category: 日記
DATE : 2008/07/28 (Mon)
DATE : 2008/07/28 (Mon)
27時間テレビ見てました。かっちりかじり付いて最初から最後までってわけじゃなく、18:30ぐらいのサザエさんからですが。
なんていうか懐かしいお笑いだなぁと思いまして。昭和のころにゴールデンでやってたお笑い番組のノリを、このご時世に公共の電波に乗せてやるところが凄い。たぶん、クレームの電話とかがバシバシ入ってるんだとは思いますが、それも承知での演出なんでしょうね。
今のご時世、ああいう「笑い」は賛否両論かと思いますが、年に一度くらいならいいんじゃない? と思う自分は、昭和生まれの人間だからでしょーか。
ではまた。
なんていうか懐かしいお笑いだなぁと思いまして。昭和のころにゴールデンでやってたお笑い番組のノリを、このご時世に公共の電波に乗せてやるところが凄い。たぶん、クレームの電話とかがバシバシ入ってるんだとは思いますが、それも承知での演出なんでしょうね。
今のご時世、ああいう「笑い」は賛否両論かと思いますが、年に一度くらいならいいんじゃない? と思う自分は、昭和生まれの人間だからでしょーか。
ではまた。
前回はこちら
喜緑江美里の策略:17
「では少し、状況の整理と今後の予定を詰めていきましょう」
木目調のフローリングがなされた床の上に俺と朝倉をそろって正座させながら、喜緑さんはキッチンテーブルの椅子にどこぞの女帝のような優美さで腰を下ろし、そんなことを口にした。
「まず、朝倉さん。わたしはあなたと同じ存在だということを告げておきましょう。ただし、わたしは情報統合思念体という広域拡散意識に属しておりますが、今のあなたは我々が便宜上に『天蓋領域』と名付けた、別種の情報生命体に記憶情報の管理を委ねております」
「……そうなんだ」
他人事とはいえ、聞いてる分にはなかなか衝撃的な告白だと思うんだが、朝倉は思ったよりも淡々と受け入れている。
「記憶のないあなたに今までのことを簡単に説明いたしますと、あなたは本来こちら側のインターフェースでした。けれど独断専行の果てに、一度は有機体の情報連結を解除されて消えております。今、わたしとそこの彼が行動を起こしているのは、あなたの記憶を正しい形に組み直すためです」
そこまで話して余計な記憶を与えていいもんなのかと思ったが、喜緑さんが話していることだから問題ないんだろうな。
「え? それって、」
「わたしの言葉に何かあれば『イエス・マム』と答えなさい」
……ここはどこぞの軍隊か? そんな言葉で朝倉の発言を一刀両断で遮って、喜緑さんは話を一方的に続ける。
「朝倉さんのパーソナルデータは三つに分割管理されていました。ひとつは情報統合思念体に属する数多のインターフェースが共通管理していたもの。もうひとつは情報統合思念体が管理していたもの。これらふたつはすでにあなたの中にあります。残るひとつは、かつてあなたがバックアップとしてサポートしていたインターフェース、長門有希が管理しております」
「長門……さん? だれって痛っ!?」
朝倉が俺に話しかけて来た瞬間、喜緑さんが指先で弄んでいた丸めたパン屑を朝倉のおでこ目がけてはじき飛ばした。パン屑でダメージを受けるって、どんだけの勢いで撃ち出してんだ?
「今はわたしが話をしているんです。余計な口は慎みなさい」
正直、怖いです。
「その長門さんから朝倉さんの最後のパーソナルデータを譲り受けなければ、朝倉さん、あなたは少々困ったことになります。簡単に言えば、自壊します」
自壊? 自壊するって、どういうことだ? 前までの話では、分割されていたパーソナルデータがひとつに結合できなくなるって、そういうことだけじゃないのか?
