category: 日記
DATE : 2007/11/05 (Mon)
DATE : 2007/11/05 (Mon)
妙な時間に眠くなり、変な時間まで起きているような状況は、そろそろ何かとマズイんじゃないかと思えなくもなく。
おかげでこんな時間の更新になってしまいました。とりあえず、SSの続きだけでもUPしておきます。
ではまた明日!
おかげでこんな時間の更新になってしまいました。とりあえず、SSの続きだけでもUPしておきます。
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涼宮ハルヒの信愛:三章-b
そこにあるのは、壁に黒いシミのようなものがこびりついているとか、ペンキで塗りつぶされたとかそういうものじゃなかった。本当に……なんだろう、穴が空いている、としか表現のしようがない黒い塊だった。
「それが発生したのは、いつから、とは言えないのです。ただ、あたしが認識したのは昨日からでした」
近付いて大丈夫なものなのか、そうではないのか解らないものだから、その場に立ちつくして黒い塊を見ている俺に、橘が事の発端を語り出した。
ここ数日の間、どうやら橘は佐々木の様子を気に掛けていたらしい。俺と会っていたときのあいつは、これまでと何ら変わらない素振りだったのだが、どうやら橘も古泉と同じように佐々木の精神分析専門家を気取りたいようだ。内面ではどこかいつもと違う、と感じていたってわけだが、その違和感の正体が解らなかった。
橘曰く、佐々木が作り出しているという閉鎖空間には《神人》が未だかつて一度も現れたことがない。そのため、閉鎖空間内で何かが起きているとは思っていなかったらしい。
「それでも気になって昨晩入り込んでみたら、それがあったということなんです」
おまけに、この黒い塊は至る所で発生しているようだ。いや、それは違うのか? 昨日に発生していた場所に今日はなく、今日は今日でこの場所にできていた。移動している……と、言いたいんだろうか?
「じゃあ何か、これがもしや佐々木の《神人》ってわけか?」
「いえ、そうじゃないと思います。そうであれば、あたしが退治しておしまいじゃないですか。そうではなくて、それは……なんて言うか、まるで……うーん、なんて言うのかしら? 本来この世界に存在しない……異物?」
疑問系で問いかけて来るな。俺に解るわけがないだろ。そもそも、こんなものを俺に見せてコイツは俺に何をさせたいんだ? まさかとは思うが、こんな異質空間で起こっている出来事に、俺に何かができると期待してるんじゃないだろうな?
「もちろん、あなたに何か出来るとは思っていません。ただ、あたしにとってもこの出来事は初めてで、これが無視できるものなのか、それとも何を置いても最優先で解決しなければならない事象なのか、さっぱり解らないのです。あなたはこれまでいろいろなことを経験してるじゃないですか。涼宮さんに同じような事象が発生してないか、教えていただきたいの」
「そんなことを言われてもな」
俺がハルヒの閉鎖空間に入り込んだことがあるのは、今まで二度しかない。そこで見た事と言えば、暴れまくる《神人》と、それを退治する古泉たちの姿くらいだ。それ以外に特筆すべきことはなにもないし、あの灰色空間における異変なんて気付くはずもない。そもそもあの世界それ事態が異質なもんじゃないか。
「そういう話を聞きたかったら、俺より古泉を頼ればいいだろ。閉鎖空間のエキスパートはあいつだぜ」
「古泉さん……ですか」
橘は、あからさまに嫌そうな表情を浮かべて見せた。
「あたしと古泉さんの関係が、そこまで友好的なものだと思ってます?」
「そんなことは知らん」
たとえ仲良しだろうと険悪だろうと、この閉鎖空間を管理するのがおまえの役目じゃないか。自分でなんともできないんだから、土下座してでも古泉や森さんやら、『機関』の連中に協力を仰ぐべきだろう。プライドより役目を優先させろよ。
「そうしてもいいですけど、素直に教えてくれるかどうか……古泉さん、意外と腹黒くありません?」
ああ……うん、それは否定しない。
「ですから、あなたから聞き出してほしいのです」
「なんで俺が」
「事は佐々木さんのことですよ? おっしゃるように、ここで起こる不測の事態はあたしがなんとかしなくちゃですし、それができないのは自分でも不甲斐ないわ。だからあなたに頼るの。それとも……涼宮さんだったら協力するけど、佐々木さんでは協力できない?」
嫌な聞き方をするな。だいたい俺は、ハルヒだから、とか、佐々木だから、などと、あの二人を天秤に掛けるつもりはない。そんな恐ろしい真似ができるわけもない。
「だいたい、俺だからって古泉が正直に教えてくれる保障もない。それだったら……そうだ、九曜や藤原に聞いてみりゃいいじゃないか。おまえにとっちゃ、古泉よりは信頼に足る相手なんだろ? 違うのか?」
「あの二人……ですか。うーん……」
そこで何故、考え込むんだ? おまえの仲間はあの二人だろ。俺や古泉より話を聞きやすい間柄じゃないのか?
