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DATE : 2008/06/26 (Thu)
じぇばんに「ザオリクってどんな呪文?」
にのまえ「…………」
じぇばんに「ザオラルってなに?」
にのまえ「…………」

皆様こんにちは、にのまえです。すっかり世間は夏めいてまいりました。暑くなってくると、いろんな事が起こるようです。
自分では一般常識と思っていることでも、育った生活環境によってはまったく知らないことも多々あること。そんなときは呆れたり笑ったりせず、大らかな心で懇切丁寧に説明してあげるのが優しさだと思います。

ではまた。

前回はこちら
喜緑江美里の策略:8

 そんな喜緑さんの落胆っぷりが気にならないと言えば嘘になる。何かわかっているようだが、何故にそれを隠しているのかが理解できないが、それよりも俺にはもうひとつ気になることがあった。
「で、この朝倉……どこに連れて行くつもりですか」
 目の前には、今週土曜日から遡航してきた俺の潜伏場所として喜緑さんが提供してくれた隠れ家なるアパートが見える。道中は会話に夢中で喜緑さんに着いていくだけだった俺も、事ここにいたり周囲を見渡す余裕が出てきたようだ。
「その質問、本気で聞いてらっしゃるんですか?」
 高校生にもなって九九の暗算が咄嗟にできない相手を見るような眼差しを向けてくる喜緑さんに、俺はため息を吐いた。
「確認したいだけです。まさか、俺に貸してくれている隠れ家とやらに、こいつも安置しとくつもりじゃないでしょうね?」
「理解されているなら結構です。早く部屋の中に入りましょう」
「本気ですか……」
 俺がこぼした吐息も一緒に押しのけるように、喜緑さんがドアを開いて室内にさっさと入っていってしまった。やれやれと独りごち、こうなれば俺も部屋の中に中に入るしかない。土曜日に俺を襲って来た朝倉を引き連れて。
「こうなっちまえば仕方ありませんが、いきなり目を覚まして襲いかかってきたときには、どうにかしてくれるんでしょうね?」
「それはあり得ません」
 インスタントのコーヒーを準備しながら、喜緑さんはきっぱりと断言する。その根拠は何なんだ?
「その朝倉さん、中身はカラッポですから」
「……カラッポ?」
 カラッポとは何だ? ここまで苦辛して運んで来たが、朝倉の中身はぎっしり詰まっていたぞ。あいつの体重が何キロなのかさっぱりだが、それでも一般高校生と同じなら、四〇キロ前後はありそうだ。
 あいつに意識があって同意の上で背負っているのならともかく、全身脱力状態では総重量四〇キロ前後の荷物でしかない。あの重さで中身がカラッポなら、あいつ本来の体重はいったい何キロだと問い詰めたい。
「……そんなこと、朝倉さんの前で言ったらメッタ刺しにされますよ……。ではなくて、ええと……これ、この商品名はわかります?」
 と言って喜緑さんが俺に見せたのは、コーヒーのミルク代わりに使っていた牛乳だった。
「そうですね、牛乳です。でも」
 喜緑さんは、その牛乳パックをひっくり返した。中身は空だったのか、一滴もこぼれ落ちない。
「これは『牛乳』ではなく、正しくは『牛乳パック』です」
「……どんな詭弁ですか、それは」
「正確性を問うのであれば、詭弁でもなんでもありません。こう考えてください。あなたがわたしのことを『喜緑江美里』と認識しているのは、わたしのこの外見と、その性格を頭の中で統合させ、かつ、あなたが脳内で蓄えている知識と合致しているから『喜緑江美里』と認識しているのでしょう? では仮に、この外見はそのままで性格が長門さんだったとしたら、あなたはそれでも目の前にいる『わたし』を『喜緑江美里』と認識できますか?」
「えー……」
 物は試しに、喜緑さんが長門のように部室の窓辺で物静かに本を読んでいるイメージを描いてみた。それはそれでビジュアル的には問題ないように思えるが……うーむ、やはりどこか違和感を覚えるな。まるで特大の嵐が来る前兆のように思えてならない。
 ああ、なるほど。だから朝倉を見たときに、喜緑さんはあんな曖昧な態度をして見せたのか。確かにそういうことなら戸惑いを覚えるかもしれない。
「アイスコーヒーとそばつゆがパッと見ただけでは同じに見えても、本質は違います。その朝倉さんも、外見こそ朝倉さんですが中身が違います。違うというか、何もありません。ですからわたしは、それを朝倉さんとは言えないんです。先ほどはミヨキチさんの手前、言葉を濁しておりましたけれど」
 それであの歯切れの悪さか。保護者という名目で喜緑さんを呼びつけて、それで「誰これ?」とか言われたんでは、ミヨキチに言い訳もできやしないからな。
「じゃこれ……何なんですか? 喜緑さんには朝倉に見えなくても、俺には朝倉にしか見えないですよ」
 事は牛乳の話じゃない、朝倉だ。さっきまで背負って運んだ俺には、それがハリボテの人形じゃないことがわかっている。体温もあったように思えるし、ちゃんと息づかいも耳に届いていた。
 死んでいるわけじゃない。よく出来た人形でもない。ただ、目を覚まさずに動かない。
 だから、目を覚ませば喋りもするだろうし、この見た目も相まって、俺の記憶にある朝倉らしい態度を見せるんじゃないのか?
 俺はそう思ってるわけで、中身がカラッポって意味がまずもってわからない。
「あなたは土曜日から遡航してきているんですよね? そのとき、わたしにも会ったんでしょう? その日のわたしは朝倉さんのことを指してどう言っていたのか、それを思いだしてください」
「えーっと……」
 土曜日……鶴屋さんの結納の日か。その日、結納を執り行う料亭に現れた朝倉を前に、喜緑さんが言った台詞は……朝倉だけれど朝倉ではない、だったはずだ。
