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DATE : 2017/07/26 (Wed)
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DATE : 2008/11/21 (Fri)
もぉ~限界。いよいよもって切羽詰まってまいりました。無駄に先伸ばされた挙げ句に作業時間が短すぎるぜセニョ~ル。

ただでさえ時間がないというのにどうしてここまで引っ張るのかと問いたい。問い詰めたい。問い詰めたいけれどスケジュールというのは絶対であります。やると言った以上、どれほどタイトなスケジュールになろうと期限までにやり遂げなければならないのれぇ~すぅ~らりるれろー。

ま、そんなタイトなスケジュールになったのはつまり待たされたわけであり、待たされたということはその間は暇なわけで、暇なら他のことを進めましょうというのが上手な時間の使い方。

で。

今回は長いです。通常だったら2~3回に分けるところですが、一気にいきます。もしかすると携帯では最後まで表示されないかもしれません。それでも一気出しです。何故に一気に行くのかというと、ここはたたみ掛ける場面だからであります。

ある種、今回のUPで「吉村美代子の奔走」という1つの話は完結しました。一読していただければ、だからミヨキチなのかーとご理解いただけるかと。てことはつまり、完結したも同然です……が、今回の話はそれだけじゃないのでまだ続きます。

でー。

今回の話の都合上、作中で言えなかったことをここでひとつ。何故彼らが都合良く現れたのかと言うと、その理由は「森園生の変心」のエピローグにあります。

とまぁ、そういうイイワケをしてもあれなので、仕事に戻ります。

ではまた。

前回はこちら
吉村美代子の奔走:9

 そろそろ日も陰り始め、時刻は午後の五時になろうかという頃合いになっていた。休校日でもある土曜日では校内に人の姿はほぼなく、運動部や文芸部などの部活動で青春を費やす生徒をちらほら見かけるが、それだって時間的にそろそろ帰ろうとしている。
 そんな中、ミヨキチはいったいどこにいるんだ? まさか校内にまで入り込んでるんじゃないだろうな。まさかここまで先走るとは思わなかった。
 それにここには……ミヨキチの話では、朝倉もいるんだろ? だとしたら、どこにいるのかっていうアテはいくつかある。
 教室か、部室か。
 逆を言えば、それ以外の場所では見当も付かない。もしそこにいなかったら……いや、そんなことを考えている場合でもないか。今はとにかくミヨキチか朝倉か、そのどちらかを見つけることが先決だ。だったらあれこれ余計な考えを巡らせている場合でもない。
 慣れというのは恐ろしいもので、こういう場合でも律儀に上履きに履き替えて校内に飛び込み、俺はまず教室へと向かった。
 いない。鍵が掛かっている。中に人がいる気配もなく、ここがハズレなのがすぐにわかる。すぐにわかるのは有り難いが、だとすれば部室の方か? それとも……一年のときの教室だろうか。ここから近いのは一年のときの教室か。
 どちらを選ぶか一瞬だけ迷ったが、俺はすぐにきびすを返して一年のときの教室へ向かった。あいつが最後に消えた場所はあそこだから、部室よりはわずかながらも可能性が高いと思ったんだ。
 が、一年のときの教室も鍵が掛かっていた。くそっ、ここもハズレかよ。だったら残る場所は部室だけだ。
 こうなると最初から部室に向かっておけばよかったと後悔の念もわき出てくるのだが、反面、そこにもいないんじゃないか、あるいはいなかった場合はどうすればいいんだと、余計な考えも芽生えてくる。
 そんなことを考えている場合じゃないことはわかっているし、そう考える暇があったら向かうべきだと言うことも理解しているのだが、動かす体と考えを巡らせる頭の中身は別物らしい。
 本館から旧館への連絡路を通り、部室棟の三階まで駆け上る。階段を上ってすぐに部室のドアが見えた。戸締まりの責任者はハルヒだから、あいつが鍵をかけ忘れていなければこれまで通ってきた教室同様にカギは閉まっているはずだ。
 他の文芸部は休んでいるのか、さらに静けさが増している。気配だけで言えば、ここは本館よりも誰かがいると思えない。
 ドアノブに手を掛ける。ゆっくりを回し、軽く引っ張ってみれば……かちり、と音を立ててドアが手前にスライドする。
 空いていた。カギが掛かっていない。ハルヒが戸締まりを忘れたなどというくだらない理由でもなければつまり中には……誰かがいる?
