category: 日記
DATE : 2008/11/03 (Mon)
DATE : 2008/11/03 (Mon)
何もない一日でした。日曜なんてそんなもの。
…………?
よくよく考えれば、平日もそんな感じだったような気がします。困ったもんですわー。
でー。
ひとまずSS。前回の続きでございまする。
章分けを考えると、この辺りが一章目ってとこかなぁと思います。で、この後は~って言うのは興醒めか。
あーもーなんかいろいろ面倒臭くなってきたぞっと。ここから先は、いわゆるモチベーション次第ってヤツでさぁ。
これが仕事ならモチベ云々言ってらんないのでガツガツ書いていくんでしょうけど。なんというか仕事と趣味ではスイッチが違うっぽいです。
まぁ手応え次第でぼちぼちやってきます。
ではまた。
…………?
よくよく考えれば、平日もそんな感じだったような気がします。困ったもんですわー。
でー。
ひとまずSS。前回の続きでございまする。
章分けを考えると、この辺りが一章目ってとこかなぁと思います。で、この後は~って言うのは興醒めか。
あーもーなんかいろいろ面倒臭くなってきたぞっと。ここから先は、いわゆるモチベーション次第ってヤツでさぁ。
これが仕事ならモチベ云々言ってらんないのでガツガツ書いていくんでしょうけど。なんというか仕事と趣味ではスイッチが違うっぽいです。
まぁ手応え次第でぼちぼちやってきます。
ではまた。
前回はこちら
吉村美代子の奔走:5
九曜の様子がおかしいのは今に始まったことじゃないが、俺の前に唐突に現れたこいつは、それでも普段に比べて格段に様子がおかしかった。
どこがおかしいって、すべてがおかしい。その体はバランスが上手く取れていないのかフラフラとしており、視線も焦点が定まっていないようにどこかしら虚ろに感じる。硬質鋼よりも無機質な有機体と見ていた俺にとって、九曜のこの変化は劇的な──それでいて訝しげに思える方向への──変化とも言える。
何があったんだと、俺でなくともそう思うだろう……が、けれど思うのはそこまでだ。親身になって心配する謂われもないし、俺がそこまで気に掛ける理由もない。何より今は朝倉らしい人影を追って駆け出したミヨキチを一人にさせるわけにもいかず、すぐにでも後を追い掛けなければならない。
何を思って九曜が現れたのか知らないが、かまけている場合じゃない。どんな様子であろうと、何もこちらから声を掛ける理由も必要性もなく、警戒しつつその横を素通りするつもりだった。
「──────待って────」
「ぉわっ!?」
今さら九曜に話しかけられて、悲鳴みたいな声を俺が出すわけもない。
そうではなくて、すれ違い様に俺の手首をがっちり鷲づかみにして引き留められたから驚いたのであり、それにも増して掴まれた瞬間に静電気でも走ったのか、ビリッと来たから驚いたまでだ。
「おいこら、今何しやがった!? こっちは急いでんだよ!」
こいつが現れたことから少なからず俺に用があるとは思っていたが、案の定というか狙い通りというか、まさにその通りになった。だからこそ、俺もすぐに返す言葉が出てくるってもんだ。
すぐに払いのけるつもりだったんだ──が。
「──────あなたに────たす────……おね────がい──────」
それがすべてか、それとも言葉途中だったのか、そこまで口にした九曜はふらふらさせていた体をさらによろめかせ、ネジの切れたゼンマイ人形のように倒れて来やがった。
「おっ、おい!?」
不本意ながらもこうなれば抱き留めるしかない。倒れ込んで来た九曜はそのままピクリとも動かず、それこそ電池が切れたとしか表現のしようがない有り様だ。
何なんだこれ? どうすんだよ。全身から力でも抜けているのか、その質量をまんま俺の腕に預けてこないでもらいたい。かといって周囲の目もある手前、放り投げるわけにもいかず、とてもじゃないがミヨキチを追い掛けられる状況でもない。
「おい、九曜。おい、どうしたんだ!?」
呼びかけてもまるで反応を示さない。気絶してるとか眠ってるとか言うよりも、凍結されたような……突拍子もない言い方をすれば、こいつだけ時間の流れから切り離されたような状態だ。
どうなってんだ。どうすりゃいいんだ、これは?
