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DATE : 2008/07/13 (Sun)
連日の暑さもそうですし、夏コミ原稿のまとめ作業もそうですし、なにより『策略』のキョン語りがどうにもキョンらしくなくて大変。下手に1次と混ぜて書いてるのが悪いのか……むぅ。

ともかく若干予定より遅れましたがSSの続きをば。予定よりも話が長くなってきたなぁと思ったり思わなかったり。今回の話がまとまるまで、あとどのくらいかかるのか読めなくなってきましたヨ!

それでも〆が決まってるので、そこまで上手く舵取りするだけの話だったりしますが。あー、できることなら夏コミ前後には片を付けたいナァ。

ではまた。

前回はこちら
喜緑江美里の策略:14

「あ、あれ?」
 まさに忽然と、目の前から一瞬にして姿を消した朝比奈さん(大)を探して、俺は携帯を耳に当てたまま周囲を見渡した。けれど視界に飛び込んでくるのは、往来をせわしなく移動する人々の姿。中には、道のど真ん中に突っ立って携帯を耳に当てている俺を邪魔くさそうにチラ見して通り過ぎるヤツもいるが、その中に朝比奈さん(大)はいない。
『あの、もしもし? お兄さん?』
 耳に押し当てた携帯から響くミヨキチの声で、ふと我を取り戻す。朝比奈さん(大)が急に現れて突然いなくなることなんて、何も今に始まったことじゃない。そもそも、あの人が「また会いましょう」と言って消えたことなんて、一度としてあっただろうか。いやない。
『大丈夫ですか?』
 どうせ今回も、話すことを話し終えたから消えたんだろう。そういうことだと考えて、俺はひとまずミヨキチからの電話に集中することにした。だいたい、いくら電話番号を教えておいたからと、我が妹の親友とは思えないほど大人びて思慮深いミヨキチが、何の理由もなしに電話をかけてくるとは思えない。
「どうした?」
『あ、えっとそのぅ……わたしの家、まだ両親が帰ってきてなくて』
 少し言い淀んだ後、急にそんなことを言い出したものだから、素で何のことかと考えた。考えて、そういえばミヨキチの両親は一人娘を残して旅行中だったんだよな。
『それで、今一人なんですけど……』
 一言一言、言葉を選ぶように慎重に言葉を選ぶミヨキチが、果たして何を言いたいのかまったく要領を得ない。
「あー……悪いんだが」
 朝比奈さん(大)の突然の登場もあって話が逸れていたが、俺はもともと逃げた朝倉を追い掛けていたんだ。朝比奈さん(大)との話も中途半端で終わった感が否めないが、勝手にいなくなってしまったのだから、本来の目的を優先させるべく、ミヨキチからの通話を切り上げようと思うのは当然だろう。
 そう思ってたんだが。
『もしできることなら……その、今からうちまで来ていただけ……ません……か?』
「……ぁい?」
 まるで厳粛な家で育った清楚な乙女が、イケナイことと知りつつも隠れて大人の階段を駆け上がるような火遊びをしようとしているみたいに、恥じらいと戸惑いを含んだ声でささやきかけられれば、さすがの俺も間抜けなことこの上ない声が出てくるというものだ……が、どうやらミヨキチの意図するところは、そういうことではないらしい。
『実は、その……昨日の人がまた来てて』
「え?」
 昨日の……人……って、まさか。
『保護者の方への電話番号も、わたし知りませんし……お兄さんしか連絡できる相手がいなくて。あの……どうすればいいですか?』
「ちょっ、待て。それはあれか、朝倉のことか?」
『あさ……くら、さん? すみません、お名前までは聞いてませんでしたから……。でもたぶん、その方で間違いないと思います。昨日の方ですから』
 そういえば朝倉の名前とか、はっきり教えていなかったような気がする。だからミヨキチは判然としない態度を見せているんだろうが、話の流れから察するに、ミヨキチの家に朝倉が現れていると見て間違いない。
「今、そこに朝倉がいるんだな? 大丈夫なのか、おい?」
『はい。なんだか昨日みたいに元気がないみたいですけど……』
「わかった。今からそっちに行く。朝倉が逃げ出さないように見張っといてくれ」
 とにかく朝倉がそこにいて、ミヨキチが無事であることが確認できればそれでいい。電話をかけてきている時点で無事なことは無事なんだろうが、今の朝倉の状態がアレだ。そうのんびり事を構えていられない。
 通話を終わらせ、ミヨキチの家に向かいながら俺は別の相手に連絡を取るべくダイヤルを回す。携帯を耳に押し当てながら走るが、けれどコール音しか響かない。十回、十五回、二十回と鳴り響くが出てくれない。何をやってんだ、あの人は!?
「くそっ」
 繋がらないんじゃ仕方がない。舌打ちひとつ、携帯の通話を切ってポケットに突っ込み、とにかく今はミヨキチの家まで行って朝倉の身柄を俺が確保しておかなければならん。