「それってどう……痛っ!」
問い詰めようとした矢先に、喜緑さんのパン屑攻撃を額に食らった。さっき攻撃を受けた朝倉も痛がっていたが、オーバーリアクションではないことを身を以て理解した。マジで痛い。
「今はわたしが話をしているんだと……同じことを二度も言わせないでくださいね」
人の笑顔がここまで他者に恐怖心やら精神的傷やらを植え付けるもんなのかと思える笑みを浮かべて、喜緑さんがそんなことを言う。
「小難しい話をしてもよろしいのですが、その仕組みを理解したところで結果が変わるわけではありません。ともかく明日の一六時三〇分ごろまでに、長門さんから朝倉さんの最後のパーソナルデータを手に入れなければゲームオーバーだ、と言うことで理解していればよろしいんです。その先兵として周防九曜を泳がせていますが、あちらもあちらで手をこまねいているようですね」
そういえば、あいつは何をやってるんだ? 朝倉をここに残して姿を消してから一日以上が経過している。それまでまったく音沙汰がないのは、不気味と言えば不気味だ。
「周防九曜は今、仲間内でのごたごたで思うように行動できていないようです。具体的に言うと、橘京子の一派が周防九曜の行動に干渉しようとしています。それを煙に巻きながら長門さんから朝倉さんのパーソナルデータを奪う、というのは、いかに彼女でも骨の折れることのようですね」
そう言えば、時間遡航してくる前の土曜日に、料亭に現れてちょっかいを出してきた橘自身もそんなことを言ってたな。あいつは九曜と朝倉が一緒にいるところを見ているらしい。それは水曜より前の話だから……九曜が今ここにいる朝倉を作り出したころの話なのかもしれん。
「何であれ、こちらにとって有り難い話なのは間違いありません。何しろあなたの話では、明日の土曜日、上手い具合にすべてのコマが出そろうようですし。残念なのは、実際に来たるべき土曜日を体験しているあなたも、周防九曜を見ていないことでしょうか。故に彼女がどのように動くのか不明です」
ある種、一番のジョーカーは九曜ってことか。
どうやら喜緑さんは、今のところあいつを上手くコントロールしているようだが、どこでどうなるのかわかったもんじゃ……待てよ? 土曜日といえば、九曜云々よりも別の騒動があったじゃないか。
俺は朝倉に襲われてたんだよな。それが、今ここにいる朝倉の仕業ってことでいいんだろうか?
「そうです、それが餌です」
「餌?」
「長門さんを呼び寄せるための、です」
喜緑さんの話では、つまりこういうことらしい。
現状では、長門は自分が管理している朝倉のパーソナルデータを素直に渡すことはないらしい。直接会わせて「寄越せ」と言ってみたくても、長門は朝倉に会おうとしないし、会ったとしても十中八九拒否されると喜緑さんは睨んでいる。その理由は……どうも一言では言い表すことができない、込み入った事情があるようだ。
だから逆に、長門が出てこなければならない状況を作ってしまえというわけだ。つまり、今はまだ長門が存在すらもはっきり把握していない朝倉を突然現れたように見せて、あまつさえ俺を殺そうとしている、という状況だ。そうなれば長門も朝倉に会う会わない以前に出向かざるを得ないことになるし、朝倉と嫌でも対面することになる。
「つまり、土曜日のことは……?」
「すべて予定調和のオママゴト、ということですね」
がっくり力が抜けた。結局、朝倉が俺を殺そうとすることには必ず理由があるってことなのか。いやでも、あのときはかなり本気で殺されるかと思ったぞ。
「それはそうですよ。手を抜いては長門さんが出て来る前にバレてしまうじゃありませんか。何しろ側には『機関』の森園生がいらっしゃるのでしょう? なので朝倉さん、明日のあなたは手加減抜きで、彼を怨敵と思って完膚無きまでに叩き潰す勢いで殺しにかかってください」
気のせいだろうか、喜緑さんの言葉の端々に本音が見え隠れしているような気がする。
「イエス・マム」
かくいう朝倉も即答するな。って、喜緑さんの冗談を真に受けてそんな返事をするな。だいたい、少しは躊躇ったり言い淀んだりしてくれ。
「これが今、朝倉さんを取り囲む現状と、今後の大雑把な予定ということになるでしょうか。細かいことは、臨機応変に行くしかありません。はい、何か質問はございますか?」
ここでようやく、喜緑さんから発言の許可を与えられた。今までの喜緑さんの話の中で、いくつか気になるところがあるものの、それは俺が知っていても仕方がない話だろう。時間までにパーソナルデータがそろわないと自壊する、とかな。具体的にどうなるのか知っておきたいところだが、知ったところで俺にできることが増えるわけでもないし、何より余計な情報が増えて混乱するだけかもしれない。
それよりも、もっと直接的に俺に関わることを聞いておくべきか。
「明日、俺は何をしてればいいんですか?」
「強いて言えば長門さんの説得役、と言ったところでしょうか。ただ、悠長に長門さんを説得している時間などあるかどうかも怪しいところです。基本的には強引に長門さんから朝倉さんのパーソナルデータを奪う方向で行動しますので、実際には何もやることがないままで終わるかもしれませんね」
「強引に……って、長門に何をするつもりですか」
「さて……穏便に事が済むことを祈っててくださいな」
不安をにじませた俺の問いかけに、喜緑さんは口元に薄い笑みを浮かべてうそぶいた。
「わたしからも質問あるんだけど」
今度は朝倉が片手を挙げて口を開いた。記憶のないこいつが質問とは、いったい何に疑問を抱いたと言うんだ?
