category: 日記
DATE : 2008/04/24 (Thu)
DATE : 2008/04/24 (Thu)
我が家のじぇばんに(相方さん)は、外でも割と有名です。
どのくらい有名か、それがわかるたとえを自分の仕事の取引先との会話から抜粋してみましょう。
取引先「あ、もしもしにのまえさん?」
自分「あー、どもー」
取引先「今、○○やってるんだよね? それとは別に定期の××なんだけど、〆切が早まってさー」
自分「(゚Д゚)」
取引先「さすがにキツいと思うけど、じぇばんに(相方さん)いるから大丈夫だよね! よろしく!」
自分「( ゚д゚)ポカーン」
と、このくらいの知名度はあるようです。
いつのことだったか、〆切直前に自分が風邪でダウンしたときにですね、じぇばんにが激しく舌打ちしながら代わりに原稿書いてですね、版元の校正に出したら他の外注ライターさんより赤字が少なかったのがよっぽどインパクトあったみたいです。
さすがじぇばんに……。
とはいえ、上で抜粋している会話は昨日のことでして、おかげさまで楽しいことになっております。祭りです。フェスティバルです。
ホントに大号令行けるのかどうか、雲行きが怪しくなってきました……。ようやく大きな山は越えたと思ってSS更新してみたらこれだ! ゆっくりしてた結果がこれだよ!
えーっと。
とりあえず、今日、明日とSSはUPしておきます。そのくらいなら、まだストック分があるので。それ以降はまるでわかりません。
ではまた。
どのくらい有名か、それがわかるたとえを自分の仕事の取引先との会話から抜粋してみましょう。
取引先「あ、もしもしにのまえさん?」
自分「あー、どもー」
取引先「今、○○やってるんだよね? それとは別に定期の××なんだけど、〆切が早まってさー」
自分「(゚Д゚)」
取引先「さすがにキツいと思うけど、じぇばんに(相方さん)いるから大丈夫だよね! よろしく!」
自分「( ゚д゚)ポカーン」
と、このくらいの知名度はあるようです。
いつのことだったか、〆切直前に自分が風邪でダウンしたときにですね、じぇばんにが激しく舌打ちしながら代わりに原稿書いてですね、版元の校正に出したら他の外注ライターさんより赤字が少なかったのがよっぽどインパクトあったみたいです。
さすがじぇばんに……。
とはいえ、上で抜粋している会話は昨日のことでして、おかげさまで楽しいことになっております。祭りです。フェスティバルです。
ホントに大号令行けるのかどうか、雲行きが怪しくなってきました……。ようやく大きな山は越えたと思ってSS更新してみたらこれだ! ゆっくりしてた結果がこれだよ!
えーっと。
とりあえず、今日、明日とSSはUPしておきます。そのくらいなら、まだストック分があるので。それ以降はまるでわかりません。
ではまた。
前回はこちら
森園生の変心:18
そうだ、古泉だ。古泉一樹で間違いない。いつも部室で俺とボードゲームに明け暮れて、順調に黒星を増やし続けている古泉が、スーツを妙にこなれた着こなしで身にまとい、俺の前に現れた。
「おまえが……鶴屋さんの相手!?」
「おまえなどと、失礼ではありませんか。お嬢様の婚約者なのですよ」
いつもの調子で俺が古泉を指してそう言えば、森さんから叱責が飛んできた。そりゃ確かにその通りなのかもしれないが、だからどうしてこいつがそうなっちまってるんだ?
