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DATE : 2008/09/07 (Sun)
久しぶりに三人称でお話を書いたような気がする。が! どうもしっくりこないわぁ。やっぱりある程度、定期的に書いておかないと鈍っちゃいますね。や、ここで言う鈍るってのはあれですよ、誰が読んでも「スバラシイ出来映え」ということでなく、稚作でも自分的に納得できるかできないかの話デス。

はてさてそれで。

今回はいろいろな意味も兼ねての「練習」ってことで。UPしなくてもいいんですが、ずーっと何もないってのも寂しいかなぁということで。今後も時々ごくたまにUPすることがあるかもしれません。今回限りかも?

ではまた。

【とある魔術の禁書目録】
ある日の豪雨と雷と

 9月になってもなお続く猛暑の中、文明の利器に守られて育ったもやしっ子にとって、連日の暑さは煉獄というものを安易に想像させる灼熱地獄と言っても過言ではない。
「っだー……、ちくしょー」
 上条当麻は遮るものが何もない青空を仰ぎ、容赦なく降り注ぐ太陽光をどうにかして消し去ることができないかと右手を伸ばす。が、異能の力であれば善悪強弱例外なく消し去る『幻想殺し』を持ってしても、天然自然にある太陽光の前では無力だった。
「はぁ~……ほんっとツイてねぇ。ツイてねぇって言うか、あり得ないだろフツーは」
 ふらふらと、墓場から這い出てきたばかりのアンデッドのような足取りで歩く上条の陰鬱さは、何も強い日差しのせいばかりではない。我が身に降りかかるあり得ない出来事に辟易していたからだ。
 どこの世界に、リモコンを使ってクーラーを起動させただけでぶっ壊すシスターがいるのかと。
 どこの世界に、毎月ちゃんと振り込まれていた奨学金が「事務上の手続き不備のため」などという本当かどうかもわからない理由で一月先に繰り越されるのかと。
 そして何より。
 財布の中身がカラッポなだけならいざ知らず、どうしてポケットに穴が空いていて財布そものを消失してしまうのかと。
 果たしてこれを『不幸』の一言で片付けていいものだろうか。
「いいんだよ、チクショーっ! あーもー、いいんだいいんだ、別にこれでいいんだ! これがいつもの俺じゃないか! はっはっは! このくらいでヘコむ上条さんじゃありません! いつもに比べりゃぜんっぜんたいしたことねぇっ!」
 人目もはばからず叫ぶ上条は、自分で言っといて何だが更なるダメージを自分に与えているようないないような、微妙なものだった。
 確かに、上条の身の回りで起きる出来事は『学園都市』という能力者の開発教育が『あたりまえ』になっている場所に身を置いてなお、特異なものであるのは間違いない。科学技術の最先端を行く都市において、魔術というオカルトの世界の事件に巻き込まれることに比べれば、クーラーが壊れたり財布をなくしたりする不幸など、ささやかなことだ。
 ささやかなことなのだが、それでも世間一般から見れば大小の違いこそあれ、『不幸』という点においては間違いなく不幸な上条当麻だった。
「あんた、往来のど真ん中でぶつぶつ呟いてて何やってんの? 傍目で見てるとコワイんだけど」
「あん?」
 それは自分に向けて言った言葉なのかと考えて振り返り、やはりそれは自分に向けられた言葉だと気付くのに、十秒ほどの時間を要した。
 人を指して『コワイ』と彼女は言う。
 総人口二三〇万人。学生の数だけで言えば一八〇万人。その一八〇万人の中で、何かしらの能力に目覚めているのは約六割。さらにその六割の人間の中でに七人しかいないレベル5の能力者の中で、第三位に位置する御坂美琴。
 生身で一〇億ボルトの電撃を扱うヤツに『コワイ』と言われる自分は、いったい何なのかと激しく鬱になる。なにより、熱波でやられた今の上条にとって、美琴との邂逅は憂鬱以外の何ものでもない。
「…………」
「ってちょっと、何あんた目尻に涙ためてぷるぷる震えてんの? つかなんで私から距離取ってんのよっておいこら待て逃げるな馬鹿!」
 脱兎のごとく逃げだそうとした上条を追い掛けるのは雷撃の槍。光の速度に勝てるわけもなく、迸る雷は上条に直撃こそしなかったものの、足下で爆ぜて動きを止めるに充分な威力を誇っていた。
「つーか……何なんだよ何なんですか何だってんだよああもう! 頼むからたまには俺を一人でゆっくり静かに平穏に誰の介入もなく穏やかで安らぎに満ちた一時を過ごさせてくださいお願いします! さすがの上条さんもいい加減疲れ果てて倒れる直前なんだから優しさを見せたらどうなんだよビリビリ中学生!」
「ビリビリ言うな! 何よあんた、マジでイカレちゃった? 出会い頭に優しさを見せろって言われてもさぁ、理由もなくあんたに優しくできる自信が私にあると思う?」
「ないのかよ!? だったらほっといてくれればいいだろ! つか、人を呼び止めて何の用だ? オマエの相手をしてるほど心に余裕がないんですけど!」