 ここにミヨキチがいるのか。それとも朝倉か? どちらかと言えばミヨキチより朝倉がいる方が可能性は高い。無駄に緊張感が増してきたが、かといって躊躇ってばかりもいられない。内心で念仏を唱える気持ちを抱きながら、俺は一気に部室のドアを開いた。
 そこにいたのは──。
「お待ちしてました、キョンくん」
 ミヨキチでも朝倉でもない、そこにいたのは……朝比奈さん(大)だった。
「な……なんで、朝比奈さんが……?」
 疑問に思うのは当然であり、その質問が頭で考えるまでもなく口を割いて出て来るのも自然の反応と言える。けれど朝比奈さん(大)はそれに答えることなく、魅惑的な笑みを浮かべるにとどめて、ふわりと舞うように背を向けた。
「ふふ、キョンくんにしてみれば、お休みの日以外は毎日来ている場所ですものね。見飽きてるでしょうけど、わたしにとっては……凄く懐かしい場所なんです。こんな衣装とかもよく着られたなぁって」
 朝比奈さん(大)はそんなことを言ったかと思うと、ハンガーラックに掛かっていた毎日一緒にいる朝比奈さんが身につけているメイド衣装やらその他のコスプレ衣装を手に取って懐かしむように目元を緩めていた。
「ねぇ、キョンくん。覚えてますか? ここでわたしと初めて会ったときのこと。わたしったら涼宮さんに無理やり連れてこられて怯えて泣いちゃってて……ホント、思い返しても恥ずかしくなっちゃう」
「あー……いや、そんなことより」
 何の前触れもなく、あまりにも唐突に、それでいて狙い澄ましたかのように現れて、口にする言葉が朝比奈さん(大)の思い出話では、こっちとしては戸惑うばかりだ。これがもっと余裕のあるときであればいくらでも話を聞くし、こっちからだって俺が知っている最新の情報を交えて会話を弾ませることもするが、今はそんなときじゃない。
「どうしてここに朝比奈さんがいるんですか。また何か……いや、この状況で、このタイミングってことは朝倉のことで、」
「キョンくん」
 閃いたことをありのまま口に出そうとしたのだが、朝比奈さん(大)は遮るような声音で俺の呼び名を口にした。
「今の状況だと……キョンくんも、もう何が起きているのかおおよそは理解してるんですよね? 例えば……そう、朝倉さんのこととか」
「朝倉はどこにいるんですか。俺はどこに行けばいいんです?」
 この期に及んで持って回った言葉はいらない。今は余計なことを聞くつもりもないし、朝比奈さん(大)だって朝倉のこと以外で何かを言いに来たわけじゃない……と思う。だとすれば胡乱な言い回しも禅問答のようなヒントも不要だ。言えることをわかりやすく簡潔に告げてくれればいい。
「上書きされた一週間のことは……わたしも、もちろん覚えているわけじゃないの。でも世界は一週間という時間を上書きされただけで消えたわけじゃないわ。該当する日々は確かに存在するし、繋がっている。だからTPDDを使うことで訪れることができる場所なの」
「そう……なんですか?」
「長門さんは守ろうとしてくれたのかしら。それとも偶然がそうさせたのかな。わたしがわたしとして、今ここでキョンくんの前にいるわたしが知ってる未来は……」
 朝比奈さん(大)はそこまで言って口をつぐみ、何かを振り払うように頭を振ってため息を吐いた。
「キョンくん、朝倉さんのことは長門さんが無理をしてまで切り離した可能性なの。そしてそれはあり得ないものだし、成功することのない確定した失敗でもあるの。それでも朝倉さんを助けたい?」
「何を……何の話ですか」
「えっと……」
 朝比奈さん(大)は言葉を探す……というよりも、言うべきことを選択しているように言葉を詰まらせた。
「何があったんですか。いや、何かが起きる、ですか?」
「え?」
「朝比奈さんは、これから起きることをすべて知っているんですよね? 俺といつも一緒にいる朝比奈さんよりも、もっと未来の朝比奈さんなんですよね? だからこれからのことも知ってるはず……ですよね? 何が起こるんですか」
 俺の追求するような言葉に、朝比奈さん(大)はふと目を逸らし、けれどすぐに笑顔を浮かべてはにかんだ。
「もう、そんなことを今のキョンくんが気にしなくてもいいの。キョンくんは……朝倉さんのことを助けたいんでしょう?」
「助ける……って言うか、今も何がどうなってるのかさっぱりなことだし」
「上書きされた一週間の中で、キョンくんは朝倉さんを復活させようとしていたの」
 それはさっき、自宅で喜緑さんに聞いた。本当にそうだったのかどうかも定かじゃないが、今も朝比奈さん(大)がそう言うのだから、本当にそうだったんだろう。
