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DATE : 2008/03/02 (Sun)
今回の長篇は、森さんが主役のお話です。なんだか今の今まで出番がないなぁ、とか、喋ってるセリフを数えてみたら片手で事足りるよ! など、そう思えてしまえるかもしれませんが、それでも森さんが主役であるのは間違いありません。

えーっと、ほら、あれですよ。ガンダムSEED DESTINYの本放送が始まったころ、シン・アスカが主役なのかと思って見ていたら、最終回ではキラが主役になってた! みたいな展開になると思えばわかりやすいでしょう。ねっ!

そんなわけで、今日は前回からの続きになります。

前回はこちら
森園生の変心:一章-c


 明けて翌日。月曜の朝という、新しい一週間の始まりは気怠さも倍増され、布団から這い出るだけでも一苦労だというのに、その日の俺は早い時間であるにもかかわらず、必死になって自転車を飛ばしていた。
 まだ遅刻もしない余裕のある頃合いだ。むしろ、普段の月曜日なら半分寝惚けて朝飯を頬張っているか、あるいは妹の極悪目覚ましアタックを食らっているかのどちらかだろう。
 にもかかわらず、そんな早起きをして必死になって自転車を漕いでいるのは、鶴屋さんの家に向かっているからに他ならない。
 結局、森さんが提案してくれた鶴谷さん専属執事という立場は、どうやら本気でアリな展開だったらしい。あの後、思い立ったら即実行とばかりに俺を個人的に雇う是非を親に聞きに言った鶴屋さんは、戻ってくればいつもと変わらぬ平素な笑みを浮かべて「おっけーが出たよっ」などと、けろりと言い放ってくれた。
 本当にそれでいいのかと疑わずにはいられないが、そうと決まったのならここは素直に喜ぶべきだろう。そりゃだって、一度はフイになったバイトが決まったわけだからな。
 そんな俺の仕事内容と言えば、これまた森さんが言ったことそのまんまである。つまり、学校内における鶴屋さんのお世話、というものだ。
 果たしてあの人に俺なんかの世話がいるのだろうか? という疑問は、この際、横に置いておこう。むしろ俺の方がお世話になっているのは、はばかることのない事実であり、俺も自覚している。
 ただ、それでも自分の仕事がそういう役割である以上、鶴屋さんの世話ということをしなければならないわけで、じゃあ具体的にはどうしようってことになった。
 こういうことを本人である鶴屋さんに改めて聞くのもどうかと思うが、かといってわからないままでは話にならない。確認のつもりで聞いてみたら「何かあったら声を掛けるっさ」と言われ、どうやらあまりアテにされてない気がして、そこはかとなくもの悲しくなったのは、ここだけの話である。
 そもそも、執事とやらの仕事は、主がいちいち声を掛ける前に気付いて行動するもんじゃないかと思う。よくわからんけど。ただ、森さんを見ていると、特にそう感じるわけだ。
 そんな先輩的立場となった家事手伝い人、森さんにそれとなく相談してみれば、返ってきた言葉は「朝晩の送迎や昼食時のお世話をされては如何でしょう」と言われたわけで、それならそうしましょうと決まった。
「やっぽーっ! キョンくん、はっやいねぇっ!」
 予定時間に遅れることなく、鶴屋家正面玄関とも言うべき門の前にたどり着いた俺だが、そこにはすでに鶴屋さんがスタンバっていた。早いと言うのなら、鶴屋さんの方が数倍は早いと思うんですがどうですかね。
「こちら、昼食のお弁当になります」
 スタンバっていたのは鶴屋さんだけではない。その傍らには森さんも居て、俺に弁当の包みを差し出して来た。
 どうやら森さんは俺のような通いの家事手伝いではなく、住み込みでメイドをしているらしい。これはもう何て言うか、本当に『機関』から本式メイドに職変えをしたんじゃなかろうか。
 にしてもこの弁当、量が多いな。
「お嬢様の分とあなたの分もございますので」
「俺のもですか?」
「ご不要なら他の方に譲渡されても、破棄していただいても構いませんので」