「用ってだから、あんたが気味悪くブツブツ呟きながら歩いててキモし、多少なりとも顔見知りのあたしまで同類に見られたくないから声かけたのよ」
「別に何でもねぇよ。とにかくもう暑くてやってらんないんだから、余計な面倒に巻き込まないでくれ」
 話はそれで終わりとばかりに言葉を投げ捨てるように言い放ち、避暑を求めて街中の徘徊を続けようと上条は考えた矢先に、襟首をがっちり掴まれて首が絞まった。
「こっ、殺す気か!」
「ホントあんた仕方ないわね。この美琴サマが特別サービスで優しさを見せてあげるからさ、だから、えーっと……そ、そこらの喫茶店で涼みながら話を聞いてあげるわ。うん。暇じゃないんだけど、奢ってくれるなら一時間くら付き合ってあげる」
「暇じゃないならいいですはいさようなぐえっ!」
 言葉途中でまたも首を絞められた。今度は割と本気で、頸動脈にシャツがぎっちり食い込んでいたような気がする。
「い・い・か・ら。この私が貴重な時間を割いてあんたに優しくしてあげようっつってんのよ? ね?」
 笑顔の中に凄惨さを交え、前髪辺りからスタンガンの放電を思わせる雷をバチンバチンと鳴り響かせ、マンガならこめかみ辺りにシャープ記号にも見た血管でも浮き上がらせている美琴を前に、それでも上条はここで流されちゃダメだと自分を奮い立たせて踏みとどまる。「喜んで奢らせていただきます!」とは、とても言えない。
 何故なら──。
「財布落として一文無しの俺が、どうやってオマエに奢ればいいんだ!? 頼むからそっとしといてくださいっつってんだよごめんなさい!」
「落とした? 財布を?」
 掴んでいた襟首を離し、たった今耳に入った言葉を反すうする美琴の眼差しは、まるで天然記念物のレッドデータブックに載っている生物を目の当たりにしたようでもある。
「あんたそんな、人並みの注意力があれば一生のうちに一度か二度くらいしか体験しないマヌケイベントに、この私と会ったタイミングで都合良く起きてるなんて言い訳が……って、あれ? どうしてそんなドン底まで落ち込んでんのよ。ちょっとこら、ぶつぶつ言いながら『の』の字を地面に書くな。ホントに財布なくしたの?」
「だああああああっ! だからそう言ってんだろ! 抉るなよ、繊細でナイーブなグラスハート上条さんのボロボロな心を! 鬼かおまえは!」
「あー……マジなんだ」
「くっ……」
 いかに相手が学園都市第三位の能力者であっても、年下の、それも女の子に、憐れみと同情が入り交じった眼差しを向けられて、本人曰くボロボロなグラスハートを持つ上条は修復不能なダメージを負わされた。神様の奇跡でさえ消し去る幻想殺しも、年下の少女が向ける無慈悲な眼差しは消してくれない。
「……なんか、今だけは本当に本気で私が悪いのかなーって思えなくもない、かな? あっははは……仕方ないからほら、お姉さんがジュースの一本でもご馳走するから元気出しなさいって。なくした財布のことは黒子にも連絡しとくから。あの子、風紀委員だし」
 美琴の今の申し出は珍しく上条自身も有り難いと思うところではあるのだが、一方で年下の女の子に無一文だからと奢ってもらうのは男のプライドとして許可できない、などとも思っている。
 思っているのだが、そうと決めた美琴は上条が断る台詞を口にするよりも先に、携帯を取り出して風紀委員の白井黒子に連絡を取りつつ、目に付いた近くの自販機で(珍しく)小銭を使ってジュースを購入していた。
「はい、これ。おすすめの『ヤシの実サイダー』でも飲んで元気出しなさいって。財布が見つかったら、すぐ連絡くれるって黒子も言ってたし。ついでにいくらか貸してあげようか?」
「いや、さすがにそこまでは」
 せっかくの申し出だが、そこまで甘えるのは甘えすぎだと思って上条は断った。
 財布が見つかる保障はなく、貸してくれるなら貸してほしいところだが、それならまだ寮の隣に住む土御門の方が頼みやすい。少なくとも、年下の美琴から金まで借りるのは抵抗がある。
 そして何より、『優しくしてやる』と宣言した美琴の行動が、その言葉に嘘偽りなく気遣う様を見せられて、上条は目から鱗を落としそうになるくらいに驚き、それでいて感心していた。
「にしても、まさか財布なくしてるなんてねー。こうも暑いんだから、どっかの茶店で奢ってもらおうと目論んでたのに。アテが外れたわ」
 前言撤回。感心した自分がバカだったと、心の内でセルフツッコミをする上条だった。
「──不幸だぁー……」
「ってコラ! 人の優しさを肌身で感じておいてその台詞か!」
 美琴が叫んだ瞬間、ドゴンっ! と大気が震えるほどの轟音と閃光が迸った。
「いや待てって! なんでそれだけで特大のビリビリなんだ? 沸点低すぎじゃないですか美琴サン!?」
「ちょっと、違うわよ。今のは私じゃなくて他所の音でしょ。あんた、もしかして私のことを、事ある事に電撃飛ばしてるヤツとか思ってんじゃないでしょーね!?」
「違うのかよ!? じゃあ今の音は何だってんだ?」
「私じゃないんだから、マジもんの雷で……え?」
