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DATE : 2007/11/11 (Sun)
ちょっと今日は時間を取られすぎました。もうネムイヨー

ってわけで、SSだけ置いていきます。本日分で三章はおしまい。次回から四章になります。


前回はこちら
涼宮ハルヒの信愛:三章-e


 腰を下ろした佐々木は、同窓会開催までに終わらせておくべき作業のチェック表らしきものを広げ、作業の進ちょく具合を確かめながらテキパキと俺の作業進行具合を確認しつつ、あれやこれや書き込んでいる。
 その様子を見れば、おかしなところは何もない。いつものような難解で胡乱な言い回しに、本心を悟らせないような微笑みで表情を隠し、誰が見ても「変なヤツだな」とコメントするに違いない、俺の記憶にある佐々木だった。
「と、こんな感じで……ん? どうしたんだい、キョン? 人の顔をそんな不躾なまでにジロジロと見つめるのは、あまり褒められたことではないと思うよ。それとも、僕の顔に何かついてるかな?」
 言われるほどジロジロ見ていたつもりはないが、佐々木にはそう感じられたらしい。試すように目尻を下げてはいるものの、どこかしら挑むようなニュアンスも感じられる。俺が勝手にそう感じているだけかもしれないが。
「今日、ずいぶんと遅かったな」
「そうかな。確かに少し遅くなったとは思う。連絡したように、美容院に寄ってきたんだけどね、予約を入れていたのに少し待たされてしまった。何のための予約なのかと思わなくもないが、そんなことで騒ぐのも大人気ないので気にしていないけど……ふむ、キミがそこまで時間を気にするとは思わなかった。申し訳ない」
 俺だって、そこまで時間に厳しいわけじゃない。でなけりゃ、いつもいつもSOS団の連中に奢っちゃいないさ。それはそうと……はて? 前髪をつまみながら連絡云々と言う佐々木だが、そんなもんをもらった覚えはさっぱりないんだけどな。
「メールだよ。今日の待ち合わせ場所と、少し遅れる旨を記しておいたじゃないか。それを確認したからこそ、ここにいるんじゃないのかい?」
 メール? さっぱり覚えが……って、ああ。橘からのスパムメールに紛れて、佐々木からの連絡も届いていたのか。同じ内容のものばかりで、最初の数件を確認しただけであとは一括消去したもんだから、その中に佐々木からのも紛れ込んでいたのかもしれない。
「すまん、返信するのも忘れてたな」
「いいさ、別に」
 もちろん佐々木からのメールなんて確認してないが、かといって九曜に連れてこられたってことは言わない方がよさそうだ。そもそも、ここであいつらと会談していたことを、佐々木も知らないようである。話の内容が内容だけに、あいつらも佐々木には秘密で動いているらしい節もあるから、藪をつついて蛇を出す発言は避けた方が無難だろう。ここはさっさと話題を変えた方がよさそうだ。
「なぁ、佐々木」
「なんだい?」
「最近、どうだ?」
 そう聞いてみたら、まるで喉に餅でもつまらせたかのような表情を浮かべられた。そんなに妙な事を聞いたつもりじゃないんだが……その表情はいったい何を言いたいんだ?
「あまりにも他愛もないことを聞いてくるものだから、返答に困るじゃないか。本当にどうしたんだ、キョン。また何かあったのかい?」
「ただの日常会話じゃないか」
「それはそうだが、キミがそこまで在り来たりなことを聞いてくるなんて、そうそうある事じゃない。何か悩みでもあるのなら、解決できるかは別としても話を聞くだけなら聞いてあげようか? もちろん、他言はしないよ」
「別に何も悩んじゃいないが」
「そうかい? 悩みも葛藤もまったくない人生は幸せだと言う人もいるが、それはそれで虚しい人生だと僕は思うね。悩みというのは、解決を求める思考の旅じゃないか。人は考えることができるからこそ価値がある。考えるのをやめれば、人は人たり得ないと僕は思うよ」
「何を言いたいのかさっぱりだが、それならおまえも何か悩みがあるのか?」
 例えば……閉鎖空間の中に、そこの管理人みたいな橘でさえ正体が掴めないような代物を取り込んじまうようなこと、とかな。
「僕の悩みかい? そうだな……例えば、せっかく美容院に行ってきたばかりだというのに、気の利いたコメントのひとつも言えない朴念仁にどうやって文句を言うべきか……とかかな」
