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DATE : 2007/04/06 (Fri)
「憤慨」のP145の9行目って感じ。

なんて言うと、きっと「このままではオチがありませんね」と言われるに違いない。

そんな感じの。
本日の朝倉さんです。

前回はこちら
【週刊朝倉涼子】

 帰宅の途に着く人の波をかき分けて、わたしは遊園地の中、彼の姿を捜して走っていた。まだ園内には人も多く居て、けれどその客層もちょうど入れ替わる時間帯かもしれない。
 そういえば、彼って今日はあの……吉村さんとデートだったわね。どこまで親密な仲なのか知らないけれど、日も暮れ始めたこの時間まで遊園地にいるものなのかしら……なんてことを考えて、ふと冷静になっちゃった。
 吉村さんと別れたのは、昼も過ぎたころ。あれからけっこう時間も過ぎてるし、一緒にいる吉村さんが何歳なのかハッキリしないけど、彼よりは年下に見えた。だから、遅い時間まで引っ張り回しているとは思えない。
 もう、帰っちゃってるかな。まだいるかもしれないけれど、彼の方からわたしを捜すような真似はしないだろうし……ここで会うのは無理かもしれない。
 そもそも、わたしの行動制限は解除したって喜緑さんが言ってたんだから、明日になれば学校で……彼に会うことになる、と思う。再編入の手続きがあるから、明日すぐに転校っていう形にはならないのが、まだ救いなのかしら。
 いろいろ考えると憂鬱になる。彼との間にいろいろあったことは確かだし、わたしが戻ったところで──周囲は別としても──彼が受け入れてくれるとは思えない。
 これまでのように、一人でマンションの中に閉じこもっていなければならなかったのも辛いけど、学校に戻って人類社会の中に再び溶け込んでも……わたしにとっては針のむしろね。
 人によっては……喜緑さんなら「劇的な変化じゃないですか」と言いそうだけど、全然違うわ。このままじゃ何も変わらない。周りがどう見て何を思っても、わたしには何の変化も訪れていない。
 明日、学校に……どうしよう。行きたくないと思う自分は、我が侭なのかな。
 会えないから会いたい。
 でも。
 会えるから会いたくない。
 喜緑さんは、あとはわたし次第だと言った。そのわたしが、宙ぶらりんの状態じゃどうしようもない。自分の足で進むことにも戻ることにも戸惑いを覚えている。時間が過ぎれば過ぎるほど、躊躇う気持ちが大きくなる。今こうして、ベンチに腰掛けて顔を伏せている時間がずっと続けばいいとさえ願っている。明日が来なければ……そう思う気持ちは、次第に強くなっていく。
「はぁ~………………痛っ!」
 顔を伏せてため息を吐いていると、不意に後頭部に鈍痛が走った。思いっきり殴られた訳じゃないけれど、何か固い金属みたいなもので小突かれた痛み。
 後頭部を押さえて顔を上げて──わたしは、自分自身の視覚情報にエラーでも出たかと思った。人間で言えば、蜃気楼か幽霊でも見たんじゃないかと、適当な理由を付けて納得しようとするかもしれない。事実、わたしもそうしようとしていた。
 でも、間違いじゃない。幻でも夢でもなく……今、わたしの目の前には、さもつまらなさそうな表情を浮かべて、わたしの頭を小突いた缶コーヒーを差し出して立っている。
「あ……と、あの、」
「ほら」
「え……あ、ありが……とう」
 訳もわからぬまま、状況も理解できていないままで差し出された缶コーヒーを受け取ると、彼は何も言わずにわたしの横へ腰を下ろした。
 それから、ちっともわたしの方を見ようとはしない。逆にわたしは、呆気に取られたままの表情でずっと彼の横顔を眺めていた。
「な……んで、ここに……いるの?」
 声がかすれる。喉が詰まりそうになる。呼吸もうまくできない。彼がわたしを見ていなくてよかったと、この状況を夢のように感じて冷静でいるわたしの一部は、そんなことを考えている。見られていたら、わたしはよっぽどおかしな顔を彼に晒していただろうから。
「なんで? さぁ、なんでだろうな」
 わたしの問いかけに、彼は自分のコーヒーで喉を潤せてから答えた。でもその顔は、わたしの方を見てくれない。
「だって、あなた今日は……吉村さんと一緒にいたんじゃ」
「そうだな」
「だったらなんで……どうして一人でここに、」
「まったくだ。なんで俺は一人でのこのことここにいるんだろうな。いったい誰の謀略だ? なんて、考えるまでもないが」
 あおるように缶コーヒーの残りを一気に飲み干し、空になった缶を片手に彼は立ち上がった。
「で」
「え?」
「何か言うことがあるんじゃないのか?」
 言うこと……言いたいこと、それはたくさんある。一言じゃ言い切れないほどの言葉がたまっている。たまっているけれど、でもそれをうまく表現できる最適な言葉が見つからない。
 戸惑い、言葉を探すわたしを、彼は再会して初めて、まっすぐ見てくれている。
「え……っと、あの、お久し……ぶり」
「そうだな。それで?」
「あ……うん、その……ごめん」
「何に対する謝罪だ」
「あの……いろいろ、と」
「そうかい。他には?」
「他? んと……ただい、ま?」
「俺はおまえの帰りなんて待っちゃいなかったがな」
「…………」
 他に……他に言うこと。言わなくちゃならないこと。彼に対して、わたしが言おうと思っていた言葉。それを必死に探すけれど、でもこれ以上は見つからない。言わなくちゃならないことはあるんだろうけれど、でもその気持ちは言葉になってくれない。今ほど言語でのコミュニケーションがもどかしいと感じたことはなかった。
 わたしが言葉をなんとか形作ろうとしていて、でもちゃんと形にならなくて、どうすればいいのかわからずにいると……彼は深い深いため息を吐いた。
「帰る」
「え? あ……」
「昨日から今日まで、散々な目に遭いっぱなしだ。明日からの一週間、まともに過ごせるように、そろそろゆっくり休みたいんだ」
「……うん」
 背を向けて、立ち去る彼の後ろ姿に、わたしはこのまま別れていいのかどうか迷った。
 彼には会えた。会うことができた。でも、それだけ。たった一度の邂逅で何かが変わるとは思っていなかったけれど、でも今のままじゃ会えなかったこれまでと、何も変わらない。
「ねぇっ!」
 彼に伝えるべき言葉は、まだ影すら見せない。でもこのまま別れちゃダメなんだって思う。だから、何も言えなくてもそれでも、わたしは彼を呼び止めていた。
「なんだ?」
「あの……わたし、明日からまた、学校に行くことになるの」
「で?」
「だから、えっと……明日。明日、学校で会えるよね?」
 彼を呼び止めて、言えた言葉はそんなこと。そんなどうでもいいような、他愛もないこと。そんなことしか言えなくて、少し自分が嫌になる。
 彼も、少し呆れたような表情を見せて……軽く吐息を漏らすと、再びわたしに背中を向けた。
「じゃあな、朝倉」
 結局、わたしは彼を呼び止めることはできなかった。
 でも。
「また明日、学校で」
 そんなどこにでもあるような、ごく当たり前で日常的な別れの言葉が、とても嬉しかった。これでようやく、わたしは明日を迎えられると思った。
 彼が去り際に残してくれた言葉が、わたしを拒絶するような言葉じゃなかったから。