 自分でそう言って、そこでようやく気付いたとばかりに美琴は空を仰ぎ見る。釣られて上条も空を見れば、先ほどまで太陽光を遮るものが何もないとばかり思っていた空に、真っ黒な雲がゴロゴロと獣が喉を鳴らすように広がっていた。
「あー、これは激しいのが来そうね」
「降ってきそうってのは一目瞭然だけどよ、降水量までわかんの?」
「見ればわかるってもんでしょ」
 と、得意げに美琴が言い放ったと同時に、大粒の雨がぽつりぽつりと落ちてきたかと思えば、その雨足は一気に激しさを増していった。
 まるで熱帯気候で起きるスコールだ。温帯の日本ではスコールは起こり得ないが、近年の夏にはスコールのように短時間で雨量の多い雨が降ることも少なくない。ゲリラ豪雨とも呼ばれている。今降り出した雨は、まさにそれだった。
「ああ、もう! 『樹形図の設計者』がなくなってから天気予報もアテになんないわね。あんた傘とか……って、何?」
「う……いや」
 今までと打って変わって、急によそよそしさを見せる上条の態度に美琴は言うまでもなく訝しんだ。そわそわして落ち着かず、気味が悪いというよりも不安になる。
「何なのよ? 雨降って来たんだから、どっかで雨宿りでも」
「別にどうってことはないんだろうけど、ただなんとなく」
「は?」
 何言ってんだコイツ? と首を傾げてふと気がついた。
 雨で濡れるということは服も濡れて、服は常盤台女子の制服であり、制服にはサマーセーターも規定の服装になっているから透けることはなく、けれど激しい雨足は衣服を体にピッタリと密着させるに充分な効果を発揮する。ピッタリ密着するということはそれだけ体のラインが強調されることに繋がり、年頃の乙女にしてみれば下着が見えていなくても異性には見られたくない姿になっていた。
「きっ……」
 学園都市屈指のお嬢様学校である常盤台中学。その常盤台中学のエースにして学園都市第三位に位置する『超電磁砲』の二つ名を持つ御坂美琴の口元が大きく歪み、けれど続くと思われた悲鳴は響かず、代わりに放たれたのは無制御の電撃。
「どわーっ!」
 右手の『幻想殺し』で消し去る暇もない。いや、消し去る以前に美琴の雷は雨水で拡散されて、投網のように広がっている。消し去ろうにも消し去れない。唯一の救いは、拡散していたからこそ威力が削がれていたということだろうか。
「ば……バカァあああああああっ!」
 他の余計な言葉は一切なく、恥じらう乙女そのままに羞恥の気持ちを覆い隠す一言を放って、美琴はバシャバシャと雨の中を走り去っていった。
 往来のど真ん中でノビている上条当麻が発見されたのは、一時的な豪雨が去って晴れ間が戻ってきてからだった。
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★無題
NAME: NONAME
久々の短編良かったっすw三人称でも違和感無く読めました。「とある」は大好きなんでまた書いて欲しいです。
2008/09/07(Sun)08:37:19 編集
また何かあれば書きたいところですが、最大の問題は三人称でしょうか。ずっと一人称で書いてたものですから、これがまた馴染まないというか難しく……。
それでもそのうち、また書きたいと思いまーすw
【2008/09/08 03:17】
★無題
NAME: ron
さすがにのまえさんだー。美琴を選ぶセンスも見事ですよ!!
久々にハルヒ以外のSSを堪能させていただきました!
2008/09/07(Sun)11:22:18 編集
美琴はさらっとうわべだけをなぞるならわかりやすい性格してるもんで、手始めにはチョイスしやすいキャラですねー。ここでまさかの御坂妹か御坂母にすべきだったでしょうか?w
【2008/09/08 03:18】
★無題
NAME: 蔵人
おおー禁書だ、しかも美琴!自分でもやってみたいけど三人称に慣れなくなってんですよね。
これは他のキャラも見たくなりますねー。
URL 2008/09/08(Mon)04:58:57 編集
手始めに、って意味合いもありますから、まずは王道から攻めてみましたw 他キャラはー……まぁ、余裕があったらということで!
【2008/09/09 00:45】
★無題
NAME: 古音
すっきりしていて読みやすく、お話も原作でありえそうな状況でにんまりとしてしまいました。
同じ状況だと・・・御坂妹も面白そうですが御坂母はもっと状況的に先の展開が楽しめそう。
2008/09/08(Mon)09:37:05 編集
文字なもんで、「禁書の二次創作だ」とわかるように雰囲気を表現できればと思っていたところなので、そう言っていただけると有り難くヽ(´▽`)ノ

この話、もし御坂妹だとお色気部分がもうちょっと前面に出てたかなーと思います。母だと……うーん、逆にしっとりしたお話になってたかな? などと自己分析してみたり。
【2008/09/09 00:48】
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