「あらまぁ、こんなところでそんなものを抱えて何をなさってるんですか?」
俺が途方に暮れていると、背後から投げかけられるのは鈴を転がすような声。振り向けば、深緑の中に薫る百合のような香りを漂わせて、喜緑さんが笑顔を浮かべてそこにいた。
「なんでここに?」
「あら嫌ですね、わたしに何か話があるとおっしゃってたのはそちらじゃありませんか。お仕事を切り上げて参りましたのに、先ほどとはまた別の方を、それも公共の場で抱きかかえていらっしゃるなんて不純なことこの上ない方ですね」
何を言いたいんだろう、この人は。笑顔を浮かべちゃいるが、本心は笑顔から掛け離れたところにあるんじゃないだろうか。
そんなことをちらりと思ったが、それはどうでもいい話だ。むしろ、よくこのタイミングで来てくれたと喜ぶ気持ちが大きい。諸手を挙げて歓迎したい。
「こいつを何とかしてください。ぴくりとも動かないんですよ、これ」
「わたしが? 彼女を? どうしてですか?」
「どうしても何も……明らかにおかしいじゃないですか!」
九曜に対してプラスの印象なんぞありゃしないが、それでも目の前でこんな様子を晒されてりゃ捨てておけない。人道的に放っておくことなんてできるわけがない。
「別によろしいんじゃありません?」
放っておけと言うらしい。
「だって、そうじゃありません? これまで彼女にはいろいろ煮え湯を飲まされておりますので。勝手に自滅していただけるならそれはそれで……あら?」
薄情ながらも正論を並べ立てていた喜緑さんだが、ちらりと九曜に視線を止めたときに何を思ったんだろう。朗々と語っていた言葉を切り上げて、考古学者が掘り出したものが石なのか遺跡の欠片なのかを見定めるように、改めて九曜の姿を凝視している。
「これは……ずれてるのかしら? それとも……うう~ん」
九曜の姿に喜緑さんが何を見たのかわからない。もしかすると、この人たちと俺とでは見ているものが根本からして違うのかもしれないが、興味を持ってくれたのなら願ったりってヤツだ。
「これはちょっと面白い症状ですね。ここでどうこう出来る状態でもありませんし……むしろこれは、わたしよりも朝比奈さんの専門じゃございませんかしら?」
「朝比奈さんの?」
「ご相談なさるならわたしより適材かと」
朝比奈さんが適材? あの朝比奈さんが!?
こんな状況で、未だかつて朝比奈さんが頼りになったことなんて一度もないんだが……いやしかし、朝比奈さんでなければダメというのなら、これは時間絡みのことなのか?
「その可能性はなきにしろ……ということなんですよ。もし可能でしたら、朝比奈さんをお呼びいただけますかしら? その方が状況理解も早く済むかと思いますけど」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
いきなり呼び出せと言われても、さっき会って別れたばかりだ。連絡を取ることはすぐに出来るとは思うが、あんな無茶振りをした直後に駆けつけてくれるんだろうか。
試しにダイヤルしてみれば、幸いなことにすぐ繋がった。
『も、もも、もしもしもしっ!?』
携帯のスピーカーから聞こえてきた朝比奈さんの声は、ヤケに切羽詰まっていた。タイミングがいいのか悪いのかさっぱりわからん。
「あの、朝比奈さん。俺ですけど」
『は、はいっ! はい、えっとあの……ど、どうしたんですかぁ?』
「えっと……大丈夫ですか? 掛け直しましょうか?」
『待ってぇっ! キョンくん待ってぇっ! お願いこのまま……もう本当にあのその、どうすればいいんですかぁっ?』
朝比奈さんのこのテンパり具合から察するに、ハルヒに何やらされていたのかもしれない。そこに俺から電話が掛かってきたのを好機と逃げ出しているんだろうか。だとすればタイミングはよかったのかもしれない。
「あの、少し……ですね。朝比奈さんにお願いがありまして。ああ、その時間移動とかそういうことではない……とは思うんですが」
『……ふぇ? あ、あのぉ……何かあったんですか?』
俺のその一言が利いたのか、朝比奈さんの声に若干の落ち着きが戻る。
「それがその……少し困ったことになってまして。ええと今、隣に喜緑さんがいるんですが、その喜緑さんが朝比奈さんを呼べと言い出しまして。こっちに来られないですか?」
『あたし……ですか?』
「無理なら無理で、こっちに来られなくても……」
『いえそんなっ! そんなことないです! むしろすぐ行きますっ! お願いですからそっちに行かせてくださいぃ~っ!』
何やらすがりつく勢いで朝比奈さんの方から懇願してきた。いったいハルヒに何をされているのかと不安になってくる。
『どこですか? どこに行けばいいんですか? すぐに行きますぅ~っ!』
「あー……じゃあ、さっき会ったところから少し進んだ先にいますんで」
『わっ、わかりました。すぐ、すぐ行きますから待っててください!』
「あっ、それと……!」
まだ伝えておきたいことがあったんだが、それを言う前に通話が切られた。よほど早くハルヒから逃げ出したかったらしい。
