category: 日記
DATE : 2008/02/28 (Thu)
DATE : 2008/02/28 (Thu)
でもずっとハルヒSS書いてる気がする。気がしただけで充分。
なんとかかんとか有言実行にこぎ着けた! 自分で自分を褒めてあげたい。でもやることはまだ山積みdeath! ぎゃふん。
とりあえず今日はSSだけ置いときます。ではまた明日!
なんとかかんとか有言実行にこぎ着けた! 自分で自分を褒めてあげたい。でもやることはまだ山積みdeath! ぎゃふん。
とりあえず今日はSSだけ置いときます。ではまた明日!
前回はこちら
森園生の変心:一章-b
「何を……と、申しましても。本日から鶴屋家の家事手伝いとして従事させていただくことになりました。以後、改めましてよろしくお願い申し上げます」
物凄く畏まった態度と言葉に、それが決して何かしらの思惑あっての……いや、思惑があるのかもしれないが、少なくとも森さんの態度と発言は、鶴屋家でちゃんと真面目にメイドをしているんだな、と思い至らせるのに充分なものだった。
「お嬢様、ここでの立ち話もお客様に対して失礼にあたるかと思われます。ご都合が悪くなければ、中へお通しされては如何でしょうか」
「おぉぅ、そうだねっ! キョンくん、どっちにしろさっ、せっかくウチまで来てくれたんだもの、お茶くらい飲んでいきなってっ!」
鶴屋さんは俺の手を取って、力任せに引っ張って来る。そのままずるずると屋敷内に足を踏み入れることになったが、俺の視線は森さんを捕らえていた。
鶴屋家の新しい家事手伝いとして森さんが働いている。それはどうやら事実のようだ。この二人が共謀して俺を誑かそうとしているのなら話は別だが、そんなことをする意味がわからないし、森さんの佇まいは明らかにメイドのそれである。
どうして森さんが鶴屋家でメイドなんかしなくちゃならないんだ? 彼女は古泉と同じように、ハルヒがはた迷惑で作り出す閉鎖空間とそこにいる《神人》退治を行っている、時代錯誤も甚だしい秘密結社っぽい『機関』に所属する人じゃなかったのか?
彼女がSOS団の合宿と称する小旅行でメイドをしているのは知っている。ただそれは、世を忍ぶ仮の姿、ハルヒを含めたSOS団の連中と行動をともにするときだけだと、本人も言ってたじゃないか。それなのに、いつの間にメイドが本業になったんだ?
まったく意味がわからん。森さんが何の思惑もなくこんなことをするものだろうか? そういえば古泉は、俺が鶴屋さんのところでバイトをしようとするのを渋っていた節がある。もしかして、古泉の差し金として、俺より先にバイトの穴を埋めちまえと働きだしたんじゃないだろうな?
「森さんの志望動機とか、何なんですか?」
初めて足を踏み入れる鶴屋さんの自室だが、不躾に辺りをキョロキョロ見渡す余裕もない。どこかしら懐かしさを覚える和風のワンフロアに、同年代の女性らしい小物などがあり、漂う香りも女性特有の爽やかさがある、とだけ言っておこう。
「志望動機? あたしがそんなこと聞いてるわけないよっ。でもまっ! あれだよね~っ。働くには働くだけの理由があるってわけっしょ? 生活のためだったりとか、何か欲しいものがあるとか、それこそ人それぞれってヤツっさ!」
雇い主がそんな適当でいいんだろうか。いや、鶴屋さんが森さんを雇ったわけじゃないから、知らなくて当然っちゃ当然なんだろう。
「んー……でも」
それでも鶴屋さんは、何かに思い至ったように。
「すっごい真面目だし、気配りも行き届いてるんだけど、でもメイドさんのお仕事してるーっ! って感じじゃないよね。メイドさんなのにメイドさんじゃないって感じかなっ」
なんてことをポツリと漏らした。
メイドなのにメイドじゃない……ねぇ。ということは、鶴屋さんの見立てでも森さんは何かしらの思惑あってここにいる……ってことなんだろうか。何かにつけて妙なところで鋭い鶴屋さんがそう言うのだから、そうなのかもしれない。
「んなことよりキョンくん、森さんのこと気にするのもいいけどっ! 自分のバイト探しはどーすんだい?」
その一言で、一気に現実に引き戻された。そうだった、鶴屋さんのところで働けないとなれば、他を探すしかない。
「さすがにハルにゃんに相談はできないよねーっ。みくるや有希っこも働くことに関しては、ちょーっと相談相手にゃならんかなっ。うっははははっ! 頼りになるのは古泉くんってとっか?」
その古泉にしたって、俺に斡旋するバイトはどうせ『機関』絡みのものに決まってる。聞くだけ無駄だろう。
そもそも、あいつの誘いは最初にきっぱり断ってるんだ。
「ってなると~……んー……ほれ、キョンくんの友だちに聞いてみたらどっかな?」
「谷口とか国木田っすか」
「そそそっ! 特に……えーっとほれっ! あのかっるいノリの子の方は、バイトとかいろいろしてそーじゃん。相談してみれば?」
あの二人で軽いノリ、っつったら谷口の方か。確かにあいつはバイトをしてたような気がする。が、あいつの場合はバイトの種類よりもそこで働く女性目当てなのは言うまでもない。本人がそう明言してたしな。