「森さん、今はまだ構いません。それに、彼には何も説明してないのでしょう? これ以上、混乱が酷くならに今のうちに、しっかりとね」
ああ、そうだ。ちゃんと説明しくれ。俺が納得できる形でな。
「それほど複雑な話ではありませんよ。今回の話は鶴屋家から相談を受けた話でもあるのです」
「相談? 鶴屋家が『機関』にか?」
「うちだけではないと思いますが。以前に話したこともあるでしょう? 鶴屋家は『機関』のスポンサー筋のひとつだと。その流れで『機関』にも話が巡ってきたというわけですよ。跡継ぎであるご令嬢に相応しい相手はいないか、とね」
「それで、おまえ?」
「ええ。僕も自分が鶴屋さんの相手に相応しいとは思いませんが、年齢も近く、ある程度の事情に精通している人物は僕しかいなかった。だから選ばれたわけです」
そうか、そういう繋がりか。何の因果で古泉と鶴屋さんが結婚しなけりゃならんのか、その理由は理解した。が、だからと言って納得したわけじゃない。
「ちょっと待て。おまえはそれでいいのか? そういう理由で鶴屋さんと結婚することになって構わないのか?」
「それが僕の役目ならば、致し方ありません」
「役目とか、そういう話を聞いてるんじゃない。おまえはそれで納得してるのか? 相手が鶴屋さんで、本当にいいのか?」
しつこいくらいに言葉を重ねて問いかければ、古泉は所在なげに自分の前髪を指でつまみながら、「鶴屋さんが生涯の伴侶となるのなら、否応もありませんね」などとほざきやがった。
「俺が聞いてるのはそういうことじゃない。おまえがそれでいいのかどうかってことだ」
「おや、今の言葉で答えになっていませんか? ……申し訳ありません、これ以上、鶴屋さんを待たせるわけにはいきませんので」
スッと俺の横を通り抜けて、古泉は料亭の中に入っていこうとする。まさかそれで話を終わらせるつもりじゃないだろうな?
「おい、待てよ古泉!」
引き留めようと延ばす俺の手は、けれど古泉を掴むことなく止められる。傍らの森さんが、延ばした俺の手首を痛いほど強く握りしめていた。
「おやめください」
「森さん……っ」
いつもと変わらず静かな物腰と態度で、けれど俺の手を掴む手は力強い。料亭内に入っていく古泉を追いかけることなど、まるでできなかった。
ええい、くそ。あの野郎、俺が何を言いたいのかわかってるくせにごまかしやがったな。
「どうして鶴屋さんの相手が古泉だと教えてくれなかったんですか」
古泉に逃げられた俺の矛先は、当然のことながら森さんに向けられた。鶴屋さんの結納だなんだって話を先にしておいて、その相手を言わなかったのは意図的としか思えない。
「あなたが、そのような態度を見せるとわかっていたからです」
「そりゃそうですよ。古泉と鶴屋さんが結婚? 冗談でも笑えない話じゃないですか」
「けれど、二人とも承知のことです」
「鶴屋さんは相手が古泉だと知らないはずだ。本人がそう言っていた」
「だとしても、少なくとも古泉自身はすべて承知してのことなのですよ」
承知してる? 古泉が? 俺の目には、あいつが自分から諸手を挙げて喜んでいるようには見えなかったんだけどな。
「それはあなたご自身の思い込みではありませんか?」
確かに古泉自身が何をどう思っているのか、その本音の部分を知ることなんて俺にはできない。毎日顔をつきあわせていると言っても、あいつと俺は同じ人間じゃない。心の中まで理解するのは無理だろう。
それでも、わかることはあるじゃないか。
「あいつの態度を見たでしょう? あれが納得して喜んでいる態度ですか」
「仮にあなたの言うように、古泉も納得はしていないのかもしれません」
「だったら、」
「ですがその本心を知る術も、わたしどもにはないのです。ならばあの子が口にした言葉を受け入れるしかありません」
それはそうだが……。
「事は既にここまで進んでいるのです。もし古泉の本心が別にあったとしても、その前に拒否することはできました。なのにしなかったのであれば、古泉はこうなることを望んだと、わたしは理解いたします」
「俺は理解を示すことも、納得することもできない」