「けれどそれは失敗したの。長門さんが、それを許さなかったから」
「どうして長門が邪魔をしたんですか。あいつ、そこまでして朝倉を復活させたくないってことなんですか?」
「それは……たぶん、わたしのせい」
「朝比奈さんの……?」
 どうして朝倉を蘇らせるか否かって話で、その判断材料で朝比奈さん(大)が出てくるんだ? 宇宙人の話に未来人の朝比奈さんがどう関わってるっていうんだ。
「それは……言えません。言えばわたしは……ううん、わたしのことはいいの。これはこの時代に生きる人たちが決めるべきことだもの。だからわたしは、それでもここにいるの」
「どういうことですか。それはいったい……」
「未来っていうのは、未来から過去に干渉して決めるものじゃないですよね。今を生きる人が決めるものですよね? それがたぶん……ううん、絶対に正しいことなの。だからわたしは、今のこの時代にいるキョンくんが決めたことを信じます。今のわたしがあるのも、この時代のキョンくんがこの時代に駐在しているわたしを助けて守ってくれたからだもの。だからわたしは、わたしができることでキョンくんの気持ちを守りたいの」
 それはまるで……まるで遺言のような言葉だった。何故かそう思えた。何を思って朝比奈さん(大)がそんなことを言ったのか、何があってそんな言葉を口にしなければならなかったのかさっぱり見当も付かないが、それでも俺は、今の言葉に瀬戸際で必死に残そうとする言葉のように聞こえてならなかった。
「朝倉のことで朝比奈さんに何が、」
「朝倉さんは屋上にいます」
 またも朝比奈さんは俺の言葉を遮った。遮って、そう言った。
 屋上? 朝倉は屋上にいるのか? けれど今は──。
「行ってあげてください、キョンくん。今行かなければ、もう二度とこんなチャンスはありません。本当の本当にギリギリで最後のチャンスなんです。だから……わたしのことは気にしないで」
「いや、でも」
 躊躇う俺に、朝比奈さん(大)が不意に体を預けて来た。驚く暇もなく受け止めた腕の中、普段会っている朝比奈さんよりも成長して、ヒールの靴も履いてることで身長の差にそれほどの違いはないせいなのか、長い髪が視界を覆うその刹那、頬に触れるしめやかな温もり。
 虚を突かれて驚いた一瞬の隙を突いて、朝比奈さん(大)は精一杯の──それでもか弱さの残る──力で俺を部室の外に突き飛ばしたと同時に、ばたんっ! と音を立ててドアが閉じられた。
「あっ、朝比奈さん!?」
 我を取り戻して慌てて部室のドアを開ける。けれどそこに、朝比奈さん(大)の姿はなかった。
 まるで訳がわからない。朝比奈さん(大)が何を言いたかったのかも判然としない。が、それでもひとつだけハッキリしたこともある。
 朝倉が屋上にいるってことだ。
 立ち止まっていても仕方がない。ここで待っていても朝比奈さん(大)が再び現れることもないだろう。
 だったら俺が行くべきところはひとつしかない。後ろ髪を引かれる思いを覚えつつも部室を後にして、俺は本館に戻って階段を一気に駆け上った。
 部室のドアを開けようとしたときの躊躇いも戸惑いもない。それとは真逆と言ってもいいだろう。叩き飛ばすような勢いでドアを開け、屋上に躍り出ればそこに──そこには。
「朝倉……」
 西の空に沈み行く太陽が空を朱色に染める逢魔が刻、なびく風に髪を揺らめかせて佇む朝倉涼子が、驚き混じりの表情を浮かべて俺を見ていた。
 実際に本人を前にしても、いまだ信じられない。昼と夜とが切り替わる境界のこの時間、この国じゃ妖怪や物の怪が出やすい時間と言われているが、まさにそういうものに出くわしたかと思うほど、あまり実感が湧かない。
「どうして……あなたがここにいるの?」
 けれど俺を前に、驚き混じりで聞いてくる朝倉がそう尋ねてきた言葉を聞いて、この邂逅が夢でも幻でもないことを実感させる。
「おまえこそ……本当に朝倉なんだなよな? 俺が知ってる朝倉涼子で間違いないんだな? どうしておまえがここにいるんだ」
「どうしてって……もしかして長門さん、あんな無茶なことまでしたのに、結局失敗しちゃったのかな?」
 長門が失敗? それは……。
「一週間の記憶を上書きしたことを言ってるのか?」
「やっぱり知ってるのね」
 知ってるも何も、俺の方こそおまえが何故それを知ってるのかと問い詰めたい。
 こいつは、長門がやらかしたことを覚えているのか? 覚えていて、それなのにそのことを受け入れてここにいるのか? どうしてそこまで物わかりがいいんだ。自分のことだろ。なのに他人が勝手に妙な力を使って忘れさせているんだぞ?