「え? ああ」
 そういやそんなこと言ってたな。言ってたが、パッと見た感じでは、どこをどうカットしたのかさっぱりだ。間違い探しをしてるんじゃないんだから、そんな微細な変化を突っ込めと言われても、何をどう言えばいいんだ? まぁ……日常会話を振るなら、最近どうだって聞くよりも、髪型云々の方が今の状況では適切かもしれんが。
「似合ってるんじゃないか?」
 こういうときの定型句は決まってるようなので、俺も先人たちの言葉に習ってそう言えば、おまえは何が言いたいんだと喉もとまで言葉が飛び出してくるほど、佐々木にしては珍しい呆気に取られた表情を見せつけやがった。
「いや……何と言うか……キョン、本当に何かあったんじゃないだろうね? キミがそんなことを言うなんて驚きだ。それこそ驚天動地だ。もしや余命幾ばくもない不治の病に冒され、辞世の句の代わりにそんなことを言ってるんじゃないだろうね?」
「すまん、今のは嘘だ」
「残念だがね、キョン。紙に書いた文字は消せるが、言葉というものには消しゴムがないのだよ。人の耳に届いた言葉を消すことなど誰にもできないものなのさ。何も裏がないというのであれば、ふふ、素直にありがとうと言わせてもらうよ」
 さて……この佐々木を見るに、やはりいつもと違うところを見出すことができない。佐々木が作り出しているという閉鎖空間の中で、確かに好めで妙な黒い塊を見てはいるものの、それが佐々木自身に何らかの影響を与えているとかと問われれば……NOと答えてよさそうだ。
 なら、あれはいったい何なんだろうな。発生した原因はあるのかもしれないが、ニキビようなもんで、自然発生して自然完治するような、それほど気に掛けるものではないのかもしれない。
「さて、と。話を同窓会に戻させてもらうが、ひとまず現段階で僕らにできることは一通り済ませた感じだね。具体的な日程に関しては、須藤に任せてよさそうだ。それでその須藤だが、ひとまず明日、見舞いがてらに進ちょく状況の報告に病院まで行こうかと思っている。そもそも僕らは臨時の幹事だからね、ある程度のセッティングを済ませたら、あとは彼に丸投げしてもいいだろう。キミもその方がいいんだろう? そういうわけだから、明日もできれば時間を作っておいてもらいたい」
「そういうことになるとは思っていたよ。ただ、午後から予定があるからな、午前の早い時間なら問題ない」
「予定って?」
「ハルヒが海に行くと言い出したんだ。どうやら俺も行かなくちゃならないらしい」
「ああ……なるほどね。それなら仕方がない。なら、午前の面会時間に行くとしよう。少し早いが、朝八時に駅前公園でいいかな?」
「ああ」
「では、遅れずに来てくれたまえ。遅刻すれば、それだけキミの予定も後ろにずれ込むことになるからね。それで……今日はどうなんだい? この後、何かあるのかな?」
「ん? あー……」
 ここはやっぱり、喜緑さんの待機命令を無視するのは自殺行為なんだろうな。
「まだ少し、やることがある」
「それは残念だ。久しぶりに送ってもらおうかと思ったが、実に多忙を極めているようだね、お疲れさま」
「なんで俺はこんなに時間がないんだろうな」
「それがキミの性分というヤツなんだろうさ。ではキョン、実に名残惜しいがこれで失礼するよ。また明日」
「ああ、またな」
 佐々木は言葉通り、何故か名残惜しそうに俺を見て、軽く手を振って店を出て行った。その姿はやっぱり佐々木であって、いつもと同じように見える……のだが、何故だろう、上手く言えないが、その後ろ姿は最後に残した言葉同様、心なしか本当に名残惜しそうに見える。
 どうしてそう見えたのかは……さて、俺にもよく解らない話だ。
「それで」
「うわっ!」
 そんな佐々木の後ろ姿をぼんやり眺めてから居住まいを正したら、目の前にバイト用のエプロンを外した喜緑さんが、にっこり微笑みながら座っていた。いつの間に、などと思うのも、もううんざりするような唐突さだ。
「いったい彼女たちと、どのような悪巧みをされてたんですか?」
 何故に悪巧みと決めつけるんだ。
「気のせいか喜緑さん、俺のことを穿った目で見てませんか?」
「とんでもない。楽しそうなことばかりを起こす方だと認識しておりますもの。せっかくですので、協力できないことはないかと伺ってるまでです」
