category: 日記
DATE : 2007/03/30 (Fri)
DATE : 2007/03/30 (Fri)
とりゃー。
……ふぅ(´ω`)
で、朝倉さんの出番であります。
……ふぅ(´ω`)
で、朝倉さんの出番であります。
前回はこちら
【週刊朝倉涼子】
夕暮れの中、そろそろ一日も終わろうかという時間の今、わたしの目の前を、親子連れが帰宅の途について過ぎ去っていく。けれどわたしの目は行き交う人々の姿を見ていなくて、去っていった吉村さんの姿と、言葉ばかりがリフレインしている。
あの子……わたしを見て、何かに気づいた。だから急に去っていった……そういう風に、わたしの目には彼女の姿が映ったの。
なんだろう。何に気づいたのかな。その答えがわからなくて、ずっと気になって、わたしは遊園地のベンチに一人でずっと腰掛けて考えていた。
気にする必要もないこと……って言えばそれまでだし、わたしに諭されて帰って行ったって考えるのが妥当なところだと思うけど……でも、長門さんに頼まれたからって、わざわざ彼とのデートを中断してまで人捜しに来るような子が、急に態度を真逆に変えるっていうのも……やっぱり変な話よね。
「うーん……」
考えたところで、どうせ答えなんて出ないものね。もう遅くなっちゃったし、一人でいても仕方ないし、帰ろうかな。帰って……そうね、長門さんにご飯でも作ってあげようかしら。でも、ここ最近、毎日だし……そんな頻繁に押しかけても迷惑になるかしら。
……一人、かぁ。
このままマンションに戻っても、誰かがいるわけでもないし、かといって明日になれば誰かに会えるわけでもない。明日からもずっと一人。
それが、寂しいと思ったことはないの。辛い、と考えたこともない……違うかな。その気持ちは嘘じゃないけれど、でも現在進行形の気持ちってことでもないの。
今は……。
「あら、まだいらしたんですね」
とりとめもない思考の海に埋没していたわたしの視界に飛び込んできたのは、喜緑さんだった。まだ居たっていうのなら、それはあなたもじゃない。
「何をなさってるんですか、こんなところにお一人で」
こんなところ、なんて言うけれど、連れてきたのは喜緑さんなのにね。勝手に離れたのはわたしの方だけれど。
「そういう喜緑さんこそ、何やってたのよ」
「誰かさんのせいで、不躾なお誘いをしてきた殿方をあしらうという、不毛な時間を余儀なくされておりました」
あら、それは大変だったわね。もちろん、それは喜緑さんの話じゃなくて、人を見る目がないナンパしてきた相手のことだけど。
「それにしても、ちょっと意外です」
わたしの隣に断りもなく腰掛けた喜緑さんが、そんなことを言ってきた。
「何が?」
「だって、一人でいらっしゃるんですもの。朝倉さんのことだから、てっきり彼に会いに行っているのかと思ってました」
「会わないわよ」
「何故ですか?」
「ダメなんでしょ、彼と会ったら」
「それが理由ですか?」
探るような視線を向けてくる喜緑さんに、わたしはため息を吐いた。他にどんな理由があるっていうの?
「以前の朝倉さんなら、そういうことを律儀に守るようなことはないと思ってましたけれど。長門さんがおっしゃるように、本当に変わられたんですね」
「わたしは別に、何も変わってないじゃない」
「そうですね、変わられてないかもしれません。でも、わたしが知る朝倉涼子という人物像のイメージは、大きく塗り変わりましたよ」
「そう」
それが褒められているのか、はたまたけなされているのか知らないけれど、喜緑さんの評価なんて興味がない。わたしのことをどう思っているのかなんて、どうでもいいの。
「嫌……なのかしら。いえ、怖いのでしょうか」
前触れもなく、急に喜緑さんはそう呟いた。声は聞こえるくらいの大きさだったけれど、独り言のように言うものだから、わたしに言った言葉なのかよくわからない。
「え、なに?」
「拒絶されることが、です」
「そんなことないわ。別に彼から拒絶されても、どうでもいいの」
わたしが即答すると、喜緑さんは子供のイタズラに気づいた親のように、鈴の音を転がすような笑い声を漏らした。
「わたし、『誰から』とは言ってませんよ」
「え? だって」
喜緑さんも長門さんも、今日会った古泉くんや吉村さんさえ、ずっと彼のことを話題に出すんですもの。そう思うのが自然じゃない?
