category: 日記
DATE : 2007/08/15 (Wed)
DATE : 2007/08/15 (Wed)
前回はこちら
【Respect redo】吉村美代子の憂鬱
佐々木さんと橘さんが作った熊鍋は別として、朝倉さんの豚汁が出た段階で皆さんお腹はいっぱいだと思うんです。そこへ、さらに料理を出したところでいったい誰が食べるんだと問い詰めたいわけですが、わたしだけ作らないのは不公平だと橘さんが言い出しちゃったので、仕方なく台所にやって来ています。
そこで作るものと言えば、わたしが山の中で捕って来た材料が川魚ですから、串でも刺して塩をまぶして焼くくらいしか調理方法が思い浮かばないんですけど……それでいいのかしら?
「どれどれ吉村さん、調子は如何です?」
取れたてピチピチの生魚を前に、さてどうしたものかと考えていると、そこにやってきたのは橘さんでした。ちなみに周防さんはここにおりません。よっぽど朝倉さんの豚汁がお気に召したのか、一人でぱくぱく食べていて、こっちに来てくれないんですよね。
「なのでわたしが助っ人です」
「えぇ~……」
助っ人って……本当に助けになるのか大いに疑問を感じちゃうわけですが、ホントのホントに大丈夫なんですよね?
「お任せあれってもんです。で、何を致しましょう」
「えーっと、じゃあ魚から腑を出してもらっちゃいましょうか」
「えぇ~……。あたし、そういうのはちょっとニガテです」
「……じゃあ、三枚に下ろしたり、とか」
「どうすればいいんでしょう?」
「…………」
果たして、これほどまでに助けにもならない助っ人が存在したでしょうか。
「何ができるんですか、あなたは」
先にこれを聞いておくべきでした。呆れつつも尋ねてみれば、橘さんはぷるん……と、言うほどでもないですが胸を張りまして──。
「味見ができます」
なんて言い切っちゃいました。だったらさっきの熊鍋の味見はしたのかと問いたい。問い詰めたい。
「帰ってください」
「冗談じゃないですかー、遊んでくださいよー」
んもう、こっちは料理しなくちゃならないんですから、遊んでる場合じゃないんですよ。そんなに遊びたかったら……そうですね、喜緑さんと遊んでもらえばいいじゃないですか。
「吉村さん、何をトンマなことをおっしゃってるんですか」
トンマ……そんな言い方をする人が、実在することにちょっとビックリです。これがカルチャーショックというものなのかもしれません。もしかして橘さん、年齢詐称とかしてませんよね?
「ピチピチの高校二年生に対して何をおっしゃいますか。この卵のようなつるつるぷるんなお肌に対して謝罪と賠償を求めちゃいます。その焼き魚でよろしいので」
「で、何がトンマなんですか?」
「吉村さんスルースキルがあっという間に高くなってつまんないです」
それはいいですから。
「よろしいですか? 喜緑さんも朝倉さんも、何もわたしたちと仲良しというわけではないのです。前にもお話したかと思うのですが、あの二人は我らがきょこたん団の敵、その先兵なのですよ」
ああ、そんなどーでもいーような設定がありましたね。わたしはすっかり忘れてましたし、朝倉さんや喜緑さんの態度を見ている限りではそういう風にも見えないですけど。
「ちっちっち。そうやって懐柔されてはダメなのです。笑顔で握手を交わしながら、足下では蹴り合うのがまっとうなライバルというもの」
そんなライバルはこっちから願い下げですよ。
「現実とは得てしてそういうものですよ? まぁ、ともかく、あの二人が敵だということをお忘れなく」
「お忘れなくと言われてもですね、いったい何がどういう敵だと、橘さんは言ってるんですか?」
「あれ? 話してませんでしたっけ?」
「聞いてませんよ」
確か聞いてない……と思うんですけど、どうだったかしら? 橘さんの話はいつも右から左だったもので、それらしいことを言ってても聞き流しているような気がします。
