category: 日記
DATE : 2007/03/31 (Sat)
DATE : 2007/03/31 (Sat)
@(´ω`)@モコモコ
んー。
そんな感じで喜緑さんの日です。
んー。
そんな感じで喜緑さんの日です。
前回はこちら
【週刊喜緑江美里】
薄暗い、あるいは濃密な青一色で塗り固められたこの世界の中、わたしは涼宮さんの深層意識の世界に彼と二人きりでいる……ということになるのでしょうか。
ここにいる彼が、涼宮さんが思い描く理想を具現化したような存在……ということはなさそうです。朝倉さんからの連絡では、長門さんと古泉さんの二人で、この空間から抜け出すための楔を打ち込む、ということでしたから、彼がその楔とやらなのでしょう。
だとしても、どうしてこんな不安定で不明瞭な場所に彼が来てくれたのか、その理論的な理由というのが思い至りません。だってここは、いつ消えるかもわからない世界なんですよ? 消えてしまえば、二度と戻ることはできないんです。
いくら長門さんたちに頼まれたからと言っても、普通は断るじゃないですか。なのに来てくれるなんて……それは、どうしてなんでしょう? 事が涼宮さん発端だから? それとも……。
「それでこれから……どうしたんです?」
わたしの視線に気づいて、彼が言葉半ばで首を傾げます。
どうしたもこうしたも……わたしにはわかりません。わかりませんけれども……わたしには、彼のそんな一歩引いた態度がとても……とても、切なく感じました。胸の中心に、細く鋭い針を突き立てられたような痛みが走ります。
でも彼がそんな態度を取ることは、仕方のないことかもしれません。もともと一歩引いたところにいるのがわたしです。これから先、道が交わるとしても、それがあなたの助けになることかどうかもわかりません。
でも、でも今はこの世界に、わたしとあなたの二人しかいないじゃないですか。なのにどうして……。
「どうしてそんな、よそよそしいんですか?」
自分でも、どうしてそんなことを口にしたのかわかりません。ただ……彼の距離を置いた態度がどうしても我慢できなくて、それがわたしの心に暗い影を落として……そう、人はこれを悲しみというのかもしれませんけれど、そんな気分になって、だからついそんなことを。
「別にそんな、よそよそしいなんてことは、」
そう、それはいつもと変わらない彼の態度。それがいつも通り。だから、いつも彼はわたしに対して、ずっと。
「よそよそしいです」
ジッとその目を見つめると、彼は今にも逃げ出しそうに視線を逸らすんです。そんな彼の態度が、わたしの胸を締め付けるんです。
そうやって、距離を取ろうとする行為への悲しさ。近付いても、近づけないような不安。触れて欲しいのに触れてくれないもどかしさ。
この気持ちが……なにか……あれ? でも、この気持ちは……。
「お願い」
わたしの足は、無意識に一歩前へ踏み出していました。それに合わせるように、彼もまた、一歩下がって……それでも詰め寄ると、彼はパイプ椅子に足を引っかけて倒れて。
「いつもみたいに」
倒れた彼の上に、わたしは覆い被さるように体を預けて、その赤くなっている彼の頬に手を添えて……でも、待って。わたしがこんなことをするなんて……そんなつもりはなんてまったく……ない……でも、こんな行動に出るのはどうして? この胸の高鳴りのせい? あるいは、彼に対して近付きたいと、わたし自身がそう思って……?
「わたしの名前を」
名前……わたしの、なまえ?
「呼んで……」
「き、喜緑さん……?」
呟いた、彼の言葉。
名前。
その名前が、わたしの……そう、そうです。わたしは喜緑江美里。そのパーソナルネームで呼ばれ、この惑星表面上に存在できるインターフェースを持ち、他の誰にも支配されずにひとつの『個』として存在しているのがわたしなんです。
そのわたしが、こうして彼と……涼宮さんにとって何かしらの変革を与えるであろう彼と、こんな気持ちを……こんなことをしようとするなんてことは。
「っでぇっ!」
「……あれ?」
鋭く乾いた音に、彼の悲鳴のような声。さらに付け加えれば、什器が乱雑に崩れ倒れるような音で、ふと我に返ると……彼が盛大に長テーブルやらパイプ椅子やらを巻き込んで伸びてました。
「えっと……」
「おかえりなさい」
「え?」
耳に届いた平坦な声に振り返れば、そこには長門さんがいました。窓の外は、これまでの濃密な青い色ではなく、朱色の光が差し込んでいて……ここ、どこでしょう?