「だといいんですけど……。とりあえず、戻りましょう。あなたも状況は把握できたでしょうし、ここにいても何の解決にもならなさそうだから」
それには同意する。
どうにもここは落ち着かない。無音に無人の空間に、橘と二人きりというのは勘弁してほしいシチュエーションだ。おまけにこんな場所に妙なものまで現れているとなれば、真っ当な人間は一刻も早く元の世界に戻りたいと思うさ。
「…………」
俺は改めて黒い塊に目を向けた。淡いクリーム色の光に包まれた異質なこの世界で、確かにこれは異彩を放っている。真っ黒い穴は、光すら飲み込まない常闇の様を呈しており、壁に穴を開け──穴?
「なぁ」
「はい?」
「この闇、穴の先はどうなってんだ?」
「どうって……穴だから、向こう側が見えてるだけじゃありません?」
「いや、真っ暗だから何も見えないぞ。もしかしてこれ、妙な異世界に繋がってたりしないだろうな?」
「何をそんなあなた、ドリーム語っちゃってるんですか。ここのことを、みなさん何て言ってます? 閉鎖空間って言ってるじゃないですか。閉鎖された世界が、いったいどこに通じるって言うんです?」
こんなあり得ないような世界を自由に行き来するような非常識極まりないヤツに、俺はもしかして、常識的なものの考えで諭されているんだろうか。
まぁ、かといってこんな正体不明の闇の中に手を突っ込んでみようとは思わないし、さすがにそれを橘にやってみろとも言えないな。
「早く戻りましょうよ」
「ああ」
その声に返事をしつつも、俺は黒い塊のその先がどこかに通じてるんじゃないかと思って凝視しているんだが……それでも闇は闇であり、その先がどうなっているのか、結局何も見えなかった。
どうにも鼓膜のボリューム調整がうまく働かないのか、周囲の音がヤケに大きく聞こえる。耳を手で叩き、氷水で喉を潤してから、改めて橘に目を向けた。
「で、この二人は佐々木の閉鎖空間で起きてることを理解してるのか?」
「話はしましたけど……」
橘が九曜と藤原を見るのにつられて、俺も二人に目を向ける。
九曜は九曜で、魂をどっかに置いて来ちまったようにぴくりとも動かずにどこを見るともなく視線をどこぞへ集中させているし、藤原は藤原で頬杖を突いてあらぬ方向を向いている。どちらも態度で「自分には関係ない」と主張しているようだった。
「こんな調子ですからね」
溜息も出やしない。佐々木も、もう少し自分の周囲に呼び寄せる相手を選べなかったものだろうかと思う。
「おい、九曜。おまえ、何か解らないのか?」
どちらも一向に喋り出す気配がないので、仕方なく俺から話を振ってみた。
「──────何も────考察すべき────事象が────ない────」
解った、もういい。おまえに話を振った俺が間違っていた。もうしばらくそのまま黙ってそこにいてもいいし、むしろ帰ってもいいぞ。
「おまえはどうなんだよ」
九曜はアテにならないので、仕方なく俺は藤原に声を掛けざるを得なかった。
「さて、どうだろうな」
ふん、と鼻を鳴らし、藤原の野郎はどうとでも取れる言い方をしやがった。
「おまえ、未来から来てんだろ? なのに何も知らないのか」
「なら聞くが、あんたは数百年も数千年も前に起きた出来事を、正確に把握できているのか? そのときにどのような事が起きたのか解っていても、その起こった正確な原因や、その出来事の当事者の心境を把握できていると言うのなら、はっ、ご立派なもんだ」
嫌味を混ぜた俺の言葉を受けて、藤原から返ってきたのは倍返しの嫌味だった。この性根の腐り具合は何なんだろうな。いったいどんな幼少期を過ごしてきたのか、大いに気になる。
「仮に、僕が何かを知っていたとしても、あんたらにベラベラ喋ると思うか?」
「つまり、あれは佐々木にとって何の害にもならない、あるいはおまえの得になる状況だってことか」