 不要なんてわけもない。今日は朝が早かったので、うちの親が弁当を作る暇もなかったんだ。学食で事を済ませるかと考えていただけに、有り難いことこの上ない。
「んじゃ、よろしく頼むっさ!」
 そう言って、鶴屋さんはこの人らしい性格をよく表すかのように、立ち乗りで俺の自転車にまたがってきた。
 まだ高校生の俺には車の免許の持ち合わせは当然なく、かといってバイクの免許もあろうはずもなく、せいぜい自転車の荷台に乗ってもらって運ぶ程度が関の山だ。
「いっやーっ、こういうのは楽ちんでいいねっ! キョンくんは大変そうだけど、でもまっ! お仕事なんてそんなもんさっ!」
「朝早いのが辛いですけど、運ぶ分には楽なもんですよ。いつもはどうしてたんですか?」
「ん~? ふっつーに車で送ってもらってたっさ」
 いやそれ、普通じゃないでしょう。少なくとも俺は、生まれてこの方、一度たりとも親やそれ以外の誰であろうと、車で送迎されたことなんてないぞ。
「いやでもほれっ、けっこーハッズイんだよっ! みんなジロジロ見ちゃうもんだからさっ、校門まで行くのも最近はやめてもらってたにょろよ。こういう風に自転車で送ってもらった方が、青春を謳歌してるーって感じになるっしょっ!」
 自転車で送ってもらうことのどこに青春の謳歌があるのかわからんけども、鶴屋さんは車での送迎よりこっちがいいと思っているらしい。それならそれで運ぶ甲斐があるし、このボロい自転車も本望だろうさ。
「そういえば」
 鶴屋さんを後ろに乗せて快調に自転車を飛ばしながら、ふと昨日のことを思い出した。
「昨日、森さんが言ってましたが、何かあるんですか?」
「ほぇ? なんか言ってたっけ?」
「大事を控えたとかなんとか。それがあるから、俺をバイトに雇ってくれたんでしょう?」
「ああ、その話かい? 別にたいしたことじゃないんだけどさっ、今週の土曜に……あれっ? ねっ、あれってみくるじゃないっかな?」
「え?」
 話を途中で区切って後ろに立ち乗りしている鶴屋さんが指さすその先には、一人静かに歩を進める朝比奈さんの姿があった。
「おーい、みっくる~っ!」
「あれ? あ、鶴屋さん……と、キョンくん?」
 俺が自転車を止めるのも待っていられない、とばかりに飛び降りて、鶴屋さんが手をぶんぶん振って朝比奈さんを呼び止めれば、朝比奈さんは呼び止めた鶴屋さんよりも、どうして俺が一緒にいるんだろうということを暗に示すようにキョトンとした表情を浮かべて見せた。その面持ちも麗しいことは言うまでもない。今日はいい一日になりそうだ。
「おはようございます、朝比奈さん」
「あ、おはようキョンくん。あの……どうして鶴屋さんと一緒にいるの?」
 朝比奈さんがそう聞いてくるのも無理はない。いつ如何なる時であれ、俺と鶴屋さんが二人でいるって状況は確かに珍しい。しかもそれが朝っぱらからともなれば、朝の挨拶もそこそこになるのも当たり前ってもんだ。
 ま、得てしてそういう疑問ってのは、種を明かされれば「なぁ~んだ」の一言で片が付くもんなんだけどな。
「んっふふふ……キョンくんはねっ、あたしのモノになっちゃったのさっ!」
「ふぇっ!?」
 俺がちゃんと誤解の無いように説明しようとした矢先、鶴屋さんが人の腕にしなを作りながら寄り添いつつ、とんでもない爆弾を投下しやがった。
「ちょっ、何言ってんですか!」
「あっれぇ~っ? ウソは言ってないにょろよ」
 確かに今の俺の立場は、鶴屋さん専属の執事らしいので『あたしのモノ』とやらに間違いはなく、となればおっしゃるようにウソは言ってないが、あれこれ誤解を招きそうな端折り方をしてるじゃないですか。
「そうではなくて、あのですね朝比奈さん。今、何をどう考えているのかわかりませんが、たぶんそれは絶対に違うんです。憶測なのか確信があるのかわからん言い方ですが、ともかく違います」
 あくせくしながらちゃんと説明しようとしている俺の横で、けたけた笑っている鶴屋さんがことさらうらめしい。今さらだが、バイトだからと言ってこの人に仕えることになっていいものだろうか悩む。
