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DATE : 2008/06/21 (Sat)
けれどここは山脈だった。

さすがに昨日は更新している暇がにゃかったでございますよぅ。

まーなんて言うんでしょうか、いつ何時に電話のベルが鳴り響くかわからないドキドキ感は、毎度のことのような気がします。

それでも時間に余裕が……ないな。うん、ない。
ないですが、それでも秒単位で予定が埋まってるわけでもないので、SSの続きをUPしておきます。
当分、次がいつになるとかどうなるとかは見通しを立てられそうにないです。

それでは。

前回はこちら
喜緑江美里の策略:7

「……なんですか」
「妙なところにいると思っていましたけど、まさかあんな可愛らしいお嬢さんと二人きりでいるとは思いませんでした。本当に、いいご身分ですね」
 待て。
「誤解のないように言っておきますが、ミヨキチと一緒にいるのは事の成り行きで、」
「ミヨキチ……ああ、あなたが機関誌で書かれていた、甘酸っぱい中学卒業時期にデートをされたお相手ですね。まぁ、それはそれは」
 どうやら何を言ってもダメなようだ。これ以上、あれこれ言葉を重ねても喜緑さんの機嫌はよくなりそうにない。
「あのぅ……」
 俺と喜緑さんのやりとりを傍らで聞いていたミヨキチが、戸惑いがちに声を出す。そりゃ戸惑うだろうな。俺も戸惑ってるわけだ。
「あら、ごめんなさい。彼から連絡を受けまして、身内の者がご迷惑をかけたみたいで、申し訳御座いません」
「いえ、迷惑だなんてそんな」
「すぐに引き取りますので。お邪魔いたします」
 一言ミヨキチに断りを入れて、了承も得ずに喜緑さんは家の中に上がり込む。困惑に怯えというスパイスを加えれば今のミヨキチみたいな表情になるんじゃないかと思うが、俺にあの人を止められると思っていただきたくない。肩をすくめて見せて、喜緑さんの後を追った。
 ソファに横たわる朝倉は、やはりぴくりとも動かない。これはどうやら、ただ眠っているとか気を失っているとか、そういうことではなさそうだ。そのくらい、俺の目から見てもわかる。
 だが喜緑さんなら、そんな朝倉を見てどう思うだろう? 何か気付くこともであるんじゃないかと、期待するのは当然と言えば当然だ……が、喜緑さんは居間への入り口で突っ立ったまま、朝倉の姿を初めてテレビを見た昭和初期の日本人みたいな眼差しで見つめているだけだった。
「どうなんですか? あの朝倉は、いったい何なんです?」
 隣にミヨキチが居るから大きな声で問い質すわけにもいかない。それとなく問いかけてみたのだが──。
「…………」
「喜緑さん?」
「え? あ、そうですね。確かに朝倉さん……うーん」
 ──どうにも歯切れが悪い。いちおう、朝倉だと言っているが、断定しているようでもない。どっちなんだ?
「あの、ちょっと。ちょっとお耳を……」
「はい?」
「いいですから」
 人の耳を券売機から切符を取るような勢いで引っ張られた。
「ひとまず、あの朝倉さんを連れ帰りましょう」
「え?」
「ここにはミヨキチさんがいらっしゃるじゃありませんか。今ならまだギリギリ無関係です。巻き込みたいのなら構いませんが、それは本意ではないでしょう?」
「そりゃあ……まぁ。でも、」
「では、よろしいですね」
 俺の意見を言葉半分、いや八分の一で遮っといて、いいも悪いもあったもんじゃない。喜緑さんはいつもの笑顔でミヨキチに振り返った。
「それでは、夜も遅いことですし、わたしたちはこれで。この度は本当にご迷惑をおかけいたしまして、重ねて謝罪と感謝を述べさせていただきます」
 笑顔を引っ込めた礼儀正しい言葉遣いに、エレベーターガールでもそこまで立派なお辞儀はしないだろうという角度で頭を下げて、言葉を捲し立てた喜緑さんは、そのまま俺に向き直った。
「では、お願いします」
「へ?」
「わたしに、朝倉さんを、担いで、帰れ、と、おっしゃるんですか?」
 そんな一語一句区切って言わなくてもいいじゃないですか。急に話を振るから虚を突かれただけですよ、と心の中で言い訳して、渋々朝倉を背中に担ぎ上げることにした。
「えー……それじゃミヨキチ、どうやら俺が運ばなくちゃならないみたいだから、これで今日は帰るよ」
「あ……そう、ですか」
 俺がそう言えば、ミヨキチはあからさまに落胆の色を見せた。まるで俺が帰ることを予想していなかったかのような態度に、こっちの方が逆に戸惑う。
 そもそも、こんなことになってなくても俺はミヨキチを家まで送り届ければ、喜緑さんが用意してくれた隠れ家に戻るつもりだったんだ。ちょっと予定外のことが割り込んだが、帰るってことだけを見れば予定通りじゃないか。
 ああ、でも。
「そういえば、一人で留守番してるんだったよな。何かあったときは携帯に電話してくれれば……ええっと、番号はこれだから」
「あ、えっと……はい」
 朝倉を担ぎ上げたまま携帯を取り出し、使い慣れない機種の操作に戸惑いながらも番号をディスプレイに表示させて見せてから、ミヨキチが番号をメモったのを確認して背を向ける。何しろ喜緑さんがさっさと外に出てしまったために、時間がないんだ。