「そうですか」
「そうなの。だから、そう思っただけ。違うの?」
「違いはしませんけれど……」
やっぱり、彼の話だったんじゃない。
「気になさらないのなら、そんな悲しそうな顔をしなければよろしいのに」
「……え?」
「今にも泣き出しそう。わたしには、そう見えますけれど」
「見間違いよ」
「大丈夫ですよ」
「泣く理由がないわ」
なんで泣くのよ。慰められるいわれもないわ。そんな風に言われても、困るだけじゃない。
「彼は、拒絶しませんよ」
「なんでそんなことわかるの?」
「だって、わたしのことも助けに来てくださいましたもの。ほら、昨晩の話ですよ。いくら涼宮さんに関係することで長門さんに頼まれたからと言っても、渦中にいるのはわたしなんですよ? 関わりも薄いのに、そんな危険なことを請け負ってくれるなんて……普通はしないでしょう?」
それは確かに、わたしも思った。一歩間違えれば、自分も涼宮さんの夢に飲み込まれて消失するかもしれないのに、って。
「人がいい、といえばそれまでですけれど……でも、彼の場合はちょっと違うような気がします。長門さんも、涼宮さんも、彼のそんなところに惹かれているんじゃないのかしら」
「なにが?」
「彼、口では何を言っても、求めて差し伸べられた手は必ず掴むんですね。どんなに面倒なことになっても、必ず掴んで離さないんです」
「……そう」
そんなこと、喜緑さんに言われるまでもなくわかってることよ。
「だから、朝倉さんのことも受け入れてくれますよ」
そうかもしれない。でも……それに甘えていいのかわからない。
「それでも、会いたいのでしょう?」
「…………」
「さて、と」
わたしが何も答えずに……いいえ、答えられずにいると、喜緑さんは大きく伸びをして立ち上がった。
「わたし、そろそろ帰ります。明日は学校もありますから」
「あ……そう、ね」
「それでは、また……あ、そうそう」
立ち去ろうとしていた喜緑さんは、ふと足を止めて振り返った。その顔に、マジシャンが自慢の手品のトリックを披露するときのような笑みを浮かべて。
「朝倉さんにかけられていた行動制限のコードは、本日明け方に解除しておきました。わたしとしたことが、長門さんにまんまとしてやられた、というところです。ですので、明日は学校に来てくださいね。再編入の手続きがありますから」
「……え?」
学校……って、え、なに? どういうこと? それって、つまり、だから……。
「あとは、朝倉さん次第です。それでは、ごきげんよう」
中世の貴婦人のような会釈をして去っていく喜緑さんの後ろ姿を、けれどわたしは見ていなかったように思う。目では追っていたけれど、見えてなかったのかも。
だって、そのときのわたしは……何も考えずに走り出していたから。
いえ、何も考えずに、っていうのは違うかもしれない。
ただひとつだけ──彼に会える……会いたい──と、それだけを考えていた。
〆
【週刊朝倉涼子】
夕暮れの中、そろそろ一日も終わろうかという時間の今、わたしの目の前を、親子連れが帰宅の途について過ぎ去っていく。けれどわたしの目は行き交う人々の姿を見ていなくて、去っていった吉村さんの姿と、言葉ばかりがリフレインしている。
あの子……わたしを見て、何かに気づいた。だから急に去っていった……そういう風に、わたしの目には彼女の姿が映ったの。
なんだろう。何に気づいたのかな。その答えがわからなくて、ずっと気になって、わたしは遊園地のベンチに一人でずっと腰掛けて考えていた。