「禁則だ」
「これから何か起こるのか、佐々木に」
「それも禁則だ」
「……おまえ、やっぱり何か知ってるだろ」
「禁則事項だ、と言っておこう」
……この野郎……そろそろ本気でキレてもいいか? そもそもこいつは、いったい何のためにここにいるんだ。肝心な事が喋れないってのは、朝比奈さんを見ていれば百歩譲って理解してやらなくもないが、橘や佐々木に協力的なわけでもない。それなら、ここに居る意味がまったくないじゃないか。何がしたいのか、さっぱりわからん。
「前にも言っただろう。佐々木だろうが涼宮だろうが、僕にとってはどちらでも構わない、と。今は涼宮より佐々木の方が近付くのが容易だから、ここにいる。行くべき道が同じだから並んで歩いているようなものだ。ただ……そうだな、ひとつだけ予言してやろう」
「予言だと?」
「ああ、予言さ。確定された未来の話ではなく、本当に起こるかどうかも解らない、辻占いの予言みたいなものだ。信じる信じないは勝手にすればいい。あんたは」
藤原は、無遠慮この上ないほどに、ビシッと人の鼻っ面に指を突き刺してきやがった。
「この先、重要な選択を迫られる。二者択一だ。選ばないと言う選択はない。必ず決断を下さなければならない時が来る」
「……なんだそりゃ?」
「くだらない予言さ」
さもつまらなさそうに、藤原は話すことは以上だと言わんばかりに、急に立ち上がった。
「こんなところでい、つまでもあんたらに付き合っていられるほど、僕は暇じゃない。後は勝手にすればいい」
忌々しげとさえ取れる物言いで、そんな言葉を残して藤原は振り返ることなく確固たる足取りのまま、喫茶店から去っていった。
本当に、なんであいつがここにいたのか、その理由が最後までさっぱり解らなかった。解りたくもないけどな。
つづく
涼宮ハルヒの信愛:三章-b
そこにあるのは、壁に黒いシミのようなものがこびりついているとか、ペンキで塗りつぶされたとかそういうものじゃなかった。本当に……なんだろう、穴が空いている、としか表現のしようがない黒い塊だった。
「それが発生したのは、いつから、とは言えないのです。ただ、あたしが認識したのは昨日からでした」
近付いて大丈夫なものなのか、そうではないのか解らないものだから、その場に立ちつくして黒い塊を見ている俺に、橘が事の発端を語り出した。
ここ数日の間、どうやら橘は佐々木の様子を気に掛けていたらしい。俺と会っていたときのあいつは、これまでと何ら変わらない素振りだったのだが、どうやら橘も古泉と同じように佐々木の精神分析専門家を気取りたいようだ。内面ではどこかいつもと違う、と感じていたってわけだが、その違和感の正体が解らなかった。
橘曰く、佐々木が作り出しているという閉鎖空間には《神人》が未だかつて一度も現れたことがない。そのため、閉鎖空間内で何かが起きているとは思っていなかったらしい。
「それでも気になって昨晩入り込んでみたら、それがあったということなんです」
おまけに、この黒い塊は至る所で発生しているようだ。いや、それは違うのか? 昨日に発生していた場所に今日はなく、今日は今日でこの場所にできていた。移動している……と、言いたいんだろうか?
「じゃあ何か、これがもしや佐々木の《神人》ってわけか?」
「いえ、そうじゃないと思います。そうであれば、あたしが退治しておしまいじゃないですか。そうではなくて、それは……なんて言うか、まるで……うーん、なんて言うのかしら? 本来この世界に存在しない……異物?」
疑問系で問いかけて来るな。俺に解るわけがないだろ。そもそも、こんなものを俺に見せてコイツは俺に何をさせたいんだ? まさかとは思うが、こんな異質空間で起こっている出来事に、俺に何かができると期待してるんじゃないだろうな?