「してください。今回のことは、他の方々……特に涼宮さんには秘匿しなければならないことです。いずれは明るみになることでしょうが、祝いの席で親しい知人に祝福されないのは、古泉にとっても、お嬢様にとっても辛いことでしょう。あなたが二人にとっての友人であるのなら、せめてあなただけでも祝福していただきたいと思います」
そう言われては、俺も出てくる言葉を飲み込むしかない。
森さんが言うように、決めたのは古泉自身なのか。だとすれば、俺が理解や納得をしなくても、当人が「それでいい」と考えたのなら、口を挟むのは余計なお世話ってヤツか。
納得するしかないのか、俺は。
「すっかり懐柔されちゃってますねぇ」
俺が妥協の境地に達しようかとしていたそのときに、背後から響いた声。振り向くよりも先に、森さんが俺の視線を遮るように声の主との間に割って入った。
「橘!?」
森さんの肩越しに見えたその姿は、『機関』と敵対関係にある組織の一員、橘京子で間違いない。俺たちと充分な距離を取っているが、届く声はしっかり聞こえる場所で、妙に楽しそうな笑顔を浮かべて突っ立っている。
「どのようなご用件でしょうか。本日、この料亭は貸し切りとなっておりますが」
口にする言葉はあくまで丁寧に、けれど響く声音は張りつめた氷が割れるように冷たく平坦に森さんが問いかけると、橘は両手を挙げてさらに距離を取るように後ろへ下がった。
「待って待って、待ってください。あたしは別に、何かをしに来たわけではないのです。ここは天下の往来ですよ? 普通にお散歩コースじゃありませんか」
「その言葉を信じるには、いささか無理がございますね」
「あら、やっぱりですか?」
凄惨さを増す森さんを前に、よくもまぁそうもお気楽に笑っていられるものだと、思わず感心しちまうような態度を見せる橘は、それでも挙げた手を下ろそうとはしない。
どうやらその態度で「何もしない」と言った言葉を証明しようとしているようだが、胡散臭いのは言うまでもない。
「お散歩というのは冗談ですが、何もしませんというのは本当なのです。わたしはただ、釈明をしに来ただけなのですよ」
「釈明?」
と、俺。何もしない、と言っておきながら、釈明とは意味がわからん。
「でもその前に、ひとつだけお話しておきたいことがあるんですが、いいかしら?」
「聞く耳はない、と言えば?」
「あら、どうして? ただのお話じゃないですか。あたしは別に噺家でもありませんので、喋ってるだけでお金をもらおうなんて思ってません。どうでもいいとおっしゃるのなら、聞き流せばいいんじゃないかしら? それとも……聞きたくない話でもあります?」
橘は、やけに挑戦的だ。森さんを前にして、余裕さえ感じられる態度を見せている。
いったい何を知っている? その自信の根拠はいったいなんだ? 佐々木が憶測混じりで言っていたが、九曜と手を組んだことがその態度の表れなのか?
「九曜さん、ですか? ああ、あのことかしら。でも、それは別の話。まったく関係ないとは言わないけれど、今はちょっと関係ないのです」
「じゃあ何なんだ? おまえ、何を知っている」
「今回の、このおめでたい席での裏事情……ってとこでしょうか」
「裏事情?」
やっぱりか。やっぱりあるのか、この鶴屋さんと古泉の結納話には、ただおめでたい話ってだけではない、裏の理由が。
「鶴屋家のご令嬢が近々結婚するかも、という話はワリと有名な話だったんですよ、この界隈だと。ただその相手が古泉さんでしょう? 古泉さんは『機関』の一員。鶴屋家は『機関』のスポンサー筋のひとつですよね? そういう立場を持つ二人が結婚するなんて、ちょっと不自然かなって思いまして。だってほら、これは当人たちが自分の意思で選んだ相手との結婚とはワケが違うじゃないですか。最終的な意思決定は当人たちにあったのかもしれませんが、その前段階は周りが用意してるわけです。古泉さん自身のことをアレコレ言うつもりはありませんけど、身分という点で言えば鶴屋家のご令嬢の相手として不足しています。なのに古泉さんが選ばれた。さて、どうしてなんでしょう?」
問いかける橘の言葉に、森さんはその真意を探るように目を細めるだけで、言葉では答えない。
俺も、橘が何を言わんとしているのか、今はまだわからない。
「では、言い方を変えましょうか? 森さん、単刀直入に聞きますけど、最近の『機関』の懐事情はどうですか?」
……懐事情?