朝比奈さんの身に何が起きていたのか想像するのも躊躇われるし、何よりそういうことになった経緯は俺にありそうなので何とも言えないが、逆を言えばこっちの無茶振りがあったからこそ朝比奈さんがすぐに来てくれることになったわけか。嬉しいやら切ないやら、なんともやりきれない気分だな。
「すぐに来てくれるそうですよ」
「それはよかった」
喜緑さんはニッコリ微笑んでそう言うが、この人は九曜の様子に何を感じ取ったんだろう。それを聞きたいんだが、尋ねたところで返ってきた言葉は物の見事に逸らされた。
「どちらにしろ、どこかに場所を移した方がよろしじゃありませんか。こんな往来のど真ん中で話していても仕方ありません。そうですね……朝比奈さんがいらっしゃったら、あなたのご自宅に参りましょう」
「うち……ですか」
「他にどこかございます?」
「えー……」
喜緑さんの家ではダメなんだろうか? どうやらダメそうだ。
九曜をうちに連れて行くのには多分に躊躇いが残るんだが……いや、それよりも。
「わかりました。じゃあうちに連れて行きましょう。それよりも喜緑さん」
「はい、なんでしょう?」
「ここで朝比奈さんが来るのを待っていてください。俺はちょっとミヨキチを捜して来ますんで」
「ミヨキチ……ああ、先ほどお店にいらっしゃってたお嬢さんですか。そういえば、機関誌に書かれていたお嬢さんのお名前もそうでしたね」
またその話か。さっき会ったハルヒもそんなことを言ってたな。
…………あれ?
「前に話しませんでしたっけ?」
「いいえ、記憶にございませんけれど」
そうだっけ? ミヨキチの話をした覚えがあるんだが……って、これじゃまるでミヨキチと同じだな。喜緑さんが「記憶にない」と言うのなら、事実そうなんだろう。この人や長門に思い違いということは、まずあり得なさそうだ。
「とにかく、すいません。朝比奈さんが来たらそのまま俺の家に向かってください」
「それはかまいませんけれど、この小娘は如何なさるつもりですか」
「連れてってください。家にはすぐ戻りますから」
「あら、ちょっと」
このときばかりは喜緑さんに呼び止められても立ち止まるわけにはいかない。九曜のことがどうこうよりも、俺にとって重要なのはミヨキチの方だ。一人にさせておくわけにもいかない。いかないんだが──。
方々捜し回ったけれど、ミヨキチを見つけ出すことはできなかった。
つづく
吉村美代子の奔走:5
九曜の様子がおかしいのは今に始まったことじゃないが、俺の前に唐突に現れたこいつは、それでも普段に比べて格段に様子がおかしかった。
どこがおかしいって、すべてがおかしい。その体はバランスが上手く取れていないのかフラフラとしており、視線も焦点が定まっていないようにどこかしら虚ろに感じる。硬質鋼よりも無機質な有機体と見ていた俺にとって、九曜のこの変化は劇的な──それでいて訝しげに思える方向への──変化とも言える。
何があったんだと、俺でなくともそう思うだろう……が、けれど思うのはそこまでだ。親身になって心配する謂われもないし、俺がそこまで気に掛ける理由もない。何より今は朝倉らしい人影を追って駆け出したミヨキチを一人にさせるわけにもいかず、すぐにでも後を追い掛けなければならない。
何を思って九曜が現れたのか知らないが、かまけている場合じゃない。どんな様子であろうと、何もこちらから声を掛ける理由も必要性もなく、警戒しつつその横を素通りするつもりだった。
「──────待って────」
「ぉわっ!?」
今さら九曜に話しかけられて、悲鳴みたいな声を俺が出すわけもない。
そうではなくて、すれ違い様に俺の手首をがっちり鷲づかみにして引き留められたから驚いたのであり、それにも増して掴まれた瞬間に静電気でも走ったのか、ビリッと来たから驚いたまでだ。
「おいこら、今何しやがった!? こっちは急いでんだよ!」
こいつが現れたことから少なからず俺に用があるとは思っていたが、案の定というか狙い通りというか、まさにその通りになった。だからこそ、俺もすぐに返す言葉が出てくるってもんだ。
すぐに払いのけるつもりだったんだ──が。
「──────あなたに────たす────……おね────がい──────」
それがすべてか、それとも言葉途中だったのか、そこまで口にした九曜はふらふらさせていた体をさらによろめかせ、ネジの切れたゼンマイ人形のように倒れて来やがった。
「おっ、おい!?」
不本意ながらもこうなれば抱き留めるしかない。倒れ込んで来た九曜はそのままピクリとも動かず、それこそ電池が切れたとしか表現のしようがない有り様だ。
何なんだこれ? どうすんだよ。全身から力でも抜けているのか、その質量をまんま俺の腕に預けてこないでもらいたい。かといって周囲の目もある手前、放り投げるわけにもいかず、とてもじゃないがミヨキチを追い掛けられる状況でもない。
「おい、九曜。おい、どうしたんだ!?」
呼びかけてもまるで反応を示さない。気絶してるとか眠ってるとか言うよりも、凍結されたような……突拍子もない言い方をすれば、こいつだけ時間の流れから切り離されたような状態だ。
どうなってんだ。どうすりゃいいんだ、これは?