「北高の旧館、通称部室棟にある文芸部部室」
「え?」
「あなたが消失してから、五十三時間四十一分が経過している。現時刻は日曜日の朝七時十八分」
「それはつまり……わたし、戻ってこられたんですね」
「そう」
頷き、長門さんは倒れている彼に指さして。
「涼宮ハルヒは、彼に否定された自分の深層心理さえも否定した。故に、あなたたちが迷い込んでいた擬似的な精神世界は崩壊。逆に、彼の言葉があなたをこの世界に連れ戻すための最後のワードとなり、あなたは彼に名を呼ばれることで『自分』という存在を取り戻すことができた」
「ああ……それで」
つまり、さっきまでわたしが抱いていた感情は、涼宮さんの感情そのものだったと、そういういうことだったんですね。だからわたし、彼に対してあんなにも胸が締め付けられるような思いを抱いて……おかしいと思ったんですよ。わたしは別に、彼のことをそこまで特別視しているわけでも、別段、気にかけているわけでもないのに……あら?
「あの……長門さん」
「なに?」
「わたし、ちゃんと元に戻れたんですよね?」
「そう」
「ですよね」
長門さんがそうおっしゃるのだから、元に戻っているはずです。
なのに、自分が抱いていた感情が、涼宮さんからの借り物だったなんて考えて、少し切なくなっていたり、ノビている彼を介抱している長門さんの様子にちょっとだけ悔しさにも似た感情を抱いているのは……いつか消えるであろう、元に戻ったときに僅かに残った涼宮さんの心の欠片みたいなものの影響なんです。人で言うところの、病み上がりの後遺症みたいなものです。
ええ、そうに違いありません。
〆
【週刊喜緑江美里】
薄暗い、あるいは濃密な青一色で塗り固められたこの世界の中、わたしは涼宮さんの深層意識の世界に彼と二人きりでいる……ということになるのでしょうか。
ここにいる彼が、涼宮さんが思い描く理想を具現化したような存在……ということはなさそうです。朝倉さんからの連絡では、長門さんと古泉さんの二人で、この空間から抜け出すための楔を打ち込む、ということでしたから、彼がその楔とやらなのでしょう。
だとしても、どうしてこんな不安定で不明瞭な場所に彼が来てくれたのか、その理論的な理由というのが思い至りません。だってここは、いつ消えるかもわからない世界なんですよ? 消えてしまえば、二度と戻ることはできないんです。
いくら長門さんたちに頼まれたからと言っても、普通は断るじゃないですか。なのに来てくれるなんて……それは、どうしてなんでしょう? 事が涼宮さん発端だから? それとも……。
「それでこれから……どうしたんです?」
わたしの視線に気づいて、彼が言葉半ばで首を傾げます。
どうしたもこうしたも……わたしにはわかりません。わかりませんけれども……わたしには、彼のそんな一歩引いた態度がとても……とても、切なく感じました。胸の中心に、細く鋭い針を突き立てられたような痛みが走ります。
でも彼がそんな態度を取ることは、仕方のないことかもしれません。もともと一歩引いたところにいるのがわたしです。これから先、道が交わるとしても、それがあなたの助けになることかどうかもわかりません。
でも、でも今はこの世界に、わたしとあなたの二人しかいないじゃないですか。なのにどうして……。
「どうしてそんな、よそよそしいんですか?」
自分でも、どうしてそんなことを口にしたのかわかりません。ただ……彼の距離を置いた態度がどうしても我慢できなくて、それがわたしの心に暗い影を落として……そう、人はこれを悲しみというのかもしれませんけれど、そんな気分になって、だからついそんなことを。
「別にそんな、よそよそしいなんてことは、」
そう、それはいつもと変わらない彼の態度。それがいつも通り。だから、いつも彼はわたしに対して、ずっと。
「よそよそしいです」
ジッとその目を見つめると、彼は今にも逃げ出しそうに視線を逸らすんです。そんな彼の態度が、わたしの胸を締め付けるんです。
そうやって、距離を取ろうとする行為への悲しさ。近付いても、近づけないような不安。触れて欲しいのに触れてくれないもどかしさ。
この気持ちが……なにか……あれ? でも、この気持ちは……。
「お願い」
わたしの足は、無意識に一歩前へ踏み出していました。それに合わせるように、彼もまた、一歩下がって……それでも詰め寄ると、彼はパイプ椅子に足を引っかけて倒れて。
「いつもみたいに」
倒れた彼の上に、わたしは覆い被さるように体を預けて、その赤くなっている彼の頬に手を添えて……でも、待って。わたしがこんなことをするなんて……そんなつもりはなんてまったく……ない……でも、こんな行動に出るのはどうして? この胸の高鳴りのせい? あるいは、彼に対して近付きたいと、わたし自身がそう思って……?