「涼宮さんのフォロー体勢を維持し続けるのは大変ですものね。昼夜を問わず、何時に何が起こるかわからない。そのすべてに対応しなければならないのであれば、そこには少なからず金銭問題も絡んでくる。その資金を鶴屋家は提供している。スポンサーという立場ですからね。でも、スポンサーなんですよねぇ。涼宮さんを神として崇めることに異論はない立場であれば、金銭的援助をする際には信者としての布施とするのがわかりやすいと思いません? ある種、涼宮さんや佐々木さんの存在には、宗教的な要素が当てはまるじゃないですか」
橘は、答えのわかっている問題の解答を教えるのに、わざと勿体ぶるような間を空けた。
「何が言いたい」
「一般的な物の考え方をしてください。例えばテレビ番組とかのスポンサーって、お金を出す代わりに番組の合間にコマーシャルを流して宣伝するじゃないですか。つまり、お金を出す代わりに自社のアピールをする、ってことで、そこには利害関係の一致があるわけです。では、鶴屋家などのスポンサー筋は、『機関』とどのような利害関係があるのかしら? 『機関』に金銭的な援助をする代わりに得るものとはなに? 真っ先に思い浮かぶのは涼宮さんの能力に関することでしょうけれど、『機関』にとって涼宮さんは神に等しき存在。そんな存在を、資金確保の材料に使うはずがありません。だって、あたしたちもそんな真似は出来ませんもの。立っている位置は違えども、同じ境遇のあたしたちならわかります。では他に、『機関』が持つ、他にはないものとは?」
『機関』にあって一般的にはないもの? それは……ええと、一高校の生徒会長を決める選挙で解散総選挙にかかる対策費用を投入できるような潤沢な資金か? それとも、シリコンバレーからインゴットを取り寄せて水素燃料ロケットの手配までできるような幅広いコネクションか? いや、結局のところ、それも『機関』に協力するスポンサーあってのことだろう。
そういうことではなく、予め『機関』が有しているひとつの価値。それは──。
つづく
森園生の変心:18
そうだ、古泉だ。古泉一樹で間違いない。いつも部室で俺とボードゲームに明け暮れて、順調に黒星を増やし続けている古泉が、スーツを妙にこなれた着こなしで身にまとい、俺の前に現れた。
「おまえが……鶴屋さんの相手!?」
「おまえなどと、失礼ではありませんか。お嬢様の婚約者なのですよ」
いつもの調子で俺が古泉を指してそう言えば、森さんから叱責が飛んできた。そりゃ確かにその通りなのかもしれないが、だからどうしてこいつがそうなっちまってるんだ?
「森さん、今はまだ構いません。それに、彼には何も説明してないのでしょう? これ以上、混乱が酷くならに今のうちに、しっかりとね」
ああ、そうだ。ちゃんと説明しくれ。俺が納得できる形でな。
「それほど複雑な話ではありませんよ。今回の話は鶴屋家から相談を受けた話でもあるのです」
「相談? 鶴屋家が『機関』にか?」
「うちだけではないと思いますが。以前に話したこともあるでしょう? 鶴屋家は『機関』のスポンサー筋のひとつだと。その流れで『機関』にも話が巡ってきたというわけですよ。跡継ぎであるご令嬢に相応しい相手はいないか、とね」
「それで、おまえ?」
「ええ。僕も自分が鶴屋さんの相手に相応しいとは思いませんが、年齢も近く、ある程度の事情に精通している人物は僕しかいなかった。だから選ばれたわけです」
そうか、そういう繋がりか。何の因果で古泉と鶴屋さんが結婚しなけりゃならんのか、その理由は理解した。が、だからと言って納得したわけじゃない。
「ちょっと待て。おまえはそれでいいのか? そういう理由で鶴屋さんと結婚することになって構わないのか?」
「それが僕の役目ならば、致し方ありません」
「役目とか、そういう話を聞いてるんじゃない。おまえはそれで納得してるのか? 相手が鶴屋さんで、本当にいいのか?」
しつこいくらいに言葉を重ねて問いかければ、古泉は所在なげに自分の前髪を指でつまみながら、「鶴屋さんが生涯の伴侶となるのなら、否応もありませんね」などとほざきやがった。
「俺が聞いてるのはそういうことじゃない。おまえがそれでいいのかどうかってことだ」
「おや、今の言葉で答えになっていませんか? ……申し訳ありません、これ以上、鶴屋さんを待たせるわけにはいきませんので」
スッと俺の横を通り抜けて、古泉は料亭の中に入っていこうとする。まさかそれで話を終わらせるつもりじゃないだろうな?