「根本なところであれだけど、どうしてわたしはここにいるの?」
あまりにも基本的な質問なだけに、俺はもちろん喜緑さんもつい、面食らったような表情を見せて言葉を詰まらせた。
「あんたたちがわたしのパーソナルデータを復元しようとしてくれているのはわかったけど、そもそもどうしてこんなことになってるの?」
こんなことに……って言われてもな。
そもそもの切っ掛けは、九曜が朝倉のインターフェースを勝手に作り出したことが原因だ。あいつがこんなことをしていなければ、朝倉のパーソナルデータを集める必要はなかった。そんな朝倉のパーソナルデータ集めだって、喜緑さんがそんなことを言い出したからできると知ったのであって……極論で言えば、すべて偶然の上に成り立っている。そこに理由や原因を求められても「なんとなく」って言う曖昧かつ適当な言葉しか出てこない。
「なら言い方を変えるけど……リスクはないの?」
「リスク?」
「だってわたし、一度は消されているんでしょう? そんなわたしを復活させるって、かなり無茶なことじゃない。よくわからないけど、死んだ人を生き返らせるのと同じことなのかしら? そこにリスクはないの?」
言われてギクリとした。そういう言い方をされると、そうなのかと思わなくもない。
俺たちがやろうとしていることは、死んだ人を生き返らせるようなものなのか?
確かに朝倉が言うように、今の俺や喜緑さんは「朝倉のパーソナルデータを集めて復活させる」という目先のことだけに気を取られているが、復活させることでのリスクなんて微塵も考えちゃいなかった。いや、そもそもリスクがある、って自覚すらない。何しろ俺には、自分がやってることに対する危機感や負い目も何もないんだ。
あるのか、リスクが。どうなんだ?
「ありません」
けれど喜緑さんは、そんな俺の不安を他所に、考える素振りすら感じさせずに否定した。
「朝倉さん、あなたは人の倫理観に則ったような考え方をしているようですが、そもそもわたしたちは人ではありません。生きる死ぬ以前の問題として考えるべきです。壊れた家電製品を『死ぬ』とは言いませんでしょう? その壊れた家電の故障箇所を交換して直しても『生き返らせる』とは表さないものです。そして、直したところでリスクはありません。そういうものです」
「んー……そういうものなのかしら?」
「かしら? って言われても、」
喜緑さんや朝倉を家電とイコールで結びつけるには抵抗がある。あるが、その喩えは喜緑さんが出したものだから、この際は口出ししないでおこう。
どっちにしろ、俺には朝倉の問いかけに答えられる材料が何もない。喜緑さんがそう言うのなら、そうなのだとしか答えられないじゃないか。
「もし仮に」
俺が口籠もれば、喜緑さんが代わりとばかりに口を出してくる。
「何かしらのリスクがあったとして、ではどうします? 立ち止まったところで待つのは朝倉さんの自壊じゃありませんか。逆に、突っ走ったことでリスクがあるのかどうかは……どうなのでしょう。あるかもしれないし、ないかもしれません。とすれば、あるかないかもわからないリスクを懸念して立ち止まるより、起こることが確実とされるリスクを回避するため行動すべきです」
「確かにその通りかもしれないけど」
いちおうは理解の態度を示す朝倉だが、それでもどこか、醸し出す雰囲気には100%の理解は示していなかった。
「何がそんなに気になるんだ?」
「別に気にしてるわけじゃないけど。ただ、」
「朝倉さん」
俺に顔を向けていた朝倉が、喜緑さんに呼ばれて「はい?」と振り返った瞬間、その額にBB弾くらいの大きさに丸めたパン屑がクリティカルにヒットした。
「わたしたちが、どこの誰のために、こんな面倒な、ことをしていると、思ってるんですか! 策を組み上げているのが、わたしなのに、それに文句があるとは、いい度胸です!」
「痛い痛いやめてやめてっ!」
読点のたびに撃ち出す喜緑さんのパン屑弾を受けて、朝倉は頭を抱えて逃げ回っている。食い物をオモチャにするなと言いたいが、巻き添えを食うのはゴメンだな。
つづく
喜緑江美里の策略:17
「では少し、状況の整理と今後の予定を詰めていきましょう」
木目調のフローリングがなされた床の上に俺と朝倉をそろって正座させながら、喜緑さんはキッチンテーブルの椅子にどこぞの女帝のような優美さで腰を下ろし、そんなことを口にした。
