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DATE : 2008/07/25 (Fri)
昨日は土用の丑の日でしたね。世間ではなんですか、国産ウナギの人気が高くてうんたらかんたら~、だったらしいですね。

そもそも土用の丑の日の始まりは、平賀源内がウナギ屋さんから「この時期売れねぇよ、なんとかしてくれよ」とか言われて、「風習にしちゃえばイイジャナイ!」「そっかー!」で始まったもんだと記憶しております。

つまりこの時期の国産ウナギって、あまり美味しくないんじゃないかなーと思うわけですが、実際どうなんでしょう? おまけに高いし。

そんなあたくしの前日の夕飯は、ふっつーに何の変哲もない冷やし中華(ゴマ味)でした。

ではまた。

前回はこちら
喜緑江美里の策略:16

 どんなに強固な糸であっても、両端を持って目一杯引っ張ればいずれは切れる。強固なワイヤーだって、それ以上の力が加わればブッツリ切れてしまうのは、子供にだってわかり理屈だ。
 だから、俺の緊張の糸ってのがどれほどの強度があるのかわからないが、少なくともいつ暴れ出すかわからない、そもそも本当に暴れ出すのかさえ首を傾げたくなる朝倉を前に、一分一秒たりとも気を抜かずに見守り続けることなんて出来るわけもなく、何よりロクな睡眠もまっとうな食事も口にしていない現状では、ふとした弾みに意識をつなぎ止めておく緊張の糸が切れて、ばったり倒れることだってあり得るだろうさ。
「……あ?」
 いつ眠りに落ちたのか、そのことさえわからないものの、自分が寝ていたことだけはハッキリとわかる。目を開いた時には、窓から差し込む光は天然の太陽光ではなく、外から窓ガラスにぴったりと黒い画用紙貼り付けて、そこに白い影をぼかして塗りつけたような街灯の明かりに代わっていた。
 俺は反射的にベッドに目を向けた。そこには、眠っているように大人しくなった朝倉が横たわっていた……はずだった。はずだったのに、そこには朝倉どころか人影さえ見あたらない。
「朝倉!?」
 まさかまた妙な暴走をしてどこかに逃げ出したのか? いやしかし、あいつは俺を見れば無条件に襲いかかってくるような状況だったはずだ。にもかかわらず、真横で意識を途切れさせていた俺を無視して出て行くはずが……いやいや、すでに喜緑さんから意味記憶のパーソナルデータを入れ込まれて人並みの記憶喪失になっているらしいから、状況がわからず混乱のあまり外に逃げ出したのか?
 どっちにしろ、ここにいないなら、また捜し出さなくちゃならない。不用意に眠ってしまった自分の迂闊さと手間ばかり掛けさせてくれる朝倉に舌打ちしながら外へ向かおうと立ち上がり、玄関に直結しているダイニングの扉を開けると。
「………………」
 ダイニングテーブルに腰掛けて、食パンを頬張っている朝倉がそこにいた。
 どれだけの沈黙が舞い降りたか。五秒か、一〇秒か、少なくとも一分は経過してなかったと思う。俺に視点を固定させたまま、お行儀よくモグモグと口を動かしていた朝倉は、おもむろに食いかけ食パンを俺に差し出してきた。
「食べる?」
 第一声がそれかよ。
 ドッと疲労感と倦怠感が全身にのしかかってきた。直前まで『朝倉がいない』ということでの焦りと緊張に包まれていただけに、そのギャップに体が追いつかない。
「……なに?」
「なんでそんなところで勝手に飯喰ってんだよ」
「お腹が空いたから」
 至極まっとうな意見に、ぐうの音も出ない。いつまでもへたり込んでいたって仕方がないので、俺はため息混じりに起きあがり、朝倉の対面に陣取るように席に着いた。
 朝倉が目覚めたのだから、早めに喜緑さんに連絡を取らなければならない。携帯を取り出して時間を見れば、時間は……午後六時? 確か予定では朝倉が目覚めるのは午後七時ごろだったはずだ。
 なんてこった、少なくとも一時間以上も早く朝倉が目覚めてるじゃないか。
「なぁ」
「なに?」
「目が覚めたのはいつだ?」
「今から五四二八秒前」
 律儀に秒単位で教えられても、そんだけ経過してりゃいつかよくわからん。えー……約、一時間三〇分くらい前か? ってことは四時半ごろ? ますますタイムリミットが短くなってるじゃないか……。
「あのさ」
「ん?」
 舌打ち混じりに喜緑さんへ連絡を入れようとしたまさにそのとき、食パンを口に運んでむぐむぐさせていた朝倉の方から、どこかしら遠慮を感じさせる声音で話しかけてきた。
「あなた、だれ?」
「あ?」
 思わず自分でもマヌケだと感じる声が口を裂いて出た。
「ここ、どこなの? どうしてわたしはここにいるの? わたし……誰なの?」
 一度口火を切った朝倉から、立て続けに質問された。
 もしかして、見た目は冷静に見えるが、内心では肝心なところでは不安に思ってるんじゃないだろうか。
「何もわからない……んだよな?」
「該当する情報が検索できることは知っているけれど、やり方がわからないの」
「……えー」
「母体とリンクすれば取得できることも知っているけれど、それもやり方がわからないの。今のわたしは自律起動モードで動いてるけれど……」