「あらまぁ、こんなところでそんなものを抱えて何をなさってるんですか?」
俺が途方に暮れていると、背後から投げかけられるのは鈴を転がすような声。振り向けば、深緑の中に薫る百合のような香りを漂わせて、喜緑さんが笑顔を浮かべてそこにいた。
「なんでここに?」
「あら嫌ですね、わたしに何か話があるとおっしゃってたのはそちらじゃありませんか。お仕事を切り上げて参りましたのに、先ほどとはまた別の方を、それも公共の場で抱きかかえていらっしゃるなんて不純なことこの上ない方ですね」
何を言いたいんだろう、この人は。笑顔を浮かべちゃいるが、本心は笑顔から掛け離れたところにあるんじゃないだろうか。
そんなことをちらりと思ったが、それはどうでもいい話だ。むしろ、よくこのタイミングで来てくれたと喜ぶ気持ちが大きい。諸手を挙げて歓迎したい。
「こいつを何とかしてください。ぴくりとも動かないんですよ、これ」
「わたしが? 彼女を? どうしてですか?」
「どうしても何も……明らかにおかしいじゃないですか!」
九曜に対してプラスの印象なんぞありゃしないが、それでも目の前でこんな様子を晒されてりゃ捨てておけない。人道的に放っておくことなんてできるわけがない。
「別によろしいんじゃありません?」
放っておけと言うらしい。
「だって、そうじゃありません? これまで彼女にはいろいろ煮え湯を飲まされておりますので。勝手に自滅していただけるならそれはそれで……あら?」
薄情ながらも正論を並べ立てていた喜緑さんだが、ちらりと九曜に視線を止めたときに何を思ったんだろう。朗々と語っていた言葉を切り上げて、考古学者が掘り出したものが石なのか遺跡の欠片なのかを見定めるように、改めて九曜の姿を凝視している。
「これは……ずれてるのかしら? それとも……うう~ん」
九曜の姿に喜緑さんが何を見たのかわからない。もしかすると、この人たちと俺とでは見ているものが根本からして違うのかもしれないが、興味を持ってくれたのなら願ったりってヤツだ。
「これはちょっと面白い症状ですね。ここでどうこう出来る状態でもありませんし……むしろこれは、わたしよりも朝比奈さんの専門じゃございませんかしら?」
「朝比奈さんの?」
「ご相談なさるならわたしより適材かと」
朝比奈さんが適材? あの朝比奈さんが!?
こんな状況で、未だかつて朝比奈さんが頼りになったことなんて一度もないんだが……いやしかし、朝比奈さんでなければダメというのなら、これは時間絡みのことなのか?