気にする必要もないこと……って言えばそれまでだし、わたしに諭されて帰って行ったって考えるのが妥当なところだと思うけど……でも、長門さんに頼まれたからって、わざわざ彼とのデートを中断してまで人捜しに来るような子が、急に態度を真逆に変えるっていうのも……やっぱり変な話よね。
「うーん……」
考えたところで、どうせ答えなんて出ないものね。もう遅くなっちゃったし、一人でいても仕方ないし、帰ろうかな。帰って……そうね、長門さんにご飯でも作ってあげようかしら。でも、ここ最近、毎日だし……そんな頻繁に押しかけても迷惑になるかしら。
……一人、かぁ。
このままマンションに戻っても、誰かがいるわけでもないし、かといって明日になれば誰かに会えるわけでもない。明日からもずっと一人。
それが、寂しいと思ったことはないの。辛い、と考えたこともない……違うかな。その気持ちは嘘じゃないけれど、でも現在進行形の気持ちってことでもないの。
今は……。
「あら、まだいらしたんですね」
とりとめもない思考の海に埋没していたわたしの視界に飛び込んできたのは、喜緑さんだった。まだ居たっていうのなら、それはあなたもじゃない。
「何をなさってるんですか、こんなところにお一人で」
こんなところ、なんて言うけれど、連れてきたのは喜緑さんなのにね。勝手に離れたのはわたしの方だけれど。
「そういう喜緑さんこそ、何やってたのよ」
「誰かさんのせいで、不躾なお誘いをしてきた殿方をあしらうという、不毛な時間を余儀なくされておりました」
あら、それは大変だったわね。もちろん、それは喜緑さんの話じゃなくて、人を見る目がないナンパしてきた相手のことだけど。
「それにしても、ちょっと意外です」
わたしの隣に断りもなく腰掛けた喜緑さんが、そんなことを言ってきた。
「何が?」
「だって、一人でいらっしゃるんですもの。朝倉さんのことだから、てっきり彼に会いに行っているのかと思ってました」
「会わないわよ」
「何故ですか?」
「ダメなんでしょ、彼と会ったら」
「それが理由ですか?」
探るような視線を向けてくる喜緑さんに、わたしはため息を吐いた。他にどんな理由があるっていうの?
「以前の朝倉さんなら、そういうことを律儀に守るようなことはないと思ってましたけれど。長門さんがおっしゃるように、本当に変わられたんですね」
「わたしは別に、何も変わってないじゃない」
「そうですね、変わられてないかもしれません。でも、わたしが知る朝倉涼子という人物像のイメージは、大きく塗り変わりましたよ」
「そう」
それが褒められているのか、はたまたけなされているのか知らないけれど、喜緑さんの評価なんて興味がない。わたしのことをどう思っているのかなんて、どうでもいいの。
「嫌……なのかしら。いえ、怖いのでしょうか」
前触れもなく、急に喜緑さんはそう呟いた。声は聞こえるくらいの大きさだったけれど、独り言のように言うものだから、わたしに言った言葉なのかよくわからない。
「え、なに?」
「拒絶されることが、です」
「そんなことないわ。別に彼から拒絶されても、どうでもいいの」
わたしが即答すると、喜緑さんは子供のイタズラに気づいた親のように、鈴の音を転がすような笑い声を漏らした。
「わたし、『誰から』とは言ってませんよ」
「え? だって」
喜緑さんも長門さんも、今日会った古泉くんや吉村さんさえ、ずっと彼のことを話題に出すんですもの。そう思うのが自然じゃない?