 幸いにして、連絡を受けた場所からミヨキチの家まではそう遠い距離じゃなかった。とは言ってもタクシーを拾ったり自転車を飛ばさなくてもたどり着けるという意味合いでの近場であり、走って一〇分から一五分はかかる距離だ。
 人混みを避けての全力疾走なんぞやりたくもないことだが、状況が状況的にやむを得ない。自己ベストのタイムを叩き出しているんじゃないかと思うスピードでたどり着いたミヨキチの家先は、見た感じでは特に変化がない。朝倉がいるらしいが大人しくしているようで何よりだ。
 乱れた息を整えるように深呼吸をひとつ。まぁ、急いで駆けつけたことを隠す必要もなく、息を乱していれば急いで駆けつけたというアピールになりそうだがそんなアピールをすることの意味もなく、そもそも朝倉がいるとわかっている状況を自分自身に納得させるための深呼吸だと割り切ってインターフォンの呼び出しボタンを押し込んだ。
『……はい、どちら様でしょう』
 インターフォン越しに聞こえて来たのはミヨキチの声だった。そりゃそうだ。ここでまったく知らない第三者が登場されても困る。
「俺だ」
『あ、お兄さん。えっと、ちょっと待っててくだきゃああっ!』
 話途中でミヨキチの台詞が悲鳴に切り替わった。何事だと思うまでもなく、インターフォンから聞こえて来たのはドタン、バタン、ガシャン、と何かが暴れ回る音が聞こえて来た。それは、ともすれば興奮したシャミセンが俺の部屋の中で暴れている音のようでもあるが、響いてくる音の大きさから、暴れているのがシャミセンとは比べものにならないほど大きいことがわかる。
 ──まさか……
 服と地肌の間に、巨大なつららでも突っ込まれたかのような寒気が背筋を走った。
 インターフォンはまだ通じているようだが、そんなことはお構いなしに俺は玄関へ急ぐ。ガチャガチャとドアノブを回すが、カギが掛かっているのか一向に開く気配はない……と思っていたのだが、かしょん、と響いた軽い音が、玄関のロックがハズされた音だと気付いたのは、力任せに引いたドアが今までの抵抗が嘘だったかのように勢いよく開いたからであり、それと同時に巨大な物体が俺に体当たりして来たからである。
 まるで住処を追われた猪が、エサを求めて畑に入れば人に追われて逃げ出したような勢いで突撃を食らわせて来たのが何なのかと言えば、あえて多くを語るまでもなく、さらにそれは逃げ出すためではなく襲うために突進してきたという事実は、考えたくもない。
 問答無用で人の真上に馬乗りになってきた朝倉は、まるで隠れ家で俺に襲いかかってきた状況の再現でもするかのように、首もとに手を伸ばしてくる。まったく学習してない反復行動のような朝倉の行動に、本当に記憶も知識も何もないんだな、と納得しかけてしまうが、それに勝る感情は、こんな理不尽な状況に叩き込まれた今の状況だ。
「こっ、この……っ!」
 なんだか無性に腹が立ってきた。理不尽な仕打ちにではなく、あれこれ言ってたくせに結局はこういうことかと、そう思えてならない状況に頭に来た。
 つまりあれか? 朝倉は、俺に事実を突きつけるためとか、長門と俺たちの絆を確固としたものにするためとか、あれこれもっともらしい理由を口にしていたが、根本にあるとこは結局俺を殺そうとすることなのか? ふざけんな!
「いい加減にしろ!」
 俺だっていつまでもやられっぱなしじゃない。今の朝倉は情報操作が使えず、腕力も人並みだ。つまり、見た目そのままの女の力ってわけだ。いかに俺が世間一般の平凡を絵に描いたような当たり障りのない高校生だとしても、逆を言えば世間一般的な男子高校生くらいの腕力がある。インチキなしの朝倉相手に、腕っ節で負けるわけがない。負けたら、それこそ『一般的な』という俺の代名詞を撤廃しなけりゃならん。
 元からかんしゃくを起こした子供が突っかかってくるような行動で人の首を絞めることしかしていない朝倉だ。勢いに飲まれて押し倒されているが、両手を振り回している腕も狙っている場所がわかっている。掴んで力任せに押し返せば、当然のことながら形勢は一気に逆転した。
「お、お兄さん大丈夫ですわわわわわっ!」
 ようやく……と言っていいのかわからんが、俺が朝倉を押さえつけることに成功した頃合いでミヨキチが家の中から飛び出してきた。一連の騒ぎは、もしかすると一分と過ぎていなかったのかもしれないが、なんであれ、こっちを見るや否や悲鳴を上げられた。悲鳴を上げたいのはこっちのほうだ。
「な、何をなさってるんですか!?」
「ミヨキチ、ロープか何か持って来てくれ」
「ろ、ロープ? そんな、うちにそんなもの、」
「タオルでもなんでもいいから、縛れるものを早く!」
「はははは、はい!」
 慌てて家の中に舞い戻るミヨキチを見送る最中でも、朝倉は暴れに暴れている。まったく、このふざけたバカ騒ぎをはいつまで続くんだ?