「仕方ないですね、ではお話しましょう」
そんなもったい振るような態度をするなら、無理に聞かせてもらわなくても。料理の準備で忙しいんですから、わたし。
「えっと、話を聞いてください」
そんな泣きそうな顔しなくても。
「あー、はいはい。ちゃんと聞いてますよ。ささ、どうぞどうぞ」
「今から四年前、この世界は佐々木さんが作り出したのです」
「……へぇ、そうなんですか」
「まぁ、理解が早いですね」
や、理解も何も橘さんの話が本当のことだと端から信じてないわけでして。
「それで、ですね。あたしは佐々木さんから何かしらの力を授かったのです。まぁ、すばらしい。その力を観測するために、宇宙からは周防さんが現れ、その力が時空間に変異を及ぼすことを知った藤原さんが未来からやってきたのです」
「じゃあ、あの二人は宇宙人と未来人ですか。すごいですねー」
えっと、魚をさばくときって、背中から捌くのが海魚で、腹から捌くのが川魚だったかしら? 何かそういうやり方があったと思うんだけど、うーん、しっかりお母さんから教えてもらっておけばよかったなぁ。
「あの、聞いてます?」
「え? ああ、はいはい。それで橘さんは、どんな力があるんですか~?」
「あたしには超能力があるのですよ。はい、ここ驚くところー」
「わぁ、すごいなー」
はぁ、疲れますねこれ。
「もうすぐ料理できますから、待っててくださいねー」
「いえあの、料理の話ではなくてですね……」
んもー。まだ引っ張りますか、あなたは。
「じゃあ、どんな超能力なんですか? はい、これでいいですか?」
「物凄い適当ですねー。んーとですね、佐々木さんが作り出す閉鎖空間と呼ばれる異空間に入ることができます」
「なんですかそれは?」
「何と聞かれましても……」
いやいや、あなたが言ったことじゃないですか。自分の発言には責任を持ちましょうよ。
「えーっと、佐々木さんの内面世界? みたいなものですね」
「じゃあ橘さんには佐々木さんの考えが、まるっとお見通しなんですか?」
「や、そういうわけでもないんですが……」
自分で言っておいて、こっちからのツッコミにはことごとく口籠もるとはどういう了見ですか。
「あのそれ、どう考えても超能力ではなさそうなんですが」
「あ、言っちゃった。言っちゃいましたね? あたしを全否定ですか。吉村さんのひとでなしー」
この人は……。もしかして、料理をしているわたしの邪魔がしたいだけなんじゃないでしょうかね? 今の状況だと、朝倉さんや喜緑さんより、あなたが敵に見えて仕方ないですよ。
「だいたい、超能力が使えるのなら、それらしいことをしてみてください。はい、どうぞ」
仕方ないので、宿の備品のスプーンを橘さんに渡しておきました。これで少しは静かにしていてくれると大助かりです。
「なんか吉村さん、お母さんが小さい子供をあしらうような真似してますね」
「わたしより年上の子供なんていりません。それを曲げることができたら話を聞いてあげますから、大人しく良い子で待っててくださいね」
「むぅ」
はぁ、やれやれ。橘さんの戯れ言に付き合ってたせいで、調理時間が余計に掛かっています。まぁ、あとは塩をまぶして火に掛けるだけですけど。
「あのですね、吉村さん」
「あ、そろそろですから、もう皆さんのところに戻っててください。すぐ行きますから」
「いや、ですから」
「はいはい、あとでちゃんと遊んであげますからね」
「んん……っ! もうっ!」
スプーンをぽいっと流し台の中において、橘さんったらぷりぷり怒って行っちゃいました。手伝いに来たんじゃなかったんですか、あなたは?
あらかじめ言っておきますが、スプーンが曲がっているようなことはありませんでした。やっぱり超能力なんて使えないじゃないですか。ねぇ?
「……あれ?」
橘さんが増やした洗い物を片付けているときに気付いたんですが……このぐんにゃり曲がってるフライ返しはなん何なんでしょう?