 ……うん?
「矛盾してませんか?」
「いいえ」
 断言された。何故だ?
「今現在、朝倉さんがどういう状況なのか、あなたもご存じのはずです。あなたを殺そうとして長門さんに情報連結の解除をされている、そのことを。ですが長門さんは、あくまで朝倉さんのインターフェースの情報連結を解除しただけです。逆を言えば、朝倉さん自身のパーソナルデータは残っています。人で言うならば、魂というか自我というか……そういうものが、です。そのデータをそこのボディに移設すれば……どうなると思います?」
「どうって……」
 見た目は朝倉だ。そしてその中身──喜緑さんが言うには朝倉の魂とか自我に値するパーソナルデータ──も俺が知ってる朝倉になるのなら……それはもう、朝倉でしかない。
 朝倉がこの時代のこの場所に存在できると……そういう可能性なのか、これは。
「極めて現実味のない可能性ですけれど」
「え? でも今、喜緑さんが自分で言ったことじゃないですか」
「理論を申したまでです。机上の空論と言い換えてもいいかしら。事はそこまで簡単ではないんですよ。そもそも朝倉さんは情報統合思念体に背いての独断専行を行い、その結果としてインターフェースを消失しているんです。その背景にどのような思惑があったにしろ、それは言い訳にすらなりません。ですから朝倉さんのパーソナルデータは、かなり面倒な管理下に置かれています。引っ張り出すためには複数のインターフェースの認証と情報統合思念体による可決、そして長門さんの決断が必要なんです」
「長門の?」
「朝倉さんはほら、長門さんのバックアップじゃありませんか。長門さんを他所に、朝倉さんのインターフェースやパーソナルデータは動かせません」
 ああ、そういえばそうだったな。
「たぶん、一番の難関は長門さんですね。素直に首を縦には振らないでしょう」
「そうなんですか?」
「それはそうですよ。朝倉さん、理由は何であれ、結局は長門さんを無視して勝手なことをしでかしたんですから。そうすることが必然だったとしても、そのことを長門さんご自身が知っていたとしても、それでも朝倉さんは何も言わずに勝手なことをしたんです。そんな朝倉さんを、長門さんが許しているとは思えません。わたしが『長門さんこそ最大の障壁になる』と言ったのは、そういう意味なんですよ」
 長門がそこまで怒ってるとは思えないが……いやしかし、あいつはああ見えて、意外と頑固なところがあるからな。確かに喜緑さんの言うとおりかもしれない。
 それでも、だ。
「ここに朝倉の体があって、そのパーソナルデータとやらを入れ込めば朝倉は復活するんでしょう?」
「…………」
 俺がそう言えば、喜緑さんは冷めた眼差しを向けてきた。
「復活して欲しいんですか、朝倉さんに」
「そりゃあ、そうですよ」
「何故?」
「何故って」
 理由を聞かれるとは思わなかった。思っていなかったからこそ、すぐには返す言葉が出てこない。
 そんな俺を見て、喜緑さんは溜息をこぼした。
「朝倉さんはすでに存在しない方です。人で言えば、亡くなった方と同じです。どんなに惜しんでも、蘇らないのと同じです。となれば、朝倉さんが復活されることは不自然なことになりませんか?」
「それは……いや、比較の仕方が違うでしょう。朝倉は死んでるわけじゃない。いわゆる仮死みたいなもんじゃないんですか? 今までは目覚める方法がなかったけれど、今になって画期的な治療方法が見つかったとか、そういうもんじゃないんですか? だったら目覚めさせようとするのは、当たり前のことじゃないですか」
「うーん……」
 思いつきだが、俺がそう言えば喜緑さんは考えるように腕を組んだ。
「正直なところを申しますと、わたしは朝倉さんが復活しようがしまいが、どちらでもいいんです。いえ、むしろどちらに転んでも、わたしの負担は大きくなるだけですから」
「負担?」
「仮に朝倉さんを復活させるとして、その根回しに奔走させられることになります。何より長門さんに怒られてしまいますもの。逆に、復活させないとすれば今ここで寝転がっている朝倉さんのインターフェースを消さなければなりません。どちらも面倒で気が重くなることです」
 確かに喜緑さんと朝倉の間には、長門と朝倉の間にあるような関係性は低そうだ。それに朝倉そのものの存在意義も、『ハルヒの観測』という、喜緑さんや長門の目的、いや、その親玉にとっての主目的からは外れている。
「だったら、同じ手間なら気分が良くなる方にしませんか? 喜緑さんだって、朝倉を消すよりは生かす方を選んだ方が、後味はいいでしょう?」
 少なくとも俺はそう思っているのだが、喜緑さんもそう思ってくれるかどうかはわからない。何しろこの人はロジカルな思考で動いているっぽいからな。後味がどうのとか、そういう結果による満足感とは無縁で、如何に手際よく、合理的に事を推し進めるかってことを重視していそうだ。
 だから俺の言葉は、一か八かの賭けだった。もしかすると賭けにすらなってないかもしれないが、喜緑さんが人間社会に溶け込むような宇宙人なら、俺が言いたいこともわかってくれるんじゃないかと期待しての言葉だった。
「わたしには、あなたの言うような満足感というものはよく理解できません」
 やはりダメか……?
「が、あなたがそうまでおっしゃるのであれば、長門さんに怒られることを差し引いても利点はありそうですね。貸しを作るという意味で、朝倉さんの復活に意味を見出せそうです」
「それなら」
「少しだけ、真面目に策を弄してみましょうか」
 そう呟いて、喜緑さんは微かに笑みを転がした。
 もしかして俺は、あまり喜んでばかりもいられないことをしたんじゃないか?
 そう思える微笑みだった。