 タオルで腕と足を縛り付けて、それでもまだ暴れ足りないとばかりに藻掻く朝倉を玄関先に放置しておくわけにもいかず、ひとまずミヨキチの家の中にお邪魔することになったわけだが、その惨状を目の当たりにした俺の口から出てくる言葉はひとつしかない。
 これはひどい。
 マジでそう思う。本当に心の底からそう思う。
 これはひどい。
 まるで小型のハリケーンでも通過したかのような惨状だ。ソファやテーブルはひっくり返り、蛍光灯の傘や棚や調度品が壊れ、俺が親なら問答無用で怒鳴りつけるほどの大惨事となっていた。
「これ……朝倉がやったの……か?」
 聞けばミヨキチは、今にも泣きそうな顔をしてこっくり頷いた。頭が痛くなってきた。
「なんていうか……本当にすまん……」
 俺が謝ることじゃないような気もするが、とにかくそう言っておかなくちゃならない気がする。
「あの、こんなこと言うのも何ですが……その人、どうかなさってるんですか?」
「いや、まぁ……」
 ここまで被害を被らせた以上、適当な言葉でごまかすことはできない。かといって、包み隠さずすべてを説明するのも問題だ。
 昨日、喜緑さんも言っていたが、ミヨキチはまだ無関係なんだ。こうも朝倉に絡まれている今ではそれすらも危うく思うところだが、しかしまだ無関係だと思いたい。だから包み隠さずすべてを教えるわけにもいかない。
「何かその……なんていうか……」
 ミヨキチは必死に言葉をごまかそうとしているが、何となく言わんとしていることはわかる。確かに今の朝倉を見れば、まともとは思えない。ちょっと心に傷を負っているようにさえ見えるだろう。
 まぁ、確かに知識も記憶もないんじゃ似たようなもん……って、そうか。
「そう、朝倉は病気なんだよ。信じられないかもしれないが記憶喪失で、精神状態も不安定なんだ。普段はこんなヤツじゃ……あー……」
 自分で言うのもなんだが、はっきり『違う』と否定できないところが朝倉らしい。
「記憶喪失……なんですか?」
 漫画やドラマじゃよくある症例だが、実際にそんなことになっている相手を目の当たりにするのは初めてだろうミヨキチは、俺の言葉がなかば信じられないとばかりに目を剥いて驚いている。ただ、こればっかりは、多少のニュアンスに違いがあるかもしれないが、近しい表現として嘘ではない。
 やれやれ、本当のことでさえ嘘くさくなるってのはどういうことだ。
「ともかく、ここの片付けとか、ミヨキチの両親への謝罪は俺がするから。本当に何て言うか、巻き込んで悪かった」
「いえ、それはいいんですけど……」
 いや、よくないだろ。できることなら喜緑さんでも呼んで、このひどい状態を情報操作でもなんでもいいから元に戻させたいくらいだ。……うん、あとでやらせよう。元通りに戻させて、その言い訳も喜緑さんにやらせようそうしよう。
「いえ、ホントに大丈夫ですから。でも、その人……記憶喪失なら、お兄さんがあれこれするよりも、お医者様に診てもらった方がいいんじゃありませんか?」
 確かにその通りだ。正論すぎて、返す言葉が何も見つからない。が、それはあくまで一般的な人間だったらって話であり、そのことをミヨキチに言うわけにもいかない。
「できることならそうしたいが、望むとも望まざるとも、どういうわけか俺じゃないとダメらしい」