 はっきり言って、朝倉が何を言ってるのかまったくわからない。そもそも、今の朝倉に余計な情報を与えていいのかさえ判断できない。喜緑さんの話では、三つに分割されているパーソナルデータのバージョンが近い方がいいと言っていたから、今の状態で余計なことを吹き込むのもマズイのかもしれん。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
 矢継ぎ早の質問を一言で断ち切り、操作途中だった携帯のダイヤルを回して喜緑さんに連絡を入れる。今回はすぐに繋がった。
『このタイミングで連絡してくるなんて、もしや目覚めました?』
 皆まで言うまでもなく、喜緑さんがそう言う。ここまで理解が早いと助かる。
「正確には四時……えーっと、十六時半ごろに目覚めたらしいですけど」
『らしい? ……寝てましたね』
 一発で看破された。
「そりゃだって仕方ないでしょう。俺は機械じゃないんですから、四六時中起きてられませんって」
『まぁいいです。わたしも、あと一〇分ほどでそちらに伺えそうですから、それまで大人しくしていてください』
「あの、朝倉にあれこれ聞かれてるんですが、これって答えていいもんなんですか?」
『え? ああ、そうですね。当たり障りのない、必要最小限の情報くらいでしたら大丈夫なんじゃないですか?』
 ないですか……って、ずいぶん適当だな。
『それでは、後ほど』
 喜緑さんにしては珍しく無駄口も余計なことも口にすることなく、やけにあっさりと通話が切られた。まぁ、すぐに到着するらしいから、あれこれ言うのは顔を合わせてからかもしれない。
 ともかく喜緑さんが到着する前に、朝倉に基本的な状況を説明しておくか。まずは……そうだな、自己紹介くらいでいいかな。俺を殺そうとしたとか、独断専行の果てに消されたとか、そういうことまで伝えていいのかは……よくわからん。ただ、これまでの経験が完全に欠落した記憶喪失だってことは伝えておくべきだろう。それと宇宙人だってことも言っておくべきか。そうしておかなけりゃ、こいつが常識だと思ってることを聞かれちまう。そんなの、答えられるわけがない。
「わたしとあなたは違うってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
「それならどうして、わたしはあなたと一緒にここにいるの?」
「なんでって……」
 改めて聞かれると、俺もどう受け答えしていいのか困る質問だ。事の成り行きと言えばいいんだろうか? 少なくとも、俺が自分から望んだ状況でないことだけは間違いない……と、思う。
「前のことがまるでわからないけど、わたしとあなたは友だちだったの?」
 友だち? いやあ、友だちと言えるほど、和気あいあいとした関係じゃないことだけは間違いない。そりゃだって、どこの世界にナイフを突きつけてくる友だちがいるんだよ。
 あえて俺と朝倉の関係を言えば……。
「ハルヒの……っつっても、ハルヒのことさえ知らないんだよなぁ」
「ハルヒ? 涼宮ハルヒのことなら知っている」
「え?」
 知ってるって……ハルヒのことを? 俺のことどころか、これまでの経験が一切ない朝倉がどうしてハルヒのことだけはわかるんだ?
「類を見ないほど異常な情報フレアを発生させた発生源のこと……でしょう?」
「ああ」
 ハルヒがどんなヤツかは知らないが、あいつがしでかしたことは『知識』として知っているってことか。
「人の名前だったの?」
「忘れていい名前だと思うぞ。会ったところでロクなことになりゃしない」
「そうなの? でも、」
「あら、本当にお目覚めでしたのね」
 朝倉の言葉を遮って、玄関のドアが呼び鈴を鳴らすこともノックすることもなく、合い鍵でも持ってたのかガチャリと開かれた。現れたのは言うまでもなく喜緑さんだ。手には買い物袋らしきものを持っていた。
「こちら、食事も買い物に行くこともできなさそうだからお持ちしました」
「あ、ども」
 なんだかんだ言っても、さすがは喜緑さんだ。こういう心配りは素直に有り難いし嬉しい……って、ものがインスタントばかりかよ。
「……ねぇ」
 俺がスーパーの買い物袋の中身を見て一喜一憂していると、朝倉がどこかしら不安げに声を掛けてきた。
「この海藻みたいな髪型の人は誰?」
 世界が凍てつく瞬間というのは、今のこのときを言うんじゃないだろうか。記憶がないというのは、人をここまで無謀かつ勇敢にしてしまうものらしい。
「……あらあら、あら。これはもしや、物理的かつ情報的にも完全抹消してみろという、わたしに対する宣戦布告と受け取ってよろしいのでしょうか?」
「ちょっ、ちょっと待った! 待ってください喜緑さん! 朝倉はあれです、悪気があって言ったわけじゃないんですよ。ほらだって、記憶喪失じゃないですか。見た目そのままの特徴を的確に捉えた結果として、ついそういう表現になってしまったという、ただそれだけですからここはひとつ大人の対応を見せて軽やかないつもの笑顔とともに受け流してあげてくださいよ」
「つまり」
 ギチギチギチと、固いゴムを無理やりねじるような音が聞こえてきそうな動きで、喜緑さんが俺を見る。笑顔で。
「あなたも、そう思っていらっしゃると」
 その瞬間、俺が朝倉の頭を押さえつけながら一緒になって平身低頭で平謝りしたことは、野生を忘れた人間にも危険回避行動を取れる本能が、わずかながらでも残っていた証拠だと思いたい。