「もちろん、あなたに何か出来るとは思っていません。ただ、あたしにとってもこの出来事は初めてで、これが無視できるものなのか、それとも何を置いても最優先で解決しなければならない事象なのか、さっぱり解らないのです。あなたはこれまでいろいろなことを経験してるじゃないですか。涼宮さんに同じような事象が発生してないか、教えていただきたいの」
「そんなことを言われてもな」
俺がハルヒの閉鎖空間に入り込んだことがあるのは、今まで二度しかない。そこで見た事と言えば、暴れまくる《神人》と、それを退治する古泉たちの姿くらいだ。それ以外に特筆すべきことはなにもないし、あの灰色空間における異変なんて気付くはずもない。そもそもあの世界それ事態が異質なもんじゃないか。
「そういう話を聞きたかったら、俺より古泉を頼ればいいだろ。閉鎖空間のエキスパートはあいつだぜ」
「古泉さん……ですか」
橘は、あからさまに嫌そうな表情を浮かべて見せた。
「あたしと古泉さんの関係が、そこまで友好的なものだと思ってます?」
「そんなことは知らん」
たとえ仲良しだろうと険悪だろうと、この閉鎖空間を管理するのがおまえの役目じゃないか。自分でなんともできないんだから、土下座してでも古泉や森さんやら、『機関』の連中に協力を仰ぐべきだろう。プライドより役目を優先させろよ。
「そうしてもいいですけど、素直に教えてくれるかどうか……古泉さん、意外と腹黒くありません?」
ああ……うん、それは否定しない。
「ですから、あなたから聞き出してほしいのです」
「なんで俺が」
「事は佐々木さんのことですよ? おっしゃるように、ここで起こる不測の事態はあたしがなんとかしなくちゃですし、それができないのは自分でも不甲斐ないわ。だからあなたに頼るの。それとも……涼宮さんだったら協力するけど、佐々木さんでは協力できない?」
嫌な聞き方をするな。だいたい俺は、ハルヒだから、とか、佐々木だから、などと、あの二人を天秤に掛けるつもりはない。そんな恐ろしい真似ができるわけもない。
「だいたい、俺だからって古泉が正直に教えてくれる保障もない。それだったら……そうだ、九曜や藤原に聞いてみりゃいいじゃないか。おまえにとっちゃ、古泉よりは信頼に足る相手なんだろ? 違うのか?」
「あの二人……ですか。うーん……」
そこで何故、考え込むんだ? おまえの仲間はあの二人だろ。俺や古泉より話を聞きやすい間柄じゃないのか?
「だといいんですけど……。とりあえず、戻りましょう。あなたも状況は把握できたでしょうし、ここにいても何の解決にもならなさそうだから」
それには同意する。
どうにもここは落ち着かない。無音に無人の空間に、橘と二人きりというのは勘弁してほしいシチュエーションだ。おまけにこんな場所に妙なものまで現れているとなれば、真っ当な人間は一刻も早く元の世界に戻りたいと思うさ。
「…………」
俺は改めて黒い塊に目を向けた。淡いクリーム色の光に包まれた異質なこの世界で、確かにこれは異彩を放っている。真っ黒い穴は、光すら飲み込まない常闇の様を呈しており、壁に穴を開け──穴?