 だからこそ、俺が奔走することになってるわけだ。
「え? でも……お兄さんが記憶喪失を治せるわけじゃ……その、ないですよね?」
 そうなんだよな。確かにミヨキチの言うとおりだ。朝倉の記憶をどうこうなんて、俺にできることは何もない。裏で策を巡らせているのは喜緑さんだし、朝倉の記憶を管理してるのは宇宙人の親玉だったり長門だったりするみたいだから、そこに挟める口さえも、俺には何もないわけだ。そもそもこれは、宇宙人連中の内輪揉めみたいなもんじゃないか。
「けれど、どういうわけか俺がいないとダメらしい。そりゃ断ることも突っぱねることもできるだろうが、それでも頼られ……んー……頼られてるのかわからんが、何であれ俺にすべてのしわ寄せが来てるんだ。だったら無下に断れないじゃないか」
 俺がそう言うと、ミヨキチは呆れたように、それこそ心の奥底から遠慮なしで表情に表すくらいに呆れ果てたように、なんとも言えない表情を浮かべて見せた。
「本当にその人、記憶喪失なんですか?」
 俺の言葉から何を感じ取ったのか、ミヨキチが重ねて同じ質問をしてくる。
「え? あ、ああ、もちろん」
「……お兄さん……もう」
 俺が努めて冷静さを装ってミヨキチの疑念を否定してみせても、なんとなくわかっちゃいるんだ。客観的に見て、言い返せる言葉が大学ノート一冊分以上はあるってことが。
 それでもミヨキチは、ため息混じりに言葉を飲み込んで矛を収めてくれた。
「わかりました。今はもう、それでいいです。本当にもう……」
 何がどう『わかった』で『それでいい』のか俺にはわからんが、少なくともミヨキチは『今は』と言っている。何かしら思うところも、俺に対する文句も山盛りなんだろうがそれでも、ミヨキチは『今』は『それでいい』と言ってくれている。
 裏を返せば『いつか』は『ちゃんと話せ』と言ってるんだろう。
「来週には、たぶん何とかなるからそのときに、」
「知りません」
 俺のフォローにさえなっていないような弁明を受けて、ミヨキチはそっぽを向く。今の俺にとって、それが本当に有り難かった。

つづく
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★無題
NAME: 蔵人
ミヨキチが一番大人だなあ。
朝倉はなんでミヨキチの家に?記憶の最後にキョンを見たから?
この後に喜緑さんがどうフォローするのかも気になりますね。
URL 2008/07/13(Sun)03:35:20 編集
今回のミヨキチさんは、最年少だけど最年長って感じの立ち位置です。なので一番しっかりしてますw ある種、キョンくんにとって一番の助けになる存在かもしれません。
そして、何故に朝倉さんがミヨキチさんの家に何度も現れているのかというと……えー、なんででしょう?w
【2008/07/14 02:42】
★無題
NAME: Miza
こんなキョン君の対応でも許してくれるミヨキチに萌えそうです。
いやもう萌えた!
2008/07/14(Mon)14:55:05 編集
こんな娘さんなら、妹でもヨメでもいいから欲しくなりますw
【2008/07/15 00:02】
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