「わたしの名前を」
名前……わたしの、なまえ?
「呼んで……」
「き、喜緑さん……?」
呟いた、彼の言葉。
名前。
その名前が、わたしの……そう、そうです。わたしは喜緑江美里。そのパーソナルネームで呼ばれ、この惑星表面上に存在できるインターフェースを持ち、他の誰にも支配されずにひとつの『個』として存在しているのがわたしなんです。
そのわたしが、こうして彼と……涼宮さんにとって何かしらの変革を与えるであろう彼と、こんな気持ちを……こんなことをしようとするなんてことは。
「っでぇっ!」
「……あれ?」
鋭く乾いた音に、彼の悲鳴のような声。さらに付け加えれば、什器が乱雑に崩れ倒れるような音で、ふと我に返ると……彼が盛大に長テーブルやらパイプ椅子やらを巻き込んで伸びてました。
「えっと……」
「おかえりなさい」
「え?」
耳に届いた平坦な声に振り返れば、そこには長門さんがいました。窓の外は、これまでの濃密な青い色ではなく、朱色の光が差し込んでいて……ここ、どこでしょう?
「北高の旧館、通称部室棟にある文芸部部室」
「え?」
「あなたが消失してから、五十三時間四十一分が経過している。現時刻は日曜日の朝七時十八分」
「それはつまり……わたし、戻ってこられたんですね」
「そう」
頷き、長門さんは倒れている彼に指さして。
「涼宮ハルヒは、彼に否定された自分の深層心理さえも否定した。故に、あなたたちが迷い込んでいた擬似的な精神世界は崩壊。逆に、彼の言葉があなたをこの世界に連れ戻すための最後のワードとなり、あなたは彼に名を呼ばれることで『自分』という存在を取り戻すことができた」
「ああ……それで」
つまり、さっきまでわたしが抱いていた感情は、涼宮さんの感情そのものだったと、そういういうことだったんですね。だからわたし、彼に対してあんなにも胸が締め付けられるような思いを抱いて……おかしいと思ったんですよ。わたしは別に、彼のことをそこまで特別視しているわけでも、別段、気にかけているわけでもないのに……あら?
「あの……長門さん」
「なに?」
「わたし、ちゃんと元に戻れたんですよね?」
「そう」
「ですよね」
長門さんがそうおっしゃるのだから、元に戻っているはずです。
なのに、自分が抱いていた感情が、涼宮さんからの借り物だったなんて考えて、少し切なくなっていたり、ノビている彼を介抱している長門さんの様子にちょっとだけ悔しさにも似た感情を抱いているのは……いつか消えるであろう、元に戻ったときに僅かに残った涼宮さんの心の欠片みたいなものの影響なんです。人で言うところの、病み上がりの後遺症みたいなものです。
ええ、そうに違いありません。
〆
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★無題
NAME: BPS
喜緑さんとハルヒの心情をうまくシンクロさせてきますねー。
てかインターフェイスっ娘たちは自分に素直じゃないという感じの人ばっかりですね。むしろそういう面においては最近は自己表現苦手だったはずの長門さんが頭ひとつ抜きんでてるようで
てかインターフェイスっ娘たちは自分に素直じゃないという感じの人ばっかりですね。むしろそういう面においては最近は自己表現苦手だったはずの長門さんが頭ひとつ抜きんでてるようで
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
>自己表現苦手だったはずの長門さんが頭ひとつ抜きんでてるようで
そういう点も含めて、長門さんは他のインターフェースとは一線を画す存在なのでは、と勘繰っております( ̄ー ̄)
そういう点も含めて、長門さんは他のインターフェースとは一線を画す存在なのでは、と勘繰っております( ̄ー ̄)
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
何を今さらおっしゃいますか! いつもつねに喜緑さんがヒロインですよ!
と言うようにって喫茶店のおねーさんに言われました。
と言うようにって喫茶店のおねーさんに言われました。
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