぬ恥をかかせることにもなる。
仕方なく口を閉ざし、目の前に黒塗りリムジンが静かに停車して降りてきた相手を見て、俺は閉ざした口が勝手に開く思いを味わった。
「お出迎え、ご苦労様です」
俺の驚愕面を前にしてもなお、いつも見せている小憎たらしいほどの爽やかさで笑顔を浮かべ、古泉は呑気なことこの上ない台詞を口にしやがった。
つづく
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[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
ここで出せるのは古泉くんくらいしかいないもので。
谷口とか出したら、それはそれで驚きの急展開でしょうけどw
谷口とか出したら、それはそれで驚きの急展開でしょうけどw
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
書きためておいたストック分があと1回あるので、24日、25日と行けそうですが、それ以降はまた闇の中という感じで( ´Д`)。。。。
早めに形にできるようにガンバリマス!
早めに形にできるようにガンバリマス!
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
4/9の日付でUPしたキョンくんと古泉くんのやりとりが、けっこうそれらしい伏線になってましたw 気付いた人は、たぶんこの辺りで気付いたかと思われますヨ。
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
キョン子ちゃんには一姫ちゃんがいるから大丈夫です!
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