 それでも俺の必死の説明が功を奏したのか、朝比奈さんはちゃんと理解してくれたらしい。
「アルバイトなんですかぁ。なんだぁ、それならそうと、ちゃんと言ってくれればいいのに。もぅ」
 ぷくっと頬を膨らませて鶴屋さんを睨む朝比奈さんだが、その仕草もまた愛らしく、今からでも鶴屋さんから朝比奈さんの執事に鞍替えできないかと、ちょこっとだけ考えた。
「キョンく~ん、なんか初っ端から減給しちゃおっかなぁって思えてきたんだけどっ! んん~っ? なぁ~に考えてんのかなっ!」
「いえ、別に」
 勘の鋭いこの人の前では、例え言葉に出さずとも迂闊なことは考えたらダメらしい。
「でもキョンくん、急にアルバイトだなんて……やっぱりそのぅ、大変なの?」
「ああ、いや。大変じゃないと言えばウソになりますが、俺も高校二年ですから、そろそろバイトのひとつでもやってみようかなっていう……そう、社会学習みたいなもんですよ」
 実際は朝比奈さんが言うように、毎度毎度の支払いでひーひー言ってる事こそがバイトを始めた最たる理由なんだが、金銭面での悩みを朝比奈さんに愚痴るなどと、そんなみっともない真似はできやしない。横でニヤニヤとほくそ笑んでいる鶴屋さんは、この際、見なかったことにしたいと思う。
「ん~っ、でもキョンくん。いいのかい? バイトのことはみんなにはナイショじゃなかったっけ?」
「え、そうなんですか? あ、それならあたし、聞かなかったことにしますけど」
 いや、別に内緒にする話でもないし、かといって自分から公言するようなことでもない。そもそも朝比奈さんに知られた時点で、他の連中にまで隠し通せるとも思ってないっすよ。
「ん~っ、でもハルにゃんに知られっと、怒られる……とまではいかなくても、機嫌を損ねちゃいそうな気がするよっ」
「あー……そうかもしれないですね」
「え、どうしてですか?」
「そりゃ~っ、だってねぇ?」
「ええ……」
 可憐な上級生コンビは、そろって同じ結論に達しているらしいが、俺にはその理由がさっぱり思い至らない。どうして俺がバイトするとハルヒの機嫌が悪くなるんだ?
「おっとっ! こんなとこで立ち話してると、遅刻しちまうぜぃっ。早く行こ行こーっ」
「あ、じゃあ俺は自転車をいつもの駐輪場に置いてきますんで、先に行っててください」
「あいよんっ! んじゃみくるっ、行こっか!」
「はい。じゃあキョンくん、また後で」
 本来なら学校までちゃんとエスコートするのもんなのかもしれないが、それでもここまで運べば充分とも思う。特に今は朝比奈さんと会ったわけだし、雇い主がそれでいいと行ってるのだからいいはずだ。
「……あ」
 そんな風に自分なりに納得していつもの駐輪場へ向かう最中、ふと思い出した。
 森さんが言ってた、鶴屋さんが控えている大事とやらが何なのか、結局聞きそびれたな。まぁ……いいか。

つづく
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★無題
NAME: BPS
なにか作者さんによってイヤなフラグが立てられた気がしますが、森さん頑張れ、超頑張れ。目指せキラ。

しかし鶴屋さんにも頑張ってもらいたい今日この頃。
2008/03/02(Sun)01:30:17 編集
いえいえ、森さんがキラで鶴屋さんがシンみたいな感じで、こう出番の割合が変わってくるみたいな。
別に話の流れや役回りまでああするつもりはありませんぜw ご安心をヽ(゚∀゚)ノ
【2008/03/03 00:05】
★無題
NAME: Miza
森さんの手作り弁当ぉぉぉぉぉぉぉっぉお!
しかしこれ団長が知ったら激怒だろうなぁ。
キョン君死亡フラグか・・・
2008/03/03(Mon)09:45:01 編集
森さんのお弁当、あっさり気味にスしちゃいましたヨ……( ´Д`)
もうちょっと膨らませるべきだったですか?w
【2008/03/04 01:43】
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