つづく
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★無題
NAME: 蔵人
なんだろう、結局喜緑さんに言わされてるような気がするのは………キョンはえらく大きな借りを作ってしまったんですねww
URL 2008/06/26(Thu)00:18:16 編集
相手にこちらの都合のいいことを言わせるのは、交渉術の基本なのです( ̄ー ̄)
策士たる喜緑さんにとって、人心を思うように操ることなど容易いわけですよ。……えー、たぶん。
【2008/06/27 00:19】
★無題
NAME: ソウ
ザオリクって…w なんか不幸なことでもあったんですか?w

それはさておき、朝倉復活ですか!? まだまだキョンと喜緑さんの名(迷?)コンビから目が離せませんねww
2008/06/26(Thu)00:36:58 編集
>ザオリク
何やらラジオの影響らしいです。FFは知ってるのにDQは知らないとは、世の中には何が起こるかわかりませぬ。
【2008/06/27 00:19】
★無題
NAME: purple mirror
ザオラル≪座折留≫

剋崎流茶道術の極意。
退席しようとする客人を静かなる気を用いて、座布団に縛り付け封印する接待の呼吸法。
その昔、天に昇り帰る龍を一歩も動かずに気を削ぎ、見事天の秘薬を拝領したということからその名がついた。

ザオリク ≪座折句≫
キアリクの親戚。
森さんと喜緑さんの立ち位置のような類似性を持つ。
2008/06/26(Thu)03:12:44 編集
民明書房!Σ(゜∀゜)
【2008/06/27 00:21】
★無題
NAME: アバル信者
恐らくじぇばんに氏はSZBHさよなら絶望放送を聴いたのではなかろうか?
>ザオラル
生死を5割の確立で逆転させる魔法だと教えて更なる誤解を引き出すのが吉。
2008/06/26(Thu)04:24:06 編集
>SZBHさよなら絶望放送
まさにそれですw 毎週、ネットで更新される度に聞いてるぽいです。
【2008/06/27 00:21】
★無題
NAME: Miza
朝倉さん復帰にwktkです。
でもその一方でキョン君は喜緑さんに頭が上がらなくなりそうです。

ああ・・・今でもそうか。
2008/06/26(Thu)10:02:08 編集
そもそもキョンくんが上に立てる相手っていましたっけ……?w
【2008/06/27 00:22】
★無題
NAME: めじくす
ザオリク/ザオラルの話は、何気ない日常会話だと最初は思いました。
>朝倉は復活するんでしょう?
日記トークに伏線が潜んでいるとは、驚きでした。「復活した朝倉さん」とは違う、「朝倉さんが復活する過程」が描かれると思うと、わくわくします。

遅くなりましたが、新刊を購読・堪能させていただきました。tokyoさんのイラストとの相乗効果で、長門の息遣いまでも感じられるような、臨場感のある作品になっていたように思います。

長々と失礼しました。
2008/06/26(Thu)22:59:06 編集
や、日記トークは本当に偶然ですw むしろ自分も言われて「……ああっ!」と思ったくらいで。

>新刊
tokyoさんにご協力いただけて、「逢瀬」は自分が思い描く形で本にできました。「逢瀬」に限らず、うちの本は絵師さんたちの優しさでできてますw
【2008/06/27 00:24】
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