「仕方がないもの」
「だからどうして? それでいいのか、おまえは」
「わたしがどうこう言える問題じゃないし」
 朝倉の言葉は、まるで他人事のように白々しく素っ気ない。
「おまえ自身の問題で、おまえが文句言わずに誰が言うってんだ」
「違うわ」
 ……違う? 違わないだろ。すべておまえが蘇ることでの話じゃないか。すべてはそれに端を発した騒動だろ。
「その考えそのものが間違っている。わたしだけのことなら、長門さんはそこまで無茶な真似はしなかったんじゃないかしら。でも問題はわたし個人のこととは掛け離れたところにあるから、長門さんは無茶をするしかなかったの」
 まるで要領を得ない。会話が噛み合ってないんじゃないかと思えるほどに、俺には朝倉の言葉が理解できていなかった。
「……何があるってんだ?」
「未来の選択」
「何言ってんだ、おまえ?」
 それは何かしらの抽象的な表現か、それともそのものズバリを端的に言い表しているのか、どっちであろうともバカげている。バカげているというよりも自惚れすぎだ。
 じゃあ何か? 朝倉一人が存在するか否かで今後の未来が劇的に変化するっとでも? 何様のつもりだ。自分がそこまで崇高で稀有で重要な存在だと言いたいのか。
「まさか。わたしの存在がそこまで重要なら、長門さんどころか情報統合思念体そのものが黙ってないわよ。わたし一人が存在してもしなくても、世界の在り方にそこまで大きな変化なんてないわ。でも……あなたを含めて涼宮さんを取り巻く状況はそうじゃない。だから長門さんは無視できなかっただけ」
「だから……っ!」
 だからいったい何が言いたいんだ!? 朝倉が存在することでの歪みってのはいったい何だ!? それがそこまで厄介で面倒なことになるのか? 朝倉の存在を消し去るような真似をしなくちゃならないほどに。
「だから、それはいったい何だってんだよ!?」
「わたしが存在する未来はあり得ない」
「どうしてそう言えるんだ? なんでおまえまでそんな諦めたことを言ってんだよ!」
「違うの。そうじゃない。これは歴史的事実として、これから起こる未来の既定事項。はっきり言うね。朝比奈みくるはわたしが存在している未来を知らない」
「……は?」
「わたしが存在することで、彼女が知るべき未来に繋がらない」
 繋がらない……って、朝比奈さんが? いつも一緒にいる朝比奈さんと、ふらりと現れる朝比奈さん(大)の未来が繋がらなくなる? そんなバカな話が……起こり得る、と。そう言いたいのか?