つづく
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★無題
NAME: ながとん
いや、アレは絶対わざとだ(笑)。
涼子さんの回復が予想を遙かに上回っているのはいいことなのか、どーなのか。
パンをほおばる姿に萌えそうでした♪
2008/07/25(Fri)00:44:37 編集
朝倉さんの回復といっても、ただ記憶ないだけですからねぇ。それ以外は健康そのものですから。
朝倉さんがパンを頬張る姿……略して朝倉パン。うーん……。
【2008/07/26 00:06】
★無題
NAME: 筏津
食パンを頬張ってる朝倉さんに萌えてしまいました
正直卑怯だと思います
2008/07/25(Fri)01:02:00 編集
もきゅもきゅさせて食べてました。もきゅ。
【2008/07/26 00:06】
★無題
NAME: 蔵人
ワカメさんwww
朝倉が予想よりもおとなしいのが何故なのか、喜緑さんの中では予測済みの出来事なんですかね?
URL 2008/07/25(Fri)04:04:12 編集
無自覚なのはある種の罪ですねw
喜緑さん……どこまで予測してるんでしょうか。
【2008/07/26 00:07】
★無題
NAME: Miza
せっかく復活した朝倉さんに早くも死亡フラグw

キョン君助けてあげてー!
2008/07/25(Fri)09:38:53 編集
キョン「すまん、無理だ」
さらば、朝倉さん……!
【2008/07/26 00:07】
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