となれば、あいつと俺とでは働く目的からして違っている。相談するだけ無駄だろう。
なら国木田はどうだ? あいつがバイトをしているって話は聞いたことがない。それよりも塾に通ってるんじゃなかったかな? そうなると働いている暇なんてなさそうだし、仮に聞いたところで至極真っ当な意見を返されるのが目に見えている。
つまり、求人雑誌から探せば? って答えだ。
「あー……うん、キョンくん。あのさ、あたしがこんなこと言うのも何だけど……もしかして、いざって時に相談できる友だちっていないにょろ?」
「言わんでください」
そこはかとなく泣きたくなってきた。
「あ、あは、あはははっ! ま、まぁあんま気にしなくてもさっ! だぁ~いじょうぶだって。あたしも一緒に探してみっからさっ!」
フォローになってないっすよ鶴屋さん。
そもそも、事は俺のバイト探しだ。それを鶴屋さんが一緒になって探すことはない。その心遣いだけで充分っすよ。
「失礼いたします」
そんな頃合いで部屋のドアがノックされた。
「あいよっ」
「飲み物をお持ちいたしました」
やってきたのは森さんだった。言葉通りトレーにお茶と茶菓子を乗せ、しずしずとした物腰で部屋の中に入ってくると、ちゃぶ台と称してよさそうなテーブルの上にお茶と茶菓子を並べてくれた。
俺がよく目にしているのは、こういうことをしている森さんだ。だからやってることに違和感もないわけで、気持ち的にも「ああ、森さんがいつものことをやってるな」って気持ちで眺められるわけだが、場所は鶴屋家である。まるで岩の隙間から滲み出る自然水のごとくわき出る疑問は、どうしてこの人が鶴屋家でメイドなんてしてるんだろう、っていう、一度は消えた考えだ。
「あの……何か?」
そんなことを考えていたせいか、俺の視線は我知らず森さんに不躾なほど向けられていたんだろう。照れるというよりは、どこかしら訝しむように見つめ返された。
「あ、いや」
「キョンく~ん、仕事取られたからって睨んじゃダメだよっ」
そんな人聞きの悪い。そんなことで、俺が森さんを睨めるわけないじゃないですか。
「仕事、とおっしゃいますと、何か粗相がございましたでしょうか」
森さんのことだからさらりと流してくれるもんだと思っていたのだが、仕事の話というのが気になったのか、食い付いてきた。別に森さんの働きっぷりに文句を言うつもりはありませんよ。
「それがさっ! キョンくん、今日うっとこ来たのは募集してた家事手伝いのことなのさっ。ところがっ! 先に森さんに取られちゃったもんだから、ちょろんっとスネちゃってんのっ」
別にスネちゃいませんよ。そもそも俺が気にしてるのは、自分のバイトをどうするかってのももちろんあるが、今においては森さんが働いている動機についてなんだ。
かといって、それを本人に聞いても答えてくれるかどうか。とかく『機関』の人間は秘密主義が徹底している。仮に話してくれても、それが事実であるかも疑わしい。
「まぁ、そうだったのですか」
なんてことを当の『機関』に所属している森さんに言うこともできず、黙して語らずを貫いていれば、森さんは森さんで鶴屋さんの話を鵜呑みにしたらしい。
「わたしも故あってこちらで働かせていただいておりますので、気軽に交代しても、とは申し上げられません。この度は、大変残念なことで……」
「あ、いや、そんなことはまったく気にしないでください。俺の方は単なるバイトを捜しているだけですから」
「そのバイトっつったってさ」
俺の妙な言い訳めいたセリフを引き継いで、鶴屋さんが口を開いた。
「キョンくんの希望を叶えてくれそーなとこって、そーそー滅多やたらにあるもんじゃないっしょっ。まー、あたしもおやっさんとかに相談してみっけど」
「希望、と申しますと……どのようなものなのでしょうか」
「いや、まぁ、なんというか……」
俺だって自分が最初に掲げた希望のすべてがすんなり通るような仕事なんてあるわけがない、と思ってる。そんな話を古泉や鶴屋さんに話せば、若干の憐れみを含んだ眼差しを向けられているんだ。そこへさらに森さんに話すのにも勇気がいる。
ま、言うだけなら自由か、という楽観的なハルヒ的物の考え方で言ってみたが──。
「それはまた……」
──森さんにも、ことさら困ったような表情を浮かべられた。ここでもそうですか。
「ねっ? うちだったらまぁ、あたしがいるし、多少の融通なら利かせられっかなーって思ったけどっ! そうもいかなくなっちゃったってわけっさ」
「……それでしたら」
しばし考える素振りを見せた森さんは、ちらりと鶴屋さんに視線を向けた。
「お嬢様が個人的に彼を雇用すると言うのはいかがでしょうか」
「え?」
「わたしは鶴屋家に雇われております。お嬢様のことのみならず、お屋敷全般の家事を賄うのが務め。彼には、朝晩の送迎や学舎でのお嬢様のご面倒を見ていただいては、と思いまして」
えー……それは何だ? 鶴屋さんが個人的に俺を執事にして雇えばいいと言ってるんだろうか。しかもそれは学校でのこと、だって?