「その可能性はなきにしろ……ということなんですよ。もし可能でしたら、朝比奈さんをお呼びいただけますかしら? その方が状況理解も早く済むかと思いますけど」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
いきなり呼び出せと言われても、さっき会って別れたばかりだ。連絡を取ることはすぐに出来るとは思うが、あんな無茶振りをした直後に駆けつけてくれるんだろうか。
試しにダイヤルしてみれば、幸いなことにすぐ繋がった。
『も、もも、もしもしもしっ!?』
携帯のスピーカーから聞こえてきた朝比奈さんの声は、ヤケに切羽詰まっていた。タイミングがいいのか悪いのかさっぱりわからん。
「あの、朝比奈さん。俺ですけど」
『は、はいっ! はい、えっとあの……ど、どうしたんですかぁ?』
「えっと……大丈夫ですか? 掛け直しましょうか?」
『待ってぇっ! キョンくん待ってぇっ! お願いこのまま……もう本当にあのその、どうすればいいんですかぁっ?』
朝比奈さんのこのテンパり具合から察するに、ハルヒに何やらされていたのかもしれない。そこに俺から電話が掛かってきたのを好機と逃げ出しているんだろうか。だとすればタイミングはよかったのかもしれない。
「あの、少し……ですね。朝比奈さんにお願いがありまして。ああ、その時間移動とかそういうことではない……とは思うんですが」
『……ふぇ? あ、あのぉ……何かあったんですか?』
俺のその一言が利いたのか、朝比奈さんの声に若干の落ち着きが戻る。
「それがその……少し困ったことになってまして。ええと今、隣に喜緑さんがいるんですが、その喜緑さんが朝比奈さんを呼べと言い出しまして。こっちに来られないですか?」
『あたし……ですか?』
「無理なら無理で、こっちに来られなくても……」
『いえそんなっ! そんなことないです! むしろすぐ行きますっ! お願いですからそっちに行かせてくださいぃ~っ!』
何やらすがりつく勢いで朝比奈さんの方から懇願してきた。いったいハルヒに何をされているのかと不安になってくる。
『どこですか? どこに行けばいいんですか? すぐに行きますぅ~っ!』
「あー……じゃあ、さっき会ったところから少し進んだ先にいますんで」
『わっ、わかりました。すぐ、すぐ行きますから待っててください!』
「あっ、それと……!」
まだ伝えておきたいことがあったんだが、それを言う前に通話が切られた。よほど早くハルヒから逃げ出したかったらしい。
朝比奈さんの身に何が起きていたのか想像するのも躊躇われるし、何よりそういうことになった経緯は俺にありそうなので何とも言えないが、逆を言えばこっちの無茶振りがあったからこそ朝比奈さんがすぐに来てくれることになったわけか。嬉しいやら切ないやら、なんともやりきれない気分だな。
「すぐに来てくれるそうですよ」
「それはよかった」
喜緑さんはニッコリ微笑んでそう言うが、この人は九曜の様子に何を感じ取ったんだろう。それを聞きたいんだが、尋ねたところで返ってきた言葉は物の見事に逸らされた。
「どちらにしろ、どこかに場所を移した方がよろしじゃありませんか。こんな往来のど真ん中で話していても仕方ありません。そうですね……朝比奈さんがいらっしゃったら、あなたのご自宅に参りましょう」
「うち……ですか」
「他にどこかございます?」
「えー……」
喜緑さんの家ではダメなんだろうか? どうやらダメそうだ。
九曜をうちに連れて行くのには多分に躊躇いが残るんだが……いや、それよりも。
「わかりました。じゃあうちに連れて行きましょう。それよりも喜緑さん」
「はい、なんでしょう?」
「ここで朝比奈さんが来るのを待っていてください。俺はちょっとミヨキチを捜して来ますんで」
「ミヨキチ……ああ、先ほどお店にいらっしゃってたお嬢さんですか。そういえば、機関誌に書かれていたお嬢さんのお名前もそうでしたね」
またその話か。さっき会ったハルヒもそんなことを言ってたな。
…………あれ?
「前に話しませんでしたっけ?」
「いいえ、記憶にございませんけれど」
そうだっけ? ミヨキチの話をした覚えがあるんだが……って、これじゃまるでミヨキチと同じだな。喜緑さんが「記憶にない」と言うのなら、事実そうなんだろう。この人や長門に思い違いということは、まずあり得なさそうだ。
「とにかく、すいません。朝比奈さんが来たらそのまま俺の家に向かってください」
「それはかまいませんけれど、この小娘は如何なさるつもりですか」
「連れてってください。家にはすぐ戻りますから」
「あら、ちょっと」
このときばかりは喜緑さんに呼び止められても立ち止まるわけにはいかない。九曜のことがどうこうよりも、俺にとって重要なのはミヨキチの方だ。一人にさせておくわけにもいかない。いかないんだが──。
方々捜し回ったけれど、ミヨキチを見つけ出すことはできなかった。
つづく
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★五里霧中
NAME: N・N
これ、前2つの長編とは完全に時間軸が違うんですね。寧ろ原作[分裂]や[エンドレスエイト]みたいな感じ。
今度の九曜は一体どの様な役割を持つのか、今後の展開が楽しみです。
今度の九曜は一体どの様な役割を持つのか、今後の展開が楽しみです。
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:五里霧中
時間軸は前2作からがっつり繋がってるお話なのですよ。むしろ前2作がなければ成り立たない話になっております。原作のエンドレスエイトのようにループしてるわけでも、分裂のように話が2系列に分かれているわけでもなく、一本道の話でございまする。
その辺りのタネ明かしはもうしばしお待ちを!
その辺りのタネ明かしはもうしばしお待ちを!
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