「そうですか」
「そうなの。だから、そう思っただけ。違うの?」
「違いはしませんけれど……」
やっぱり、彼の話だったんじゃない。
「気になさらないのなら、そんな悲しそうな顔をしなければよろしいのに」
「……え?」
「今にも泣き出しそう。わたしには、そう見えますけれど」
「見間違いよ」
「大丈夫ですよ」
「泣く理由がないわ」
なんで泣くのよ。慰められるいわれもないわ。そんな風に言われても、困るだけじゃない。
「彼は、拒絶しませんよ」
「なんでそんなことわかるの?」
「だって、わたしのことも助けに来てくださいましたもの。ほら、昨晩の話ですよ。いくら涼宮さんに関係することで長門さんに頼まれたからと言っても、渦中にいるのはわたしなんですよ? 関わりも薄いのに、そんな危険なことを請け負ってくれるなんて……普通はしないでしょう?」
それは確かに、わたしも思った。一歩間違えれば、自分も涼宮さんの夢に飲み込まれて消失するかもしれないのに、って。
「人がいい、といえばそれまでですけれど……でも、彼の場合はちょっと違うような気がします。長門さんも、涼宮さんも、彼のそんなところに惹かれているんじゃないのかしら」
「なにが?」
「彼、口では何を言っても、求めて差し伸べられた手は必ず掴むんですね。どんなに面倒なことになっても、必ず掴んで離さないんです」
「……そう」
そんなこと、喜緑さんに言われるまでもなくわかってることよ。
「だから、朝倉さんのことも受け入れてくれますよ」
そうかもしれない。でも……それに甘えていいのかわからない。
「それでも、会いたいのでしょう?」
「…………」
「さて、と」
わたしが何も答えずに……いいえ、答えられずにいると、喜緑さんは大きく伸びをして立ち上がった。
「わたし、そろそろ帰ります。明日は学校もありますから」
「あ……そう、ね」
「それでは、また……あ、そうそう」
立ち去ろうとしていた喜緑さんは、ふと足を止めて振り返った。その顔に、マジシャンが自慢の手品のトリックを披露するときのような笑みを浮かべて。
「朝倉さんにかけられていた行動制限のコードは、本日明け方に解除しておきました。わたしとしたことが、長門さんにまんまとしてやられた、というところです。ですので、明日は学校に来てくださいね。再編入の手続きがありますから」
「……え?」
学校……って、え、なに? どういうこと? それって、つまり、だから……。
「あとは、朝倉さん次第です。それでは、ごきげんよう」
中世の貴婦人のような会釈をして去っていく喜緑さんの後ろ姿を、けれどわたしは見ていなかったように思う。目では追っていたけれど、見えてなかったのかも。
だって、そのときのわたしは……何も考えずに走り出していたから。
いえ、何も考えずに、っていうのは違うかもしれない。
ただひとつだけ──彼に会える……会いたい──と、それだけを考えていた。
〆
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●この記事にコメントする
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
長門さんもそうですが、朝倉さんも感情で突っ走るようなことはないように思っておりまして、何かと理由づけて逃げに回るタイプかな~と。
良くも悪くもその理由をすべて否定されれば……というのが、今日分のラストの行動につながるのかな~などと自己分析しておりますw
良くも悪くもその理由をすべて否定されれば……というのが、今日分のラストの行動につながるのかな~などと自己分析しておりますw
★無題
NAME: ゆんゆん。
ちょっと誤字を発見したのでご報告を。「そういう喜緑さんこと、何やってたのよ」の部分です。
朝倉さんにはぜひ幸せを掴んでいただきたいですwこの後どう転がるか楽しみにしています。お体にお気をつけてくださいなd(ゝω・*)
朝倉さんにはぜひ幸せを掴んでいただきたいですwこの後どう転がるか楽しみにしています。お体にお気をつけてくださいなd(ゝω・*)
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
アライヤ━━━━━(*゚∀゚*)━━━━━ン!!!!
ご指摘いただいて、仕事の合間にちょろ~んと直しておりました。
実は、その箇所以外にももうひとつ、決定的な誤字というかあり得ないミスがあったところも直しております。
どこだった、なんてことは恥ずかしくて言えません(*´Д`)
ご指摘いただいて、仕事の合間にちょろ~んと直しておりました。
実は、その箇所以外にももうひとつ、決定的な誤字というかあり得ないミスがあったところも直しております。
どこだった、なんてことは恥ずかしくて言えません(*´Д`)
★無題
NAME: せつや
朝倉さんの色々な物をせき止めていたダムが決壊したというか、無くなってしまったなぁ、と言うのが素直な感想です。
溺れないようにね、朝倉さん。(まっ、ツンデレなお人好しがいるから…)
それと日記の方ですが、何かストレスの溜まることでもありましたか?
溺れないようにね、朝倉さん。(まっ、ツンデレなお人好しがいるから…)
それと日記の方ですが、何かストレスの溜まることでもありましたか?
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
ツンデレなお人好しな人は、今回はツン全開death!
>それと日記の方ですが、何かストレスの溜まることでもありましたか?
あ、いや、ストレスが溜まるようなことは何もなく、むしろ逆で気合いを入れてみただけなんですが(;´Д`)
>それと日記の方ですが、何かストレスの溜まることでもありましたか?
あ、いや、ストレスが溜まるようなことは何もなく、むしろ逆で気合いを入れてみただけなんですが(;´Д`)
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