「いや、それはさすがに……」
「お嬢様も今後に大事を抱えていらっしゃるとお聞きしております。万が一を考え、同じ学舎へ通う彼ならば最適かと存じますが」
……大事?
「あー、んー、まぁ、そうだけどさっ。どーする、キョンくん?」
少なくとも、森さんの話はあまり現実的なもんじゃない、と俺は思うわけだが、どういうわけか鶴屋さんはその考え方に否応もないらしい。それどころか、このお方にしては珍しく、自分で決めずに俺に決定権を丸投げしてる風でもある。
「どうするって……俺はバイトが見つかればそれでいいかな、ってとこなんですが」
「ほほうっ! んじゃ、ちっくらうっとこのおやっさんに話つけてみるっさ。ちょろんっと待っといてっ」
もしかして、森さんの提案は鶴屋さん的にアリな話だったんだろうか。俺がどっちつかずな曖昧な態度を示してみれば、そんな言葉を残して颯爽と部屋から出て行ってしまった。
「働けるようになるとよろしいですね」
にっこり微笑みながらそういう森さんに、果たして俺は、なんと答えるべきなんだろうね。
つづく
森園生の変心:一章-b
「何を……と、申しましても。本日から鶴屋家の家事手伝いとして従事させていただくことになりました。以後、改めましてよろしくお願い申し上げます」
物凄く畏まった態度と言葉に、それが決して何かしらの思惑あっての……いや、思惑があるのかもしれないが、少なくとも森さんの態度と発言は、鶴屋家でちゃんと真面目にメイドをしているんだな、と思い至らせるのに充分なものだった。
「お嬢様、ここでの立ち話もお客様に対して失礼にあたるかと思われます。ご都合が悪くなければ、中へお通しされては如何でしょうか」
「おぉぅ、そうだねっ! キョンくん、どっちにしろさっ、せっかくウチまで来てくれたんだもの、お茶くらい飲んでいきなってっ!」
鶴屋さんは俺の手を取って、力任せに引っ張って来る。そのままずるずると屋敷内に足を踏み入れることになったが、俺の視線は森さんを捕らえていた。
鶴屋家の新しい家事手伝いとして森さんが働いている。それはどうやら事実のようだ。この二人が共謀して俺を誑かそうとしているのなら話は別だが、そんなことをする意味がわからないし、森さんの佇まいは明らかにメイドのそれである。
どうして森さんが鶴屋家でメイドなんかしなくちゃならないんだ? 彼女は古泉と同じように、ハルヒがはた迷惑で作り出す閉鎖空間とそこにいる《神人》退治を行っている、時代錯誤も甚だしい秘密結社っぽい『機関』に所属する人じゃなかったのか?
彼女がSOS団の合宿と称する小旅行でメイドをしているのは知っている。ただそれは、世を忍ぶ仮の姿、ハルヒを含めたSOS団の連中と行動をともにするときだけだと、本人も言ってたじゃないか。それなのに、いつの間にメイドが本業になったんだ?
まったく意味がわからん。森さんが何の思惑もなくこんなことをするものだろうか? そういえば古泉は、俺が鶴屋さんのところでバイトをしようとするのを渋っていた節がある。もしかして、古泉の差し金として、俺より先にバイトの穴を埋めちまえと働きだしたんじゃないだろうな?