「まず、朝倉さん。わたしはあなたと同じ存在だということを告げておきましょう。ただし、わたしは情報統合思念体という広域拡散意識に属しておりますが、今のあなたは我々が便宜上に『天蓋領域』と名付けた、別種の情報生命体に記憶情報の管理を委ねております」
「……そうなんだ」
他人事とはいえ、聞いてる分にはなかなか衝撃的な告白だと思うんだが、朝倉は思ったよりも淡々と受け入れている。
「記憶のないあなたに今までのことを簡単に説明いたしますと、あなたは本来こちら側のインターフェースでした。けれど独断専行の果てに、一度は有機体の情報連結を解除されて消えております。今、わたしとそこの彼が行動を起こしているのは、あなたの記憶を正しい形に組み直すためです」
そこまで話して余計な記憶を与えていいもんなのかと思ったが、喜緑さんが話していることだから問題ないんだろうな。
「え? それって、」
「わたしの言葉に何かあれば『イエス・マム』と答えなさい」
……ここはどこぞの軍隊か? そんな言葉で朝倉の発言を一刀両断で遮って、喜緑さんは話を一方的に続ける。
「朝倉さんのパーソナルデータは三つに分割管理されていました。ひとつは情報統合思念体に属する数多のインターフェースが共通管理していたもの。もうひとつは情報統合思念体が管理していたもの。これらふたつはすでにあなたの中にあります。残るひとつは、かつてあなたがバックアップとしてサポートしていたインターフェース、長門有希が管理しております」
「長門……さん? だれって痛っ!?」
朝倉が俺に話しかけて来た瞬間、喜緑さんが指先で弄んでいた丸めたパン屑を朝倉のおでこ目がけてはじき飛ばした。パン屑でダメージを受けるって、どんだけの勢いで撃ち出してんだ?
「今はわたしが話をしているんです。余計な口は慎みなさい」
正直、怖いです。
「その長門さんから朝倉さんの最後のパーソナルデータを譲り受けなければ、朝倉さん、あなたは少々困ったことになります。簡単に言えば、自壊します」
自壊? 自壊するって、どういうことだ? 前までの話では、分割されていたパーソナルデータがひとつに結合できなくなるって、そういうことだけじゃないのか?
「それってどう……痛っ!」
問い詰めようとした矢先に、喜緑さんのパン屑攻撃を額に食らった。さっき攻撃を受けた朝倉も痛がっていたが、オーバーリアクションではないことを身を以て理解した。マジで痛い。
「今はわたしが話をしているんだと……同じことを二度も言わせないでくださいね」
人の笑顔がここまで他者に恐怖心やら精神的傷やらを植え付けるもんなのかと思える笑みを浮かべて、喜緑さんがそんなことを言う。
「小難しい話をしてもよろしいのですが、その仕組みを理解したところで結果が変わるわけではありません。ともかく明日の一六時三〇分ごろまでに、長門さんから朝倉さんの最後のパーソナルデータを手に入れなければゲームオーバーだ、と言うことで理解していればよろしいんです。その先兵として周防九曜を泳がせていますが、あちらもあちらで手をこまねいているようですね」
そういえば、あいつは何をやってるんだ? 朝倉をここに残して姿を消してから一日以上が経過している。それまでまったく音沙汰がないのは、不気味と言えば不気味だ。
「周防九曜は今、仲間内でのごたごたで思うように行動できていないようです。具体的に言うと、橘京子の一派が周防九曜の行動に干渉しようとしています。それを煙に巻きながら長門さんから朝倉さんのパーソナルデータを奪う、というのは、いかに彼女でも骨の折れることのようですね」
そう言えば、時間遡航してくる前の土曜日に、料亭に現れてちょっかいを出してきた橘自身もそんなことを言ってたな。あいつは九曜と朝倉が一緒にいるところを見ているらしい。それは水曜より前の話だから……九曜が今ここにいる朝倉を作り出したころの話なのかもしれん。
「何であれ、こちらにとって有り難い話なのは間違いありません。何しろあなたの話では、明日の土曜日、上手い具合にすべてのコマが出そろうようですし。残念なのは、実際に来たるべき土曜日を体験しているあなたも、周防九曜を見ていないことでしょうか。故に彼女がどのように動くのか不明です」
ある種、一番のジョーカーは九曜ってことか。
どうやら喜緑さんは、今のところあいつを上手くコントロールしているようだが、どこでどうなるのかわかったもんじゃ……待てよ? 土曜日といえば、九曜云々よりも別の騒動があったじゃないか。
俺は朝倉に襲われてたんだよな。それが、今ここにいる朝倉の仕業ってことでいいんだろうか?