「おい、待てよ古泉!」
引き留めようと延ばす俺の手は、けれど古泉を掴むことなく止められる。傍らの森さんが、延ばした俺の手首を痛いほど強く握りしめていた。
「おやめください」
「森さん……っ」
いつもと変わらず静かな物腰と態度で、けれど俺の手を掴む手は力強い。料亭内に入っていく古泉を追いかけることなど、まるでできなかった。
ええい、くそ。あの野郎、俺が何を言いたいのかわかってるくせにごまかしやがったな。
「どうして鶴屋さんの相手が古泉だと教えてくれなかったんですか」
古泉に逃げられた俺の矛先は、当然のことながら森さんに向けられた。鶴屋さんの結納だなんだって話を先にしておいて、その相手を言わなかったのは意図的としか思えない。
「あなたが、そのような態度を見せるとわかっていたからです」
「そりゃそうですよ。古泉と鶴屋さんが結婚? 冗談でも笑えない話じゃないですか」
「けれど、二人とも承知のことです」
「鶴屋さんは相手が古泉だと知らないはずだ。本人がそう言っていた」
「だとしても、少なくとも古泉自身はすべて承知してのことなのですよ」
承知してる? 古泉が? 俺の目には、あいつが自分から諸手を挙げて喜んでいるようには見えなかったんだけどな。
「それはあなたご自身の思い込みではありませんか?」
確かに古泉自身が何をどう思っているのか、その本音の部分を知ることなんて俺にはできない。毎日顔をつきあわせていると言っても、あいつと俺は同じ人間じゃない。心の中まで理解するのは無理だろう。
それでも、わかることはあるじゃないか。
「あいつの態度を見たでしょう? あれが納得して喜んでいる態度ですか」
「仮にあなたの言うように、古泉も納得はしていないのかもしれません」
「だったら、」
「ですがその本心を知る術も、わたしどもにはないのです。ならばあの子が口にした言葉を受け入れるしかありません」
それはそうだが……。
「事は既にここまで進んでいるのです。もし古泉の本心が別にあったとしても、その前に拒否することはできました。なのにしなかったのであれば、古泉はこうなることを望んだと、わたしは理解いたします」
「俺は理解を示すことも、納得することもできない」
「してください。今回のことは、他の方々……特に涼宮さんには秘匿しなければならないことです。いずれは明るみになることでしょうが、祝いの席で親しい知人に祝福されないのは、古泉にとっても、お嬢様にとっても辛いことでしょう。あなたが二人にとっての友人であるのなら、せめてあなただけでも祝福していただきたいと思います」
そう言われては、俺も出てくる言葉を飲み込むしかない。
森さんが言うように、決めたのは古泉自身なのか。だとすれば、俺が理解や納得をしなくても、当人が「それでいい」と考えたのなら、口を挟むのは余計なお世話ってヤツか。
納得するしかないのか、俺は。
「すっかり懐柔されちゃってますねぇ」
俺が妥協の境地に達しようかとしていたそのときに、背後から響いた声。振り向くよりも先に、森さんが俺の視線を遮るように声の主との間に割って入った。
「橘!?」
森さんの肩越しに見えたその姿は、『機関』と敵対関係にある組織の一員、橘京子で間違いない。俺たちと充分な距離を取っているが、届く声はしっかり聞こえる場所で、妙に楽しそうな笑顔を浮かべて突っ立っている。
「どのようなご用件でしょうか。本日、この料亭は貸し切りとなっておりますが」
口にする言葉はあくまで丁寧に、けれど響く声音は張りつめた氷が割れるように冷たく平坦に森さんが問いかけると、橘は両手を挙げてさらに距離を取るように後ろへ下がった。
「待って待って、待ってください。あたしは別に、何かをしに来たわけではないのです。ここは天下の往来ですよ? 普通にお散歩コースじゃありませんか」
「その言葉を信じるには、いささか無理がございますね」
「あら、やっぱりですか?」
凄惨さを増す森さんを前に、よくもまぁそうもお気楽に笑っていられるものだと、思わず感心しちまうような態度を見せる橘は、それでも挙げた手を下ろそうとはしない。
どうやらその態度で「何もしない」と言った言葉を証明しようとしているようだが、胡散臭いのは言うまでもない。
「お散歩というのは冗談ですが、何もしませんというのは本当なのです。わたしはただ、釈明をしに来ただけなのですよ」
「釈明?」
と、俺。何もしない、と言っておきながら、釈明とは意味がわからん。
「でもその前に、ひとつだけお話しておきたいことがあるんですが、いいかしら?」
「聞く耳はない、と言えば?」
「あら、どうして? ただのお話じゃないですか。あたしは別に噺家でもありませんので、喋ってるだけでお金をもらおうなんて思ってません。どうでもいいとおっしゃるのなら、聞き流せばいいんじゃないかしら? それとも……聞きたくない話でもあります?」
橘は、やけに挑戦的だ。森さんを前にして、余裕さえ感じられる態度を見せている。
いったい何を知っている? その自信の根拠はいったいなんだ? 佐々木が憶測混じりで言っていたが、九曜と手を組んだことがその態度の表れなのか?