つづく
【Respect redo】吉村美代子の憂鬱
佐々木さんと橘さんが作った熊鍋は別として、朝倉さんの豚汁が出た段階で皆さんお腹はいっぱいだと思うんです。そこへ、さらに料理を出したところでいったい誰が食べるんだと問い詰めたいわけですが、わたしだけ作らないのは不公平だと橘さんが言い出しちゃったので、仕方なく台所にやって来ています。
そこで作るものと言えば、わたしが山の中で捕って来た材料が川魚ですから、串でも刺して塩をまぶして焼くくらいしか調理方法が思い浮かばないんですけど……それでいいのかしら?
「どれどれ吉村さん、調子は如何です?」
取れたてピチピチの生魚を前に、さてどうしたものかと考えていると、そこにやってきたのは橘さんでした。ちなみに周防さんはここにおりません。よっぽど朝倉さんの豚汁がお気に召したのか、一人でぱくぱく食べていて、こっちに来てくれないんですよね。
「なのでわたしが助っ人です」
「えぇ~……」
助っ人って……本当に助けになるのか大いに疑問を感じちゃうわけですが、ホントのホントに大丈夫なんですよね?
「お任せあれってもんです。で、何を致しましょう」
「えーっと、じゃあ魚から腑を出してもらっちゃいましょうか」
「えぇ~……。あたし、そういうのはちょっとニガテです」
「……じゃあ、三枚に下ろしたり、とか」
「どうすればいいんでしょう?」
「…………」
果たして、これほどまでに助けにもならない助っ人が存在したでしょうか。
「何ができるんですか、あなたは」
先にこれを聞いておくべきでした。呆れつつも尋ねてみれば、橘さんはぷるん……と、言うほどでもないですが胸を張りまして──。
「味見ができます」
なんて言い切っちゃいました。だったらさっきの熊鍋の味見はしたのかと問いたい。問い詰めたい。
「帰ってください」
「冗談じゃないですかー、遊んでくださいよー」
んもう、こっちは料理しなくちゃならないんですから、遊んでる場合じゃないんですよ。そんなに遊びたかったら……そうですね、喜緑さんと遊んでもらえばいいじゃないですか。
「吉村さん、何をトンマなことをおっしゃってるんですか」
トンマ……そんな言い方をする人が、実在することにちょっとビックリです。これがカルチャーショックというものなのかもしれません。もしかして橘さん、年齢詐称とかしてませんよね?
「ピチピチの高校二年生に対して何をおっしゃいますか。この卵のようなつるつるぷるんなお肌に対して謝罪と賠償を求めちゃいます。その焼き魚でよろしいので」
「で、何がトンマなんですか?」
「吉村さんスルースキルがあっという間に高くなってつまんないです」
それはいいですから。
「よろしいですか? 喜緑さんも朝倉さんも、何もわたしたちと仲良しというわけではないのです。前にもお話したかと思うのですが、あの二人は我らがきょこたん団の敵、その先兵なのですよ」
ああ、そんなどーでもいーような設定がありましたね。わたしはすっかり忘れてましたし、朝倉さんや喜緑さんの態度を見ている限りではそういう風にも見えないですけど。
「ちっちっち。そうやって懐柔されてはダメなのです。笑顔で握手を交わしながら、足下では蹴り合うのがまっとうなライバルというもの」
そんなライバルはこっちから願い下げですよ。
「現実とは得てしてそういうものですよ? まぁ、ともかく、あの二人が敵だということをお忘れなく」
「お忘れなくと言われてもですね、いったい何がどういう敵だと、橘さんは言ってるんですか?」
「あれ? 話してませんでしたっけ?」
「聞いてませんよ」
確か聞いてない……と思うんですけど、どうだったかしら? 橘さんの話はいつも右から左だったもので、それらしいことを言ってても聞き流しているような気がします。
「仕方ないですね、ではお話しましょう」
そんなもったい振るような態度をするなら、無理に聞かせてもらわなくても。料理の準備で忙しいんですから、わたし。
「えっと、話を聞いてください」
そんな泣きそうな顔しなくても。
「あー、はいはい。ちゃんと聞いてますよ。ささ、どうぞどうぞ」
「今から四年前、この世界は佐々木さんが作り出したのです」
「……へぇ、そうなんですか」
「まぁ、理解が早いですね」
や、理解も何も橘さんの話が本当のことだと端から信じてないわけでして。