「そうです、それが餌です」
「餌?」
「長門さんを呼び寄せるための、です」
喜緑さんの話では、つまりこういうことらしい。
現状では、長門は自分が管理している朝倉のパーソナルデータを素直に渡すことはないらしい。直接会わせて「寄越せ」と言ってみたくても、長門は朝倉に会おうとしないし、会ったとしても十中八九拒否されると喜緑さんは睨んでいる。その理由は……どうも一言では言い表すことができない、込み入った事情があるようだ。
だから逆に、長門が出てこなければならない状況を作ってしまえというわけだ。つまり、今はまだ長門が存在すらもはっきり把握していない朝倉を突然現れたように見せて、あまつさえ俺を殺そうとしている、という状況だ。そうなれば長門も朝倉に会う会わない以前に出向かざるを得ないことになるし、朝倉と嫌でも対面することになる。
「つまり、土曜日のことは……?」
「すべて予定調和のオママゴト、ということですね」
がっくり力が抜けた。結局、朝倉が俺を殺そうとすることには必ず理由があるってことなのか。いやでも、あのときはかなり本気で殺されるかと思ったぞ。
「それはそうですよ。手を抜いては長門さんが出て来る前にバレてしまうじゃありませんか。何しろ側には『機関』の森園生がいらっしゃるのでしょう? なので朝倉さん、明日のあなたは手加減抜きで、彼を怨敵と思って完膚無きまでに叩き潰す勢いで殺しにかかってください」
気のせいだろうか、喜緑さんの言葉の端々に本音が見え隠れしているような気がする。
「イエス・マム」
かくいう朝倉も即答するな。って、喜緑さんの冗談を真に受けてそんな返事をするな。だいたい、少しは躊躇ったり言い淀んだりしてくれ。
「これが今、朝倉さんを取り囲む現状と、今後の大雑把な予定ということになるでしょうか。細かいことは、臨機応変に行くしかありません。はい、何か質問はございますか?」
ここでようやく、喜緑さんから発言の許可を与えられた。今までの喜緑さんの話の中で、いくつか気になるところがあるものの、それは俺が知っていても仕方がない話だろう。時間までにパーソナルデータがそろわないと自壊する、とかな。具体的にどうなるのか知っておきたいところだが、知ったところで俺にできることが増えるわけでもないし、何より余計な情報が増えて混乱するだけかもしれない。
それよりも、もっと直接的に俺に関わることを聞いておくべきか。
「明日、俺は何をしてればいいんですか?」
「強いて言えば長門さんの説得役、と言ったところでしょうか。ただ、悠長に長門さんを説得している時間などあるかどうかも怪しいところです。基本的には強引に長門さんから朝倉さんのパーソナルデータを奪う方向で行動しますので、実際には何もやることがないままで終わるかもしれませんね」
「強引に……って、長門に何をするつもりですか」
「さて……穏便に事が済むことを祈っててくださいな」
不安をにじませた俺の問いかけに、喜緑さんは口元に薄い笑みを浮かべてうそぶいた。
「わたしからも質問あるんだけど」
今度は朝倉が片手を挙げて口を開いた。記憶のないこいつが質問とは、いったい何に疑問を抱いたと言うんだ?
「根本なところであれだけど、どうしてわたしはここにいるの?」
あまりにも基本的な質問なだけに、俺はもちろん喜緑さんもつい、面食らったような表情を見せて言葉を詰まらせた。
「あんたたちがわたしのパーソナルデータを復元しようとしてくれているのはわかったけど、そもそもどうしてこんなことになってるの?」
こんなことに……って言われてもな。
そもそもの切っ掛けは、九曜が朝倉のインターフェースを勝手に作り出したことが原因だ。あいつがこんなことをしていなければ、朝倉のパーソナルデータを集める必要はなかった。そんな朝倉のパーソナルデータ集めだって、喜緑さんがそんなことを言い出したからできると知ったのであって……極論で言えば、すべて偶然の上に成り立っている。そこに理由や原因を求められても「なんとなく」って言う曖昧かつ適当な言葉しか出てこない。
「なら言い方を変えるけど……リスクはないの?」
「リスク?」
「だってわたし、一度は消されているんでしょう? そんなわたしを復活させるって、かなり無茶なことじゃない。よくわからないけど、死んだ人を生き返らせるのと同じことなのかしら? そこにリスクはないの?」
言われてギクリとした。そういう言い方をされると、そうなのかと思わなくもない。
俺たちがやろうとしていることは、死んだ人を生き返らせるようなものなのか?