「ああ、今日のことは妹にも内緒にしといてくれ。ミヨキチも、あいつからあれこれ聞かれても困るだろ?」
「はい、わかりました」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ……なさい」
 玄関先で名残惜しそうに俺を見送るミヨキチの姿に、後ろ髪を引かれる思いを感じながら、俺は朝倉を担いで喜緑さんの後を追った。
「やれやれ……」
 今こそこの台詞を口にするに相応しい時だろう。他の台詞は何も思い浮かばず、ただただその言葉だけが頭の中を埋め尽くしている。
 が、だからといって考えることを放棄するのはどうかと思う。何しろ厄介事の最たる物体が、物言わず俺の背後でぐったりしているんだ。これがいったい誰──いや、何なのかはっきりさせないことには始まらない。
「もうそろそろ、これの正体を明かしてくれたっていいんじゃないですか?」
 先を行く喜緑さんの背中に向かって、俺は声を掛けた。雑踏で聞こえなかったとは言わせない声量で。
「わかっているんでしょう?」
「正体、と言われましても……うーん」
 返ってくる言葉ははっきりしない。
 そういえば、長門も──土曜日にだが──こいつと直に対面したときに「誰?」とか言ってたような気がする。もしかして、長門や喜緑さんでもわからないような謎の存在とか言い出すんじゃないだろうな?
「確かにちょっと見ただけでははっきり言えませんが、今のようにしっかり見ればわかります。わかりますが……うーん」
「何ですか、歯切れが悪いですね」
「いえ、目的がよくわからなくて……それとも、目的そのものに意味はないということかしら……? でも、それならどうしてここに……うーん」
 何やら喜緑さんの頭の中では、あれやこれやと自問自答を繰り返しているらしい。断片的に漏れる言葉からは、何を考えているのかさっぱりわからん。
 こういうとき、喜緑さんの思考の旅を邪魔していいものかどうか迷う。
「そういえば」
 気を遣って声を掛けずにいたのだが、喜緑さんの方から俺を呼びかけてきた。
「どうしてあなたは、その朝倉さんと遭遇したんですか?」
「どうしてって、ミヨキチを家に送ったら、その庭先に潜んで……いたのかわかりませんが、とにかく急に現れたんですよ」
「ですから、そもそもどうしてミヨキチさんを送ることになったんですか」
「ああ」
 そうだった。そのときにあったことは、喜緑さんにも話しておくべきだろう。
 何を、と言われれば、そりゃ朝比奈さん(大)がふらりと現れたことだ。朝比奈さん(大)の一言があったからこそ、動かない朝倉を警察に引き渡す前に喜緑さんを呼び出そうと考えられたようなものだ。
「大人の朝比奈さんが、ですか? それでそのまま帰してしまったんですか。あらあら」
 心底呆れた表情を浮かべられたが、そりゃ仕方のないことだと思っていただきたい。何しろ側にはミヨキチがいたんだ。下手に問い詰めようものなら、それこそミヨキチにまでいらん情報を与え、最悪、巻き込むことになりかねない。
「ただ、あのタイミングで朝比奈さんが現れたってことは、俺を元の時間まで連れ戻す気はない、ってことでしょう? この朝倉と、何か関係があるんですかね?」
「まだ何とも言えません。ただ……わたしの考え通りなら、その朝倉さんが存在しているそのこととは、直接の関係がないと思います。わかりやすい言い方をすれば、敵でも味方でもない、中立の立場……だといいのですが」
「朝比奈さんが敵なわけないでしょう」
「さて、どうでしょう。わたしの見立てでは……そうですね、一番の障壁になるのは長門さんのような気がします」
「……え?」
 長門が? あいつが障壁って……敵になる、と喜緑さんは言ってるのか?
「どういうことですか。長門が敵って……この朝倉は何なんですか?」
「早ければ、明日にはよりはっきり判明しますね」
 そう答えて、喜緑さんはふぅっと肩を落とした。

つづく
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★無題
NAME: 蔵人
お忙しい中の更新お疲れ様です。朝倉の正体と喜緑さんのため息が気になりながらも、あの長門がどうするのか楽しみですね。
URL 2008/06/21(Sat)04:01:18 編集
あの、というのがどういうニュアンスを含んでいるのかによりますが、自分の場合は、あの長門さんだからこそ、って感じで考えておりますw
先はまだまだ長そうです(;´Д`)
【2008/06/22 00:00】
★パーン
NAME: NONAME
お忙しい中更新 お疲れ様です。
ミヨキチの関わりが此処までなのか?
朝倉さんの正体,朝比奈さん(大),長門さんは敵に?…等 いろんな謎を含みこれからの展開がますます楽しみです♪

更新 無理の無い程度で頑張って下さいませ。
2008/06/21(Sat)06:50:51 編集
今回の忙しさは短気集中型の忙しさでして。もうそろそろ収束に向かいそうです。主に〆切的な理由でw
謎展開、謎のままで終わらせないようにがんばりまっする。
【2008/06/22 00:01】
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