「なぁ」
「はい?」
「この闇、穴の先はどうなってんだ?」
「どうって……穴だから、向こう側が見えてるだけじゃありません?」
「いや、真っ暗だから何も見えないぞ。もしかしてこれ、妙な異世界に繋がってたりしないだろうな?」
「何をそんなあなた、ドリーム語っちゃってるんですか。ここのことを、みなさん何て言ってます? 閉鎖空間って言ってるじゃないですか。閉鎖された世界が、いったいどこに通じるって言うんです?」
こんなあり得ないような世界を自由に行き来するような非常識極まりないヤツに、俺はもしかして、常識的なものの考えで諭されているんだろうか。
まぁ、かといってこんな正体不明の闇の中に手を突っ込んでみようとは思わないし、さすがにそれを橘にやってみろとも言えないな。
「早く戻りましょうよ」
「ああ」
その声に返事をしつつも、俺は黒い塊のその先がどこかに通じてるんじゃないかと思って凝視しているんだが……それでも闇は闇であり、その先がどうなっているのか、結局何も見えなかった。
どうにも鼓膜のボリューム調整がうまく働かないのか、周囲の音がヤケに大きく聞こえる。耳を手で叩き、氷水で喉を潤してから、改めて橘に目を向けた。
「で、この二人は佐々木の閉鎖空間で起きてることを理解してるのか?」
「話はしましたけど……」
橘が九曜と藤原を見るのにつられて、俺も二人に目を向ける。
九曜は九曜で、魂をどっかに置いて来ちまったようにぴくりとも動かずにどこを見るともなく視線をどこぞへ集中させているし、藤原は藤原で頬杖を突いてあらぬ方向を向いている。どちらも態度で「自分には関係ない」と主張しているようだった。
「こんな調子ですからね」
溜息も出やしない。佐々木も、もう少し自分の周囲に呼び寄せる相手を選べなかったものだろうかと思う。
「おい、九曜。おまえ、何か解らないのか?」
どちらも一向に喋り出す気配がないので、仕方なく俺から話を振ってみた。
「──────何も────考察すべき────事象が────ない────」
解った、もういい。おまえに話を振った俺が間違っていた。もうしばらくそのまま黙ってそこにいてもいいし、むしろ帰ってもいいぞ。
「おまえはどうなんだよ」
九曜はアテにならないので、仕方なく俺は藤原に声を掛けざるを得なかった。
「さて、どうだろうな」
ふん、と鼻を鳴らし、藤原の野郎はどうとでも取れる言い方をしやがった。
「おまえ、未来から来てんだろ? なのに何も知らないのか」
「なら聞くが、あんたは数百年も数千年も前に起きた出来事を、正確に把握できているのか? そのときにどのような事が起きたのか解っていても、その起こった正確な原因や、その出来事の当事者の心境を把握できていると言うのなら、はっ、ご立派なもんだ」
嫌味を混ぜた俺の言葉を受けて、藤原から返ってきたのは倍返しの嫌味だった。この性根の腐り具合は何なんだろうな。いったいどんな幼少期を過ごしてきたのか、大いに気になる。
「仮に、僕が何かを知っていたとしても、あんたらにベラベラ喋ると思うか?」
「つまり、あれは佐々木にとって何の害にもならない、あるいはおまえの得になる状況だってことか」
「禁則だ」
「これから何か起こるのか、佐々木に」
「それも禁則だ」
「……おまえ、やっぱり何か知ってるだろ」
「禁則事項だ、と言っておこう」
……この野郎……そろそろ本気でキレてもいいか? そもそもこいつは、いったい何のためにここにいるんだ。肝心な事が喋れないってのは、朝比奈さんを見ていれば百歩譲って理解してやらなくもないが、橘や佐々木に協力的なわけでもない。それなら、ここに居る意味がまったくないじゃないか。何がしたいのか、さっぱりわからん。
「前にも言っただろう。佐々木だろうが涼宮だろうが、僕にとってはどちらでも構わない、と。今は涼宮より佐々木の方が近付くのが容易だから、ここにいる。行くべき道が同じだから並んで歩いているようなものだ。ただ……そうだな、ひとつだけ予言してやろう」
「予言だと?」
「ああ、予言さ。確定された未来の話ではなく、本当に起こるかどうかも解らない、辻占いの予言みたいなものだ。信じる信じないは勝手にすればいい。あんたは」
藤原は、無遠慮この上ないほどに、ビシッと人の鼻っ面に指を突き刺してきやがった。
「この先、重要な選択を迫られる。二者択一だ。選ばないと言う選択はない。必ず決断を下さなければならない時が来る」
「……なんだそりゃ?」
「くだらない予言さ」
さもつまらなさそうに、藤原は話すことは以上だと言わんばかりに、急に立ち上がった。
「こんなところでい、つまでもあんたらに付き合っていられるほど、僕は暇じゃない。後は勝手にすればいい」
忌々しげとさえ取れる物言いで、そんな言葉を残して藤原は振り返ることなく確固たる足取りのまま、喫茶店から去っていった。
本当に、なんであいつがここにいたのか、その理由が最後までさっぱり解らなかった。解りたくもないけどな。
つづく
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