 気が滅入るような嬉しい申し出だ。そこまで言うのなら仕方がない……と言うよりも、俺が改めて口にするまでもなく、これまでの会話は盗聴されていてもおかしくない気がする。
「佐々木とは同窓会の打ち合わせで、橘たちとは……って、なんでそんな話までしなけりゃならんのですか」
「わたし、被害者ですもの」
「被害者?」
 あいつらが喜緑さんに何かできるわけもなく、かといって今のこの場所では俺と話をしていただけで何もしてないと思うんだけどな。
「あの天蓋領域の周防九曜です。他所のお客様のコップを倒すんですもの。後片付けに奔走させられました。いい迷惑です」
「あいつが? そんな真似、してないと思いますけど」
「しました。こんな風に」
 と、喜緑さんは九曜が去り際にしたようにコップを指で弾いた。そんなことをすればコップが揺れるのは当たり前なのだが、どういうわけか触れてもいないコップもかたかた揺れている。
「共振です。普通にすればこんな店内でそんなことは起こりませんが、あの小娘、発生させた音波を一定方向にのみ流れるように情報操作してまして、他所のお客様のコップを震えさせてひっくり返したんですよ。イタズラにも程があります」
 そんなことしてたのか。そんな真似をしたのはつまり、ここに喜緑さんがいることを承知の上での嫌がらせ? あいつの行動はあまりにも突飛だな。
「それで、何を話してコップをひっくり返す話になったんでしょう?」
「いや、ただ単に佐々木が作り出した閉鎖空間内に妙な黒い塊がありまして、それが何かと聞いただけなんですけど」
「黒い塊?」
 それについては、改めて語るのも億劫だ。森さんに続いて喜緑さんにも同じ話をしなけりゃならんとはね。
「どう思います?」
「どうと言われましても。つまりあの小娘が言いたいことは、その黒い塊とやらは共振による何かだと言いたいのではありませんか?」
「だから、それがどういう意味なのかってことですよ」
「わたしに解るわけがありません。それこそ本人に聞いてください」
 九曜に聞けっつったって、あいつがまともに話せるとは思えない。何より、あいつから話を聞くにもどこにいるのかもさっぱりだ。
「そんなことより朝倉さんです。何か解ったことや、起きたことはありませんでしたか?」
「あいつが現れてないのは言うまでもないですね。森さんも、朝倉が時間遡航したって話は知らないみたいですよ。ただ、何かあったようなことは言ってましたが」
「そうですか。それならやっぱり、地道に待つしかありません。大変ですね」
 そんな他人事みたいに言われても。俺としては、佐々木の閉鎖空間に発生した黒い塊のこともあるし、関わるならどっちかだけにしたい気分だ。ベストなのは、どちらにも関わらずに済むことなのは言うまでもない。
「今回は長丁場になるかもしれませんねぇ」
 ああ……まったくだ。いつ現れるのか解らないヤツを待ち続けるのも嫌になる。いっそのこと、朝比奈さんに頼んで過去の朝倉を締め上げた方が早いんじゃないかとさえ思えて来た。そんなことを頼んでも却下されそうではあるが。
 本当に、いつまで続くんだろうな、こんなことがさ。


 ──などと、俺は諦めの境地でのんびり事を構えていた。
 ところが。
 喜緑さんの予想とは裏腹に、事態は瞬く間に一変したのである。それも、俺が予想もしていなかったまったく別方面で。
 それは翌日の朝、俺の携帯を鳴らしたひとつの連絡が始まりだった。

つづく
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★無題
NAME: 喪男歴774年
共振やら何やらのくだりで、ちょっと理科の授業を思い出した。面白い事するじゃないか九曜さん。

ところで俺、どこのブログに書き込んでこんな変な名前固定になったのだろうorz
2007/11/11(Sun)20:40:27 編集
言葉で通じないなら行動で示せばイイジャナイ! と、九曜さんは考えたようですw
そういえばこのお名前、うちのブログでは2007/5/18でも使われてますね( ̄ー ̄)
【2007/11/11 23:45】
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