「もともと、今ここにいるわたしの存在そのものがイレギュラーなことでしょう? 天蓋領域のあの娘がわたしのインターフェースを構築しなければ、あるいはあなたと喜緑さんが無茶をして三分割されていたわたしのパーソナルデータをひとつにしなければ、わたしはここにいない。けれどそうなってしまった。そうなったことに何かしらの因果関係があるとすれば、それは朝比奈さんが望む未来にするための調整に失敗し、因果律の調整不足による不確定要素の顕在化って言えるかもしれないけれど、結果がすべてですものね」
「朝比奈さんが……いつ、そんな」
「他の大きな要素を正すために、わたしの協力が必要だったこと。この時代で言えば春先の遭難未遂事件、オーパーツ暴走事件、閉鎖空間融合事件ね。解決に『わたし』という数値が必要だったけれど、逆に他の要素に『わたしという数値』は新たな誤差を生み出すことになっただけの話。わかる?」
「わかるかよ、そんな話!」
「そう? じゃあこんな例えはどう? ぐにゃぐにゃの鉄板を平らにしようとして、そのために表面を叩いて修正したんだけど、今度は裏側に歪みができちゃったって感じ。これならわかる?」
 つまり……朝倉は必要だけど不要な存在でもある、ってことか。ああ……だから、それがわかっているから朝倉自身も「自分は消えなくちゃならない」って言ってるのか。
「それは……あんまりだ。あまりにも身勝手だ」
「そうよ。みんながそうなの。誰も彼もが自分自身のことを考えて動いている。でもそれは当たり前のことでしょう? もしここでわたしが『消えたくない』って言えば、それはわたし自身の身勝手さになる。朝比奈さんの未来を潰すことになる。だから、誰かが悪いなんて言わない。でも、どこかで誰かが犠牲にならなくちゃならない。だとしたら、それはわたしの役目」
「なんでおまえが!? どうしておまえだけがいつもそうなんだ!」
「本来、わたしはこの世界に存在しないから。誰との絆も存在しないから。繋がりのないわたしは、存在すらも許されない不要な存在だから」
「そんな台詞が理由になるか!」
「そう? じゃあ、別の言い方をしましょうか?」
 朝倉は淡々と、静かにこ告げた。
「それが、わたしの望みだから」
 望み? それがおまえの望みだと? 自分が犠牲になることが望みだと言うつもりか。
「それはちょっと違うかな。わたしは守りたいだけ。長門さんをただ、守り続けたいだけ」
「長門を言い訳にするつもりか」
「そうじゃないわ。ただ、長門さんはあなたと……あなたたちと共に過ごせる未来を守りたいって思ってる。それが彼女が絶対に譲ることのできない願いであり、誓いでもあるの。だから長門さんは朝比奈さんを助けた。あの子にとってあなたはもちろん、他の人たちとの絆も断ち切りたくないのよ」
 だから消える? そのために朝倉は消えなくちゃならないってのか?
「でもわたしがいれば、朝比奈さんの未来には繋がらない。長門さんの望む未来へ繋げるために、わたしは存在することができない」
「それなら……つまりおまえは、長門はそのためにならおまえを消してもいい、と。そう考えていると言いたいわけか」
「さあ……違う、って言いたいけど、でも事実そうなっちゃってるよね。だから、」
「ふざけんな!」
 長門が自分の望みのために朝倉を消すだと? そう考えているだって? どこをどう考えりゃそういう結論になるんだよ!? そんなことあるわけないだろ、絶対にあり得ないだろうが!
「だったらなんでおまえは今ここにいるんだ!? 喜緑さんは言ってたぞ。おまえは親玉との接続する回路がないはずだって。それがなくちゃ存在できるかどうかもわからないって。なのにどうして今ここにおまえはいるんだ!?」
「それは……」
「もし喜緑さんが言ってたことが間違いだったとしても、じゃあ長門はどうして銀河規模での記憶を上書きするなんて面倒なことをしたんだ!? ハルヒの力を借りてまで何かするなら、そんな面倒な手段じゃなくたっておまえ自身を直接消せばよかっただけの話じゃないか。どうしてそれをしなかったんだ?」
 ちょっとは考えろよ。その理由を。長門の気持ちを! どうして俺にわかるようなことが、俺よりも便利で万能な力を持ってるおまえがわからないんだ!?