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★無題
NAME: かわうそX
『彼』と『わたし』のオンパレード。
ヴウ ヒグッ
キョン幾らなんでも荒い応答だぁ
2007/04/06(Fri)04:08:19 編集
いやあ、なんと言いますか、朝倉さんにキョンくんのことを「キョン」って呼ばせるのには抵抗がありまして(;´Д`)
今回のキョンくんは、ツン成分全開なのです!
【2007/04/07 02:42】
★無題
NAME: BPS
さすがに冷たすぎだろとハラハラしてましたが、最後の一言で安堵に変わりました。

よく考えればキョンも朝倉さん探してたみたいだし、ツンデレの本領発揮だったんでしょうかw
2007/04/06(Fri)07:13:38 編集
今回のキョンくんの対応こそ、ツンデレの醍醐味だと思うんですけど如何でしょう?w
【2007/04/07 02:42】
★無題
NAME: せつや
朝×キョンで難しい事柄の一つ、『まず、どうやって朝倉をキョンが受け入れるか』を上手く丁寧に書かれていますね。
さすがにのまえさんです、自分としては大納得です。

それにしても、朝倉さんがすでにべた惚れの様な気がするのは自分だけでしょうか?
そのうち前とは別の理由でナイフを振りかざしたりして…
2007/04/06(Fri)22:22:05 編集
どうやって再会させるか、ってのを考えたときに、普通に「ただいま」「おかえり」のやりとりは違うなー、と思い、かといって二度も殺されかけた相手の謝罪の言葉で受け入れるのも、やっぱり違和感あるなー、と思って今回の流れにしてみました。
なんというか、ごく当たり前の日常の中に朝倉さんを引き戻して、溝は多少なりともあるけれど受け入れるのがキョンくんだろうと、そんな気分ですw
【2007/04/07 02:48】
★無題
NAME: ゆんゆん。
わぁキョンくん…可愛いなぁ~wぶっきらぼうだけどなんかいじらしいといいますか(#^.^#)朝倉さんも良かったとでふd(ゝω・*)これから学園編(!?)での血で血を洗う6角関係ぐらいにでも発展…しないですね(笑 
2007/04/06(Fri)23:55:56 編集
ここからは、キョン争奪バトルロワイヤルが開催されます!
【2007/04/07 02:49】
★無題
NAME: ron
よし、キョン、やっぱり一発殴らせろ
2007/04/07(Sat)01:05:11 編集
暴力(゚A゚)イクナイ
は、さておき。
やっぱりこれがツンデレの基本形態じゃないですかw
【2007/04/07 02:50】
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