「森さんの志望動機とか、何なんですか?」
初めて足を踏み入れる鶴屋さんの自室だが、不躾に辺りをキョロキョロ見渡す余裕もない。どこかしら懐かしさを覚える和風のワンフロアに、同年代の女性らしい小物などがあり、漂う香りも女性特有の爽やかさがある、とだけ言っておこう。
「志望動機? あたしがそんなこと聞いてるわけないよっ。でもまっ! あれだよね~っ。働くには働くだけの理由があるってわけっしょ? 生活のためだったりとか、何か欲しいものがあるとか、それこそ人それぞれってヤツっさ!」
雇い主がそんな適当でいいんだろうか。いや、鶴屋さんが森さんを雇ったわけじゃないから、知らなくて当然っちゃ当然なんだろう。
「んー……でも」
それでも鶴屋さんは、何かに思い至ったように。
「すっごい真面目だし、気配りも行き届いてるんだけど、でもメイドさんのお仕事してるーっ! って感じじゃないよね。メイドさんなのにメイドさんじゃないって感じかなっ」
なんてことをポツリと漏らした。
メイドなのにメイドじゃない……ねぇ。ということは、鶴屋さんの見立てでも森さんは何かしらの思惑あってここにいる……ってことなんだろうか。何かにつけて妙なところで鋭い鶴屋さんがそう言うのだから、そうなのかもしれない。
「んなことよりキョンくん、森さんのこと気にするのもいいけどっ! 自分のバイト探しはどーすんだい?」
その一言で、一気に現実に引き戻された。そうだった、鶴屋さんのところで働けないとなれば、他を探すしかない。
「さすがにハルにゃんに相談はできないよねーっ。みくるや有希っこも働くことに関しては、ちょーっと相談相手にゃならんかなっ。うっははははっ! 頼りになるのは古泉くんってとっか?」
その古泉にしたって、俺に斡旋するバイトはどうせ『機関』絡みのものに決まってる。聞くだけ無駄だろう。
そもそも、あいつの誘いは最初にきっぱり断ってるんだ。
「ってなると~……んー……ほれ、キョンくんの友だちに聞いてみたらどっかな?」
「谷口とか国木田っすか」
「そそそっ! 特に……えーっとほれっ! あのかっるいノリの子の方は、バイトとかいろいろしてそーじゃん。相談してみれば?」
あの二人で軽いノリ、っつったら谷口の方か。確かにあいつはバイトをしてたような気がする。が、あいつの場合はバイトの種類よりもそこで働く女性目当てなのは言うまでもない。本人がそう明言してたしな。
となれば、あいつと俺とでは働く目的からして違っている。相談するだけ無駄だろう。
なら国木田はどうだ? あいつがバイトをしているって話は聞いたことがない。それよりも塾に通ってるんじゃなかったかな? そうなると働いている暇なんてなさそうだし、仮に聞いたところで至極真っ当な意見を返されるのが目に見えている。
つまり、求人雑誌から探せば? って答えだ。
「あー……うん、キョンくん。あのさ、あたしがこんなこと言うのも何だけど……もしかして、いざって時に相談できる友だちっていないにょろ?」
「言わんでください」
そこはかとなく泣きたくなってきた。
「あ、あは、あはははっ! ま、まぁあんま気にしなくてもさっ! だぁ~いじょうぶだって。あたしも一緒に探してみっからさっ!」
フォローになってないっすよ鶴屋さん。
そもそも、事は俺のバイト探しだ。それを鶴屋さんが一緒になって探すことはない。その心遣いだけで充分っすよ。
「失礼いたします」
そんな頃合いで部屋のドアがノックされた。
「あいよっ」
「飲み物をお持ちいたしました」
やってきたのは森さんだった。言葉通りトレーにお茶と茶菓子を乗せ、しずしずとした物腰で部屋の中に入ってくると、ちゃぶ台と称してよさそうなテーブルの上にお茶と茶菓子を並べてくれた。
俺がよく目にしているのは、こういうことをしている森さんだ。だからやってることに違和感もないわけで、気持ち的にも「ああ、森さんがいつものことをやってるな」って気持ちで眺められるわけだが、場所は鶴屋家である。まるで岩の隙間から滲み出る自然水のごとくわき出る疑問は、どうしてこの人が鶴屋家でメイドなんてしてるんだろう、っていう、一度は消えた考えだ。
「あの……何か?」
そんなことを考えていたせいか、俺の視線は我知らず森さんに不躾なほど向けられていたんだろう。照れるというよりは、どこかしら訝しむように見つめ返された。
「あ、いや」
「キョンく~ん、仕事取られたからって睨んじゃダメだよっ」
そんな人聞きの悪い。そんなことで、俺が森さんを睨めるわけないじゃないですか。
「仕事、とおっしゃいますと、何か粗相がございましたでしょうか」
森さんのことだからさらりと流してくれるもんだと思っていたのだが、仕事の話というのが気になったのか、食い付いてきた。別に森さんの働きっぷりに文句を言うつもりはありませんよ。