「おまえが言うように、あいつは確かに朝比奈さんの未来を守りたかったのかもしれない。けど、それと同じくらいおまえを消したくなかったんだろ。おまえをまた消してしまうことに躊躇いがあったからだろ! 長門はまだ、可能性を求めてるんだ。おまえがいて、朝比奈さんの未来へも繋がる方法を。なのにおまえが消えちまえば、その可能性までも潰すことになるんだ」
「可能性?」
 俺の言葉を、朝倉はどう感じたんだろう。その顔から表情を消し、俺の言葉の一言を繰り返して何かを蔑むように笑ってみせた。
「そんな可能性があるの? どこにあるのよ。あなたにその可能性を見つけ出せるの? あなたが言うことが事実だとしても、だとしたら長門さんがしたことは問題の先延ばしでしかない。つまり長門さんでさえ答えを見つけられなかったことを、あなたは見つけ出せるっていうの? ……何もできないくせに」
 無機質で無感情に、電線管を通して漏れてくるような声音で言われた一言が重くのしかかる。言われるまでもなくわかっていることだが、それでも言葉として突きつけられると自分でも予想以上にショックを受けるもんだと、今さらながらに思い知らされた。
 でも。
 それでもだ。
「何もできないからこそ、そういう可能性があると信じてるんだ、俺は」
「……そう」
「だから、」
「言わないで!」
 俺の言葉を、朝倉はヒステリックな声音で拒絶した。
「言わないで……お願いだから。ありもしない可能性で夢なんか見たくない。絶望にしかならない希望なんて抱きたくもない」
「それでも、未来を知らない俺はこれから先に希望があると思っている」
「……最後にあなたに会えてよかった」
 最後、と言う言葉に、俺は背中に氷柱を突っ込まれたような寒気を感じた。
「さっき、あなたが言ったことはたぶん、本当。今ここにいるわたしは、長門さんと情報統合思念体を繋ぐ回路をバイパスにして辛うじて存在している。多少の情報操作は行えるけど、基本的な身体機能は生身の人間と一緒。もし致命的な傷を負ってしまえば、修復することもできないの。長門さんは……躊躇ってくれたのかな。それとも、最後の時間を許してくれたのかしら。どちらにしろ、わたしには無理」
「待て……何を考えてるんだ、おまえは?」
「さよならの言葉は、苦手なの」
 そう告げて、儚いほどに朧気な微笑を浮かべた朝倉は、たん、と軽やかな足取りで屋上を囲うフェンスへ向けて走り出した。
 やばい、と。
 考えるまでもなく体が動いていた。消えなくちゃならないと考えて、朝倉がそんな短絡的な行動に出るとは思っていなかったが、それでも少なからず予想はしていたのかもしれない。だから体は動いてくれた。
 朝倉の手がフェンスに触れる。がしゃん、と金網が揺れるが、この距離ならまだ届く。よじ登って何かしようとする前に引き留められる。
 そう思っていたのだが、朝倉が触れたフェンスが淡く輝いたかと思えば、それは形を変え、無数のナイフになってこっちに向かって飛んできた。
 多少の情報操作はできると言っていたが、そんな使い方をするなんて卑怯だ。こっちに当てるつもりはなかったのか、飛んできたナイフは俺の足下に突き刺さるが、それでも一瞬だけでも動きを止めるには充分な効果を見せた。
「朝倉!」
 手を伸ばす。ナイフに怯んだ一瞬の躊躇いが、その距離を生んだ。
 必死に伸ばした手は、指先は、辛うじて朝倉に触れることはできたが……掴むことができなかった。
 掴むことはできずに──。
「何をなさっているのですか、あなたは」
 ──俺の真横から伸びた別の手が、屋上から落下する直前の朝倉の手を掴んでいた。
「……え」
 と、驚きと戸惑いの声を漏らしたのは俺か朝倉か。どちらにとっても予想外であったことは間違いない。
 森さんは、そんな俺たちのことなど意に介さずに朝倉を引っ張り上げた。
「どうして……何でここに森さんが?」
「何故、と言われましても。わたしはただ、土曜日の今日、この時間帯にこの場所へ来なければならないと、ただそれだけを覚えておりましたもので駆けつけたまでです。明確な理由はございませんが、しいて言えば虫の知らせでしょうか。ただ……それが功を奏したと言えそうですね」