「九曜さん、ですか? ああ、あのことかしら。でも、それは別の話。まったく関係ないとは言わないけれど、今はちょっと関係ないのです」
「じゃあ何なんだ? おまえ、何を知っている」
「今回の、このおめでたい席での裏事情……ってとこでしょうか」
「裏事情?」
やっぱりか。やっぱりあるのか、この鶴屋さんと古泉の結納話には、ただおめでたい話ってだけではない、裏の理由が。
「鶴屋家のご令嬢が近々結婚するかも、という話はワリと有名な話だったんですよ、この界隈だと。ただその相手が古泉さんでしょう? 古泉さんは『機関』の一員。鶴屋家は『機関』のスポンサー筋のひとつですよね? そういう立場を持つ二人が結婚するなんて、ちょっと不自然かなって思いまして。だってほら、これは当人たちが自分の意思で選んだ相手との結婚とはワケが違うじゃないですか。最終的な意思決定は当人たちにあったのかもしれませんが、その前段階は周りが用意してるわけです。古泉さん自身のことをアレコレ言うつもりはありませんけど、身分という点で言えば鶴屋家のご令嬢の相手として不足しています。なのに古泉さんが選ばれた。さて、どうしてなんでしょう?」
問いかける橘の言葉に、森さんはその真意を探るように目を細めるだけで、言葉では答えない。
俺も、橘が何を言わんとしているのか、今はまだわからない。
「では、言い方を変えましょうか? 森さん、単刀直入に聞きますけど、最近の『機関』の懐事情はどうですか?」
……懐事情?
「涼宮さんのフォロー体勢を維持し続けるのは大変ですものね。昼夜を問わず、何時に何が起こるかわからない。そのすべてに対応しなければならないのであれば、そこには少なからず金銭問題も絡んでくる。その資金を鶴屋家は提供している。スポンサーという立場ですからね。でも、スポンサーなんですよねぇ。涼宮さんを神として崇めることに異論はない立場であれば、金銭的援助をする際には信者としての布施とするのがわかりやすいと思いません? ある種、涼宮さんや佐々木さんの存在には、宗教的な要素が当てはまるじゃないですか」
橘は、答えのわかっている問題の解答を教えるのに、わざと勿体ぶるような間を空けた。
「何が言いたい」
「一般的な物の考え方をしてください。例えばテレビ番組とかのスポンサーって、お金を出す代わりに番組の合間にコマーシャルを流して宣伝するじゃないですか。つまり、お金を出す代わりに自社のアピールをする、ってことで、そこには利害関係の一致があるわけです。では、鶴屋家などのスポンサー筋は、『機関』とどのような利害関係があるのかしら? 『機関』に金銭的な援助をする代わりに得るものとはなに? 真っ先に思い浮かぶのは涼宮さんの能力に関することでしょうけれど、『機関』にとって涼宮さんは神に等しき存在。そんな存在を、資金確保の材料に使うはずがありません。だって、あたしたちもそんな真似は出来ませんもの。立っている位置は違えども、同じ境遇のあたしたちならわかります。では他に、『機関』が持つ、他にはないものとは?」
『機関』にあって一般的にはないもの? それは……ええと、一高校の生徒会長を決める選挙で解散総選挙にかかる対策費用を投入できるような潤沢な資金か? それとも、シリコンバレーからインゴットを取り寄せて水素燃料ロケットの手配までできるような幅広いコネクションか? いや、結局のところ、それも『機関』に協力するスポンサーあってのことだろう。
そういうことではなく、予め『機関』が有しているひとつの価値。それは──。
つづく
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