確かに朝倉が言うように、今の俺や喜緑さんは「朝倉のパーソナルデータを集めて復活させる」という目先のことだけに気を取られているが、復活させることでのリスクなんて微塵も考えちゃいなかった。いや、そもそもリスクがある、って自覚すらない。何しろ俺には、自分がやってることに対する危機感や負い目も何もないんだ。
あるのか、リスクが。どうなんだ?
「ありません」
けれど喜緑さんは、そんな俺の不安を他所に、考える素振りすら感じさせずに否定した。
「朝倉さん、あなたは人の倫理観に則ったような考え方をしているようですが、そもそもわたしたちは人ではありません。生きる死ぬ以前の問題として考えるべきです。壊れた家電製品を『死ぬ』とは言いませんでしょう? その壊れた家電の故障箇所を交換して直しても『生き返らせる』とは表さないものです。そして、直したところでリスクはありません。そういうものです」
「んー……そういうものなのかしら?」
「かしら? って言われても、」
喜緑さんや朝倉を家電とイコールで結びつけるには抵抗がある。あるが、その喩えは喜緑さんが出したものだから、この際は口出ししないでおこう。
どっちにしろ、俺には朝倉の問いかけに答えられる材料が何もない。喜緑さんがそう言うのなら、そうなのだとしか答えられないじゃないか。
「もし仮に」
俺が口籠もれば、喜緑さんが代わりとばかりに口を出してくる。
「何かしらのリスクがあったとして、ではどうします? 立ち止まったところで待つのは朝倉さんの自壊じゃありませんか。逆に、突っ走ったことでリスクがあるのかどうかは……どうなのでしょう。あるかもしれないし、ないかもしれません。とすれば、あるかないかもわからないリスクを懸念して立ち止まるより、起こることが確実とされるリスクを回避するため行動すべきです」
「確かにその通りかもしれないけど」
いちおうは理解の態度を示す朝倉だが、それでもどこか、醸し出す雰囲気には100%の理解は示していなかった。
「何がそんなに気になるんだ?」
「別に気にしてるわけじゃないけど。ただ、」
「朝倉さん」
俺に顔を向けていた朝倉が、喜緑さんに呼ばれて「はい?」と振り返った瞬間、その額にBB弾くらいの大きさに丸めたパン屑がクリティカルにヒットした。
「わたしたちが、どこの誰のために、こんな面倒な、ことをしていると、思ってるんですか! 策を組み上げているのが、わたしなのに、それに文句があるとは、いい度胸です!」
「痛い痛いやめてやめてっ!」
読点のたびに撃ち出す喜緑さんのパン屑弾を受けて、朝倉は頭を抱えて逃げ回っている。食い物をオモチャにするなと言いたいが、巻き添えを食うのはゴメンだな。
つづく
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[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
丸めたパン屑の堅さもさることながら、撃ち出した速度もかなりのものがあったと思われます。よい子は真似して人に向けて撃ったりしちゃいけませんよ!
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
ここから事態はどのように動いていくんでしょうか(・∀・)
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
キョンくん=試し斬りという構図が遺伝子レベルで組み込まれていますね!
★無題
NAME: 筏津
たけしさんが車でやってたとこはハラハラしましたが楽しかったです、なんだか懐かしかったですね
パンをちぎって投げる喜緑さん、それから逃げる朝倉さん、仲の良い姉妹ですなぁ
とりあえず喜緑軍曹と呼ばせて頂きます
パンをちぎって投げる喜緑さん、それから逃げる朝倉さん、仲の良い姉妹ですなぁ
とりあえず喜緑軍曹と呼ばせて頂きます
[にのまえはじめ/にのまえあゆむ] Re:無題
軽く事故起こしてましたしね! でもああいうことは、昭和のお笑いではよくやってたことだったように記憶しております。車一台や二台をダメにするとは、やはり昭和はバブリーな時代だったんだぁと思う次第ですよ。
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