 どこまでが本気でどこからが冗談なのか、さっぱりわからない理由を口にする森さんは、けれどそのことはさほど重要ではないとばかりに項垂れている朝倉を見ていた。
「あなたは、わたしの知っている朝倉涼子で間違いないのでしょうか」
「…………」
 問いかける森さんの言葉に、朝倉は何も応えずに項垂れている。そんな朝倉を前に、森さんは怒るでも戸惑うでもなく、その表情を伺うように跪いて真っ直ぐに見つめた。
「わたしのことを覚えていらっしゃいますか?」
「……う……して……」
 再度の問いかけに、朝倉は項垂れたままながらも、か細い声を出した。
「どうして、わたしを助けたの? 何も知らないくせに……何もわからないくせに手を差し伸べて……どうしてそんな、」
「助けた?」
 その言葉に、それこそ「何を言ってるんだ」とばかりに森さんは首を傾げてみせる。
「わたしがあなたを? 事実そうであれば、わたしも成長したものだと言えそうです。ですがわたしは、あなたを助けたつもりはございません。わたしはただ、できることをしたまでです。助けられると思って手を伸ばしたのではなく、手を伸ばすことしかできなかったらからそうしたのです。ではお聞きしますが、助けられないと思えば手を伸ばさなかったとお思いですか? 人はそこまで打算的に行動しているわけではございません。助けられずとも、それでもできることをするのが人というものではないでしょうか。ですので、飛び降りたければご自由にどうぞ」
 糾弾するでも怒鳴りつけるでもなく、いつもと変わらぬ静かな口調で、森さんは朝倉を突き放す。
「ですがその前に、あなたがわたしの知っている朝倉涼子その人であるのあら、わたしには返さなければならないものがあります」
「え……?」
 項垂れている朝倉の手を、森さんは両手で包むように握りしめた。放しても、それでもまたこうやって掴むことができるのだと言わんばかりに。
「お忘れですか? あなたはわたしに託したではありませんか、四年前の夏に。ウイルス入りの弾丸とともに、彼や長門さん、皆様方を守ってほしいと。その想いを」
 四年前の夏……あのときのオーパーツ事件のときか。お下げ髪だった頃の森さんと朝倉の間でそんな約束が交わされていたなんて。まるで関係ないという素振りを見せていたんだけどな。
「微力ながら、わたしはその役割に従事してきたつもりです。あなたが歩めなかった時間を、わたしは僭越ながら歩ませていただきました。けれどあなたがわたしの知る朝倉涼子その人であるのなら、わたしはその役目をお返ししたいと考えております」
「わたしは……でもわたしは、」
「たとえ何者であろうとも、誰かが誰かの代わりになることなどあり得ません」
 それでも躊躇う朝倉に、森さんは静かな声音でそう告げた。
「役割を肩代わりすることはできるかもしれませんが、その人そのものに成り代わることなどできないのです。たとえどれほどわたしが尽力しても、それでも守りきれないものがございます。あなたでなければならないこともあるのですよ」
 森さんにできなくて朝倉にしかできないこと、か。そうだな。そうだよな。朝倉でなけりゃならないことは確かにあるんだ。
「やあ、どうも」
 校内と屋上を繋ぐ出入り口から急に響いた声に驚いて顔を向ければ、そこにいたのは……古泉か? 来ていたのは森さんだけじゃなかったのか。古泉まで来ているってなると、もしかして他の『機関』メンバーまで揃っているのかもしれない。虫の知らせなどと森さんは言っていたが、実際は何か行動するに足りる予兆でもあったんじゃないのか?
「いえ、事実僕らは明確な理由あってここに集まっているわけではありませんよ。ただ……どう言えばいいのでしょうね。森さんは何とおっしゃったのでしょうか。虫の知らせ……ですか。まさにそうとしか言えません」
 揃いも揃って虫の知らせか。それはまた、けたたましいくらいにうるさく鳴り響いたようだ。普段なら迷惑と感じるところだが、今は感謝すべきかもしれない。
「それはそうと、ここに来る途中に稀有なお客様と出会いまして」
「客?」
「ええ。さぁ、どうぞこちらへ」
 古泉が一歩引いて校舎の陰に隠れていた人影が姿を現した。
「す、すいません……あ、お兄さん」
「ミヨキチ?」
 ミヨキチが北高のどこかにいることはわかっちゃいたが、どうしてミヨキチが古泉と一緒にいるんだ?