「それがさっ! キョンくん、今日うっとこ来たのは募集してた家事手伝いのことなのさっ。ところがっ! 先に森さんに取られちゃったもんだから、ちょろんっとスネちゃってんのっ」
別にスネちゃいませんよ。そもそも俺が気にしてるのは、自分のバイトをどうするかってのももちろんあるが、今においては森さんが働いている動機についてなんだ。
かといって、それを本人に聞いても答えてくれるかどうか。とかく『機関』の人間は秘密主義が徹底している。仮に話してくれても、それが事実であるかも疑わしい。
「まぁ、そうだったのですか」
なんてことを当の『機関』に所属している森さんに言うこともできず、黙して語らずを貫いていれば、森さんは森さんで鶴屋さんの話を鵜呑みにしたらしい。
「わたしも故あってこちらで働かせていただいておりますので、気軽に交代しても、とは申し上げられません。この度は、大変残念なことで……」
「あ、いや、そんなことはまったく気にしないでください。俺の方は単なるバイトを捜しているだけですから」
「そのバイトっつったってさ」
俺の妙な言い訳めいたセリフを引き継いで、鶴屋さんが口を開いた。
「キョンくんの希望を叶えてくれそーなとこって、そーそー滅多やたらにあるもんじゃないっしょっ。まー、あたしもおやっさんとかに相談してみっけど」
「希望、と申しますと……どのようなものなのでしょうか」
「いや、まぁ、なんというか……」
俺だって自分が最初に掲げた希望のすべてがすんなり通るような仕事なんてあるわけがない、と思ってる。そんな話を古泉や鶴屋さんに話せば、若干の憐れみを含んだ眼差しを向けられているんだ。そこへさらに森さんに話すのにも勇気がいる。
ま、言うだけなら自由か、という楽観的なハルヒ的物の考え方で言ってみたが──。
「それはまた……」
──森さんにも、ことさら困ったような表情を浮かべられた。ここでもそうですか。
「ねっ? うちだったらまぁ、あたしがいるし、多少の融通なら利かせられっかなーって思ったけどっ! そうもいかなくなっちゃったってわけっさ」
「……それでしたら」
しばし考える素振りを見せた森さんは、ちらりと鶴屋さんに視線を向けた。
「お嬢様が個人的に彼を雇用すると言うのはいかがでしょうか」
「え?」
「わたしは鶴屋家に雇われております。お嬢様のことのみならず、お屋敷全般の家事を賄うのが務め。彼には、朝晩の送迎や学舎でのお嬢様のご面倒を見ていただいては、と思いまして」
えー……それは何だ? 鶴屋さんが個人的に俺を執事にして雇えばいいと言ってるんだろうか。しかもそれは学校でのこと、だって?
「いや、それはさすがに……」
「お嬢様も今後に大事を抱えていらっしゃるとお聞きしております。万が一を考え、同じ学舎へ通う彼ならば最適かと存じますが」
……大事?
「あー、んー、まぁ、そうだけどさっ。どーする、キョンくん?」
少なくとも、森さんの話はあまり現実的なもんじゃない、と俺は思うわけだが、どういうわけか鶴屋さんはその考え方に否応もないらしい。それどころか、このお方にしては珍しく、自分で決めずに俺に決定権を丸投げしてる風でもある。
「どうするって……俺はバイトが見つかればそれでいいかな、ってとこなんですが」
「ほほうっ! んじゃ、ちっくらうっとこのおやっさんに話つけてみるっさ。ちょろんっと待っといてっ」
もしかして、森さんの提案は鶴屋さん的にアリな話だったんだろうか。俺がどっちつかずな曖昧な態度を示してみれば、そんな言葉を残して颯爽と部屋から出て行ってしまった。
「働けるようになるとよろしいですね」
にっこり微笑みながらそういう森さんに、果たして俺は、なんと答えるべきなんだろうね。
つづく
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[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
いいえ、鶴屋さんの専属執事ですw
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
ひよっこぺーぺーのキョンくんが、バトラーなんて上の階級になれるわけもなく、せいぜい使用人がいいところかもしれませんw
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:これなんてエr(ry
しかしそこには森さんもいるわけですから、あまり迂闊なこともできず……( ̄ー ̄)
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