「それで、ですね。あたしは佐々木さんから何かしらの力を授かったのです。まぁ、すばらしい。その力を観測するために、宇宙からは周防さんが現れ、その力が時空間に変異を及ぼすことを知った藤原さんが未来からやってきたのです」
「じゃあ、あの二人は宇宙人と未来人ですか。すごいですねー」
えっと、魚をさばくときって、背中から捌くのが海魚で、腹から捌くのが川魚だったかしら? 何かそういうやり方があったと思うんだけど、うーん、しっかりお母さんから教えてもらっておけばよかったなぁ。
「あの、聞いてます?」
「え? ああ、はいはい。それで橘さんは、どんな力があるんですか~?」
「あたしには超能力があるのですよ。はい、ここ驚くところー」
「わぁ、すごいなー」
はぁ、疲れますねこれ。
「もうすぐ料理できますから、待っててくださいねー」
「いえあの、料理の話ではなくてですね……」
んもー。まだ引っ張りますか、あなたは。
「じゃあ、どんな超能力なんですか? はい、これでいいですか?」
「物凄い適当ですねー。んーとですね、佐々木さんが作り出す閉鎖空間と呼ばれる異空間に入ることができます」
「なんですかそれは?」
「何と聞かれましても……」
いやいや、あなたが言ったことじゃないですか。自分の発言には責任を持ちましょうよ。
「えーっと、佐々木さんの内面世界? みたいなものですね」
「じゃあ橘さんには佐々木さんの考えが、まるっとお見通しなんですか?」
「や、そういうわけでもないんですが……」
自分で言っておいて、こっちからのツッコミにはことごとく口籠もるとはどういう了見ですか。
「あのそれ、どう考えても超能力ではなさそうなんですが」
「あ、言っちゃった。言っちゃいましたね? あたしを全否定ですか。吉村さんのひとでなしー」
この人は……。もしかして、料理をしているわたしの邪魔がしたいだけなんじゃないでしょうかね? 今の状況だと、朝倉さんや喜緑さんより、あなたが敵に見えて仕方ないですよ。
「だいたい、超能力が使えるのなら、それらしいことをしてみてください。はい、どうぞ」
仕方ないので、宿の備品のスプーンを橘さんに渡しておきました。これで少しは静かにしていてくれると大助かりです。
「なんか吉村さん、お母さんが小さい子供をあしらうような真似してますね」
「わたしより年上の子供なんていりません。それを曲げることができたら話を聞いてあげますから、大人しく良い子で待っててくださいね」
「むぅ」
はぁ、やれやれ。橘さんの戯れ言に付き合ってたせいで、調理時間が余計に掛かっています。まぁ、あとは塩をまぶして火に掛けるだけですけど。
「あのですね、吉村さん」
「あ、そろそろですから、もう皆さんのところに戻っててください。すぐ行きますから」
「いや、ですから」
「はいはい、あとでちゃんと遊んであげますからね」
「んん……っ! もうっ!」
スプーンをぽいっと流し台の中において、橘さんったらぷりぷり怒って行っちゃいました。手伝いに来たんじゃなかったんですか、あなたは?
あらかじめ言っておきますが、スプーンが曲がっているようなことはありませんでした。やっぱり超能力なんて使えないじゃないですか。ねぇ?
「……あれ?」
橘さんが増やした洗い物を片付けているときに気付いたんですが……このぐんにゃり曲がってるフライ返しはなん何なんでしょう?
つづく
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[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
すみません、うちはコロコロ派だったもんで(;´Д`)....
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
ミヨキチさんは、きょこたん団のお母さんを目指します!
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
きょこたんは、その程度では負けませんとも!
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
いやいやいや、何もきょこたんが曲げたとは一言も……( ̄ー ̄)
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