「見かけないお嬢さんを校内で見かけましてね。不思議に思って声を掛けてみたら、人を捜していると言うではありませんか。それも、なかなか興味深い相手のようで。捨て置けないと思い、こちらまでエスコートしたのですが……おや、余計なことをしてしまいましたか?」
「……おまえな」
「冗談ですよ」
 今のどこに冗談が含まれているのかさっぱりだが、微笑みをたたえるSOS団の副部長はひょいと肩をすくめて見せた。
「あっ」
 そんな俺たちのやりとりを不思議そうに見ていたミヨキチだが、その視線が何かを捉えたらしい。声を上げて指さすその先にいたのは……そうだったな、ミヨキチが捜してかけずり回っていたのは、このためだったんだよな。
「朝倉さん! ええっと、朝倉さんですよね?」
「え……っ? え、ええ……そう、だけど……」
 突然ミヨキチに名を呼ばれ、詰め寄られた朝倉は驚き混じりに戸惑っている。何が何だかわからないんだろう。それは無理もない。
「ほら! お兄さん、朝倉さんもいるじゃないですか。これでわたしが嘘や勘違いをしてたんじゃない、ってわかってくれましたよね?」
「ああ、そうだな。悪かったよ、俺が間違ってたみたいだ」
「え? い、いえそんな、別に謝ってほしかったわけじゃありませんし……」
 俺が素直に謝れば、途端にミヨキチはしどろもどろになる。どっちなんだと言いたいが、俺のことよりも朝倉をどうにかしてくれ。状況に着いていけずに呆けたままじゃないか。
「あ、ご、ごめんなさい。わたし、吉村美代子って言います。あの……以前にお会いしたことってありませんか?」
「わたしは……ないけど」
「あ、あれ? でもわたし、以前にもどこかで会ったことがあるようで……その、ええと上手く言えないんですけど、今日ずっと捜してて」
「……わたしを?」
「はい」
「どうして?」
「え? ど、どうしてって……えーと、その……」
 戸惑う朝倉と軽く挙動不審なミヨキチではまるで話が進まない。そんな二人を見て、俺はもう、ため息しか出てこなかった。これでもまだ、わからないって言うんだろうか。
「なぁ、朝倉。それは違うのか?」
「え?」
「おまえは、自分と今のこの世界を繋ぐ絆がないとかなんとか言ってたが、それならおまえを捜していたミヨキチは何なんだ?」
 理由はどうあれ、ミヨキチが朝倉だけを捜して駆けずり回っていたことは事実だ。それは、揺るぎもない歴史的事実ってヤツだ。たとえ記憶をいじくられようが、ミヨキチがそうしていたことを俺は忘れない。誰にも否定させない。
「ここにはいないけどさ、九曜もおまえに会いたがっていた。森さんは、四年前から今までおまえの気持ちを受け継いでいたんだろ? そんな二人との繋がりもないっておまえは言うのか? それとも、二人は事情を知ってるから例外か? だとしてもだ、ミヨキチは何も知らない。おまえの正体とか、ハルヒのこととか、そういうこととは関係なく、それでもおまえだけを捜していたんだ。それは、おまえが言っていた繋がりってヤツじゃないのか? それさえも違うと言うのなら、俺にはおまえが言っていた絆ってのが何なのかわからなくなる」
 だから、朝倉を捜していたミヨキチのことさえも違うとは言わせない。仮に朝倉が否定しても、それは紛れもなく事実であり、真実だ。
 朝倉と今のこの世界とを繋ぐ絆はゼロなんかじゃない。細くて気付かないものものかもしれないが、存在しないわけじゃないんだ。
「わた……しは、」
「どうする、朝倉。おまえが『絶対』とばかりに言ってたことのひとつが崩れたぞ。だったら、おまえが存在して、朝比奈さんにも繋がる未来っていうのも、」
「それでも」
 俺の言葉を遮って、静かで平坦に響く声は、地を這うように響く。その声は低くか細いものだったけれど、そこにいた全員の耳に届いたのだろう。全員がそろって同じ方向に目を向ければ、夜の帳が覆う空の下、北高の制服を風になびかせてそいつは佇んでいた。
「それでも、世界はそれを認めない」
 あらゆる感情を押し殺した声音で、長門有希はそう言った。

つづく
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NAME: Miza
森さんかっこいー!
そしてミヨキチの奔走は実を結ぶのかなぁ?ラスボス(のようになってしまった)長門の本心も気になります。
2008/11/21(Fri)15:46:50 編集
自分が表現する森さんはどうしても格好良さが先立ってしまうのです。うーん、もう少し可愛らしい方面も目指してみたいところです